World End

nao

文字の大きさ
上 下
230 / 273
第8章:王国決戦編

接敵

しおりを挟む
 凄まじい地響きとともに、研究施設内が激しく揺れた。ジンの闘気を目指して通路を駆けていたハンゾーは思わず立ち止まる。一瞬感じた禍々しい力の波動はジンの近くから感じられた。

「ジン様……!」

 揺れが収まるのも待たずに、ハンゾーは再び駆け出した。暫く進んでいくと、床に巨大な穴が出来ていた。その穴は吹き抜けとなって、地上まで続いていた。下からは明かりが輝いている。目を凝らすと、誰かが倒れていた。

「あれは……」

 ハンゾーはすぐさま穴に飛び降りる。無事着地した彼の目に右肘から先を無くし、血を流して気絶しているジンの姿が飛び込んできた。

「ジン様!」

 慌てて駆け寄ると、意識は無いものの、息はしていた。それに安心しつつ、患部を見ると、最低限の止血はされていた。正確には何か空気の膜のようなものが傷口を覆っていた。

「ジン様、起きてください」

 ジンを軽く揺すると、暫くして彼は目をゆっくりと開けた。

「ハ……ンゾー?」

「はい、ハンゾーにございます。一体何があったのですか? シオン殿は?」

 朦朧とした様子のジンにハンゾーが尋ねる。

「シオ……ン。シオン! つっ!?」

 一気に意識が覚醒し、ジンは起きあがろうとして、無い右手を地面につけようとして、痛みに顔を歪めた。

「大丈夫ですか?」

「ああ、それより、俺はどれぐらい寝ていた? お前はいつ来たんだ?」

「つい先程です。諸々計算したとして、恐らく10分ほどかと思います」

「そうか」

「腕は治せそうですか?」

「ん? ああ、そうだな」

 ジンは意識を無くした腕に向ける。だが一向に回復が始まらなかった。術を発動している感覚が確かにあるのに、腕の再生に何かが邪魔をしているようだった。

「おかしい。治らない」

 苦痛に顔を歪ませながら、ジンが呟く。

「もしや、腕を止血しているその空気の膜が妨害しているのでは?」

 ハンゾーがジンの切断された腕の先を指さした。その途端、術が解除されたのか、切断面から血が溢れ出した。

「もう一度やってみる」

 しかし結果は同じだった。一向に腕が治る気配は無かった。

「どうなっているんだ?」

 ジンは歯噛みする。とりあえずこのままだと血を流しすぎるので、傷口を塞ぐことにする。今度は上手くいき、無事に出血は止められた。

「血は止められたみたいだ。なのに腕は治せない」

「それではいかがいたしましょうか」

 ハンゾーの質問に、ジンは自分の右腕を見ながら答えた。

「とりあえず、シオンを探すぞ。何があったかは、走りながら教える」

~~~~~~~~~

「こいつはひでぇ」

 アレキウスの前には酷たらしい惨状が広がっていた。あたりに飛び散った肉片の数々はもはや人間としての原型を留めていなかった。血の量を考えてみても、少なくともこの場には10人以上の人間がいたはずだ。しかし、誰も生きているものはいなかった。

【お主か】

 突如頭上から聞き覚えのある声が響いてきた。アレキウスが上を見ると、そこには漆黒のドレスを身に纏ったシオンがいた。

「よう。こんな所で何してんだシオン」

 軽口を叩くも、彼女から醸し出されている雰囲気は彼の知るものではなかった。それよりも、少し前に同じような気配を感じた事をすぐに思い出した。

【かかか、気づいておるくせに、知らないふりをするのは馬鹿の真似事か?】

 その言葉を聞いて、アレキウスは面倒臭そうに頭をガシガシ掻きながらため息をつく。

「はぁ、やっぱりか。だがどうやって生き延びた? あの時、確かにあの小僧がお前を倒したはずだが?」

【なに、少しツキがあっただけよ】

「ツキがあっただけで四魔が生き残るんじゃねぇよ」

 アレキウスの額にはいつの間にか汗が滲んでいた。

「それに、随分力が増しているみたいじゃねえか」

 まだ戦闘態勢を取っていないのに、目の前にいる少女から放たれる力の波動は以前対峙した時よりも遥かに増していた。

【なに、魂が元の一つに戻っただけよ。これでもまだ力は完全ではない】

「そいつは良いこと聞いたぜ。つまり今のお前ならまだ少しは勝ち目があるってことだな」

【かかか、自惚れるなよ。それは無い】

 その言葉を言い切る前に、アレキウスは右掌から『焔龍』を放った。通常の『炎龍』よりも高火力のそれが法魔に襲いかかる。

「うらぁぁぁぁ!」

 すぐさま左手を法魔に向けると風法術『嵐』を放つ。炎が風に煽られて勢いを増した。さらにアレキウスは両手を地面につけると、土法術『金剛牢』を発動する。炎の嵐を囲むかのように強靭な壁が出来上がり、そのまま上部まで完全に覆い、法魔を炎ごと封じ込める。

「少しは効いてるか?」

 アレキウスは警戒を解かずに牢獄を睨む。すると、すぐにヒビが入り、アレキウスに向かって3匹の『焔龍』が飛んできた。

「ちっ!」

 それを転がりながら回避すると、今度は四方から『嵐』が迫ってきた。その上避けた龍達が方向を転換し、アレキウスの方へと再度向かってきた。

「くそがっ!」

 その攻撃を躱しつつ、法魔の方に目を向けると、そこには無傷のままの法魔が立っていた。ドレスにすら汚れ一つない。

【ほらほら、避けねば死ぬぞ】

 法魔は楽しげに指揮棒でも振るかのように指を動かす。それに沿って龍が空を駆け、風が踊り狂う。

「うおおおおおお!」

 アレキウスは雄叫びを上げながら、回避を続け、法魔の隙を狙い、攻撃を繰り出した。

