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オカン公爵令嬢は潜入する。

5話 美麗な父は苦悩する (4)

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「そのムーンバタフライって何ですか?私はやっていないゲームですよね?」

「そうねぇ……ムーンバタフライはエロBLゲームだし、何より正真正銘のクソゲーだったから、麗ちゃんには進めなかったの。なにせ本当に面白くなかったから!」

 痛む頭を無視して、更に気を取り直して、話しを進めよう。あまりにも呑気な雰囲気だけど、咲夜は拐われたのだから。

「僕達がゲームの世界に転生しているんだ。同じ事があってもおかしくないね。ちなみにその、ゲームの内容は?」

「ムーンバタフライはそれまでのゲームと逆パターンを狙った画期的なゲームだったの。普通の恋愛ゲームは主人公が様々な攻略対象を攻略して行くんだけど、このゲームは攻略対象者が1人で、攻略者が4人の男なの。だからゲームでは3人のライバルと競い合いながら、攻略対象者を落とすのよ」

「へー珍しいですね」
「もしかして、レオポルド次期自治領主が攻略対象者なのかな?」

「いいえ、違うわ。攻略対象者は留学してきた魔力の強いどこかの国の王子って設定だったわ。ルーナ共和国は魔力の強い伴侶を得て、子供を作れたものが元首になれるっていう設定だったの」

「んんん??待って、男同士なのに子供ができるの?」
「まぁ、ゲームだしね」
「良くあるパターンですよね」

 良くあるんだ……。色々聞きたいけど、止めよう。疑問を飲み込むのも大人として大事なことだ。

「うん、それで何の謎が解けたんだい?燈子さん」
「だから、この世界はクソゲーの世界だってことよ!」

「そう……なんだ」

 ああ、これ以上何を言えば良いのだろう。咲夜……僕にはそろそろ限界が来そうだよ。

 そもそも前世で52歳死んだ僕は、神も幽霊も死後の世界も信じないバリバリの現実主義者だった。燈子さんだって小説やゲームが好きだったけど、神も仏も信じず、神に祈ってる暇があったら行動を起こせ!的な説教する人だった。いや、今だって祈りを今か今かと待っている、献身の神に祈りを捧げていないけれど……。

 それは、ともかく咲夜と違って頭が凝り固まった年齢だった僕が転生して、しかもそれがゲームの世界に転生したってだけで理解し難いのに、クソゲーの世界とか、BLとか、男同士で子供ができるとかもう、意味が分からない!

「雅也さんがフリーズしましたね……」
「うーん、ロード中かしら。この手の話は理解が遅いのよね」
「それにしたって、燈子さんはクソゲー好きですよね?」

「だって世の中がクソゲーって言ったって、私にもそうかどうかは分からないじゃない?それに、不味いって言われてるものはやっぱり一度は食べてみたいでしょう?まぁ、ムーンバタフライは正真正銘のクソゲーだったけど……」

「何がそんなにダメだったんですか?なんか斬新で面白そうな気がしますけど?」

「私も初めはそう思ったんだけど、でも、攻略対象は同じなわけでしょ?つまりプレイヤーは変わっても、攻略の仕方はそれほど変わらないのよ。やる事と言ったらどうやって恋敵ライバル達を排除するかってこと。まぁ、絵が上手なイラストレーターを起用していたから、スチルは最高だったわよ。特にエロ画が良かったわ~、攻略対象者の王子がまた美しくってエロくてヤバかったのよね。満月を溶かしたように淡い金髪に、夜から朝に変わるときの紺から青のグラデーションの瞳で、受けも攻めもどちらもこなすのよ。
だから頑張ってやったんだけど、シークレットキャラが出る前に、やめちゃったわ。飽きて……」

「なんでですか?絵も綺麗だったんでしょ?」

「攻略対象者は綺麗だったけど、攻略者の4人がイマイチでね。世界観もまとまりがなかったし。イラストレーターも背景はうまいんだけど、なんかキャラに魅力がなくて……、エロ画とその背景に咲く花は上手だったわ」

「えーやってみたかったなぁ。年齢制限ありで、エロありで、子供ができたら元首になるってことは、舞台は学園物じゃなくて、城とかですか?」

「違うわよ、学校よ。ピエナ学園、男子校。ジェラルド・ヌオヴァを含めた他の攻略者達も同じ学園に通ってるの」

「男子校と言えば……あれですよね」
「あれよね」

 ふたりは互いに目配せし、僕を見た。そろそろ会話に入れと言うことだろう。

「わ、分かった……とりあえずルーナ共和国含めて手の者にアダルベルトの行方を探らせるね。今のフォルトゥーナ国の状況はどうなの?」

「王妃様は咲夜くんが拐われたのを見て気絶しちゃったんで、私が寝室に運んで、王都を守る結界は私が張りました!絶対に破られないのを作ったから大丈夫ですよ!」

「そうなんだ……それは安心だね」
 どんな結界だろう……。怖いから聞かないでおこう。

「では結果が分かるまで、騒がないように王と王妃に言ってくれるかな?国の面子に関わることだ。まぁ、切れ者だと言われている現フォルトゥーナ王だ。大丈夫だとは思うけどね」

「はーい」と手を挙げて、麗ちゃんは帰って行った。相変わらず理解不能な転移で。

「私も自分の手の者に調べさせるわ」
 そして燈子さんも帰っていく。やっぱり理解不能な転移魔法で。
 
 僕は天井を見上げて、ため息をつく。

 なんだか嫌な予感がする……そう思いながら。
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