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オカン公爵令嬢は潜入する。

22話 謎解きの時間(3)

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「…………うん……まぁ良いよ。で……作られた世界ってなに?さっきからやたら強調してるけど?」

 何が良いのか分からないけど良いにしよう。深く考えてはいけない。俺の愛する人である麗が大事にされているから良いじゃないか!こう考えないと、泣きそうだ……。

 そんな俺の決意を見抜いているかの様に、オヤジは再びメガネをクイッとあげた。

「咲夜だってこの国には違和感ばかりだろう?日本の風景と物語の中の風景がミックスされたような……チープな空間。そう思ってないかい?」

「思ってるよ。でもオカンが仕様って言ってたから気にしない様にしてた。でもそれは麗を誤魔化すためって言ってたね」

「そうよ、私達だって元は『アイタソ』ってゲームの世界だけど、そのままじゃないわ。ゲームのイラストのままの姿ではないし現実に乗っ取った形になってるし、ちゃんと現実よ。でもこの世界は違う。全体的に物語の様……そもそも男だけでどうやって国が栄えるのよ!」

「え……でも俺の記憶でも、この国は男だけってなってるよ?」

「本当に?ちゃんと思い出しなさい!あんたの記憶は改竄されてるのよ!それを前提に思い出しなさい‼︎」

「……改竄⁉︎」
 物騒な言葉が出た!と驚きながらも記憶をたどる……。オカンの言葉には逆らえない――そして――。

「あ――」
「思い出したみたいね?」

 オカンの言葉にうんうんと頷く。そうだった!忘れてた!と思えてしまうなんて、記憶の改竄させられていた事実が怖い……まったく違和感なく受け入れていた。

「あんたみたいにこの国の人はみんな記憶を改竄させられて、『ムーンバタフライ』の配役にさせられてるの。私達は別ルートを使ってこの国に入ったから影響はないけど、あんたはバッチリ記憶を弄られて配役のひとりにされていたの……。だからこあんたにゲームの攻略をさせていたの」

「ようはこの国に異変が起きてて、その異変を解決するためには、俺がゲームの攻略する必要があると思ったんだね?」

「そうよ……でももうダメね。麗ちゃんがあの様子だと、これ以上は厳しいわ。男同士でかつゲームの世界の攻略と言ってれば、麗ちゃんの嫉妬も抑えられると思ったのに。結果ダメだったわね」

「初めは大丈夫だったけれど、段々嫉妬が抑えられなくなったね。さすが愛の神の加護を受けるもの……あの嫉妬の力は恐ろしいね」

 ふたりの深いため息を見ていると本当に大変だったらしい。俺だって麗をもう泣かせたくない。麗以外を口説くなんて嫌だ。

「じゃあ、どうするの?このままゲームを攻略するのは諦めて、他の方法を使うの?」

「無理よ……調べたけどちっともこの国にかかってる魔法が分からないもの。だから仕方ないけど、ムーンバタフライをクリアするしかないわ」

「ああ、あとひとりだよね?確か……」

「あんたはだめよ。これ以上はさせられないわ、また麗ちゃんに暴走されては堪らないもの。続きは雅也さんがやるわ」

 意外な言葉に目を瞬きオヤジを見ると、なぜかパサっと髪を翻した。すると見る間に髪が金色に変わり、さらに紅い瞳も青くなる。そして……立ち上がった姿は妖艶な姿から一変して、見るからに美青年に変わる。すっと立った姿は海外の映画の主役級のかっこよさだ。

「髪も――短くなるんだ?」

「容易いことだよ。言っただろう?この世界は作られた世界だ。僕がこの世界の王子役をすると受け入れれば姿は変わる。明日からは僕が攻略するよ、だから咲夜はここで保険医でもしていたまえ」

「それが……仕様?」
 オヤジは驚く俺の言葉に頷き、オカンに流し目を送りるとともに、そっと微笑みを口に灯す。
 
「それで良いんだよね?燈子さん」

 随分と色気を込めたオヤジの姿だったが、オカンはまったく気にせずに、普通に腕を組んだまま、納得する様にコクリと首を落とした。
 
「そうね。雅也さんがやった方が効率は良いでしょう。それにこの世界を作った人間の思惑からも外れるからちょうど良いわ」

「……そうだね、効率良く攻略するよ。僕には勝利の神をついているしね」

 オカンはそれには応えずに、勢いよくベッドから降りた。そして俺に向かってニヤっと笑う。

「どう?今までの流れが分かった?」

「あ……うん。だから、俺に試練を与えたい試練の神が、俺を誘拐しようとした人間を手伝って、俺は拐われた。そして拐われた先であるこのルーナ国は、何者かによって前世のゲームの世界、『月に集う蝶の宴』、通称『ムーンバタフライ』の世界観にされていて、国民全てがその配役を担ってる、で大丈夫?」

「そうよ、だからその犯人を捕まえて、この閉ざされた世界を元に戻すのよ?良いわね」
 
 なんだか随分と大事になっている……とは思うけれど、この世界は現実だ。他国のことではあるけれど、できるならこの歪な世界から救ってあげたい。今の俺にはそれができるだけの力があるのだから!

「さて、そろそろ麗ちゃんが起きそうだ。燈子さんは先に帰ってくれる?咲夜とふたりで話があるんだ」

「……分かったわ。私たちは寮に戻るわね」
 その一言を残し、オカンは転移していった。
 残ったのは俺をオヤジ……。

「話ってなに?」
 俺の質問にオヤジの目がキラリと光った。
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