~~~~~~~~

「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

 しかし、わずか数分で彼の体力はつきかけていた。

【随分と辛そうだな】

 法魔の言葉にアレキウスは内心で舌打ちをする。想像以上に疲労している理由は明白だった。空気が極端に薄いのだ。

「空気を操ったのか?」

【ほう、気づいたか。だがもう遅い】

 パチンと指を鳴らすと龍と風が掻き消えた。

【我が糧になるがいい】

 そう言った瞬間、アレキウスの前に法魔が立っていた。動くそぶりすら一切見せなかったため、彼は目の前に現れた事を認識し、思わず固まった。

「しまっ……!」

【死ね】

 法魔はアレキウスの胸に右手を置いた。ぐちゃりという音が周囲に響き、アレキウスが血を吐き出しながら法魔に倒れ込んだ。それに当たらないように、法魔は後ろに『転移』する。

 現世に存在する事象ならば法魔は真似る事ができる。例えそれが無神術によって生み出された術であっても、それが可能であると立証された時点で法魔には扱えるのだ。もっとも、法魔自ら新たな理を創る事が可能である。だからこそ、全ての『法』を統べる『魔』という名が冠されている。

 アレキウスの心臓を転移で抜き取った法魔は、右手にあるそれを見て舌なめずりをする。未だにドクッ、ドクッと心臓が脈動する。法魔は小さな口を限界まで開けて、それに齧り付いた。

「あ……あ」

 アレキウスは薄れゆく意識の中、その様子を見続けた。

~~~~~~~~~

「シオンよ。なにを食しているのだ?」

 イースが夢中になって食事をしている法魔に話しかける。

【ふむ? 誰だ?】

「おいおい、私を忘れたというのか?」
 
 法魔はこめかみを右手の人差し指でついて目をつぶる。

【ああ、この国の王か。名は……イースか】

「それで、お前の自己紹介をしてくれないか?」

【かかか、これは失礼。我が名はレト。四魔の一角である法魔の名を関する魔人よ】

「なるほど。それで、その体の本来の持ち主はどうした?」

【我が内にて眠っておる。目覚める事は期待するなよ】

「それは残念だ。では、お前は何をしていたのだ?」

【なに、お前の部下を食っていただけよ】

 そう言うと、法魔は楽しそうに下に転がっていた頭を持ち上げる。法魔が割ったのか頭頂部は開かれ、中に入っていたモノは無くなっている。片目は喰われたのか、すでに無く、涙を流しているかのように血が流れている。

【さすが使徒だけあって、他の人間よりも何倍も美味いな】

「そうか」

 イースは信頼する王国騎士団長の無惨な死骸を見てピクリと眉を動かすも、冷静さを維持する。

【それで、お前はどうする? 敵討ちでもするか?】

 馬鹿にしたようにレトは尋ねる。

「ふむ、そうだな。我が国の安全の為にも、大切な部下の弔いの為にも、今ここでお前を葬るとしようか」

【かかか、ならばかかって来るが良い】

「そうさせてもらおうか」

 イースは来ていたマントを脱ぎ、腰に差していた長剣を引き抜いて構えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!

マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です 病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。 ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。 「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」 異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。 「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」 ―――異世界と健康への不安が募りつつ 憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか? 魔法に魔物、お貴族様。 夢と現実の狭間のような日々の中で、 転生者サラが自身の夢を叶えるために 新ニコルとして我が道をつきすすむ! 『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』 ※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。 ※非現実色強めな内容です。 ※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。

黒白の護り手~黒に染まりし運命の娘~

織月せつな
ファンタジー
遥か昔、神族と魔族との聖戦があった。 魔族の王を封じることで勝利は神族のものとなったが、疲弊著しい神々は勝利に導いた一部の人族に能力を与え、魔族の王の封印の守護とし、また聖戦中に生み出され、敗戦により世界へ散り散りとなった魔物と、残存する魔族から人々を守る為に国を治める者とした。 能力を与えられた者たちはその証に背に翼を持ち、天遣族と呼ばれるようになる。 後に天遣族以外に、人族の中で特別な能力を持って生まれる者たちがいた。彼らは自身を犠牲として魔族や魔物を鎮める。残酷とも言える運命を受け入れて散って行く彼らは、敬意を持って神子と呼ばれていた。 その日、アメリアたち新任神子は、天遣族の元へ旅立つ前の式典に参加していた。これから精神的にも肉体的にも能力を磨き、国を守る犠牲となる為に。 しかしそこへ魔物の襲撃が。大量の蜘蛛の出現に衆人は恐怖し、贄となるように命じられたアメリアは……。

7年ぶりに私を嫌う婚約者と目が合ったら自分好みで驚いた

小本手だるふ
恋愛
真実の愛に気づいたと、7年間目も合わせない婚約者の国の第二王子ライトに言われた公爵令嬢アリシア。 7年ぶりに目を合わせたライトはアリシアのどストライクなイケメンだったが、真実の愛に憧れを抱くアリシアはライトのためにと自ら婚約解消を提案するがのだが・・・・・・。 ライトとアリシアとその友人たちのほのぼの恋愛話。 ※よくある話で設定はゆるいです。 誤字脱字色々突っ込みどころがあるかもしれませんが温かい目でご覧ください。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

司書ですが、何か?

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 16歳の小さな司書ヴィルマが、王侯貴族が通う王立魔導学院付属図書館で仲間と一緒に仕事を頑張るお話です。  ほのぼの日常系と思わせつつ、ちょこちょこドラマティックなことも起こります。ロマンスはふんわり。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

処理中です...