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第5章:ファレス武闘祭
朝稽古2
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翌早朝、ジンとシオンは約束どおりいつもの場所で朝稽古を始めた。唯一違うことがあるとすれば、彼らが試合稽古をしているということだ。
シオンの木剣がジンの胴へと伸びる。それを難なく回避すると今度は彼の方から詰め寄って彼女に木剣を振り下ろす。だがそれを彼女は当然のごとく読んでおり、わずかに横にずれて躱した。そこで両者ともに一旦距離をとって睨み合う。
「別に法術使ってもいいんだよ?このままじゃ僕が勝っちゃうよ」
シオンはジンを挑発する。実際に確認するとやはり彼の剣の型は彼女が修めるディユナール流にそっくりだ。ジンは知らないと言っていたがおそらく彼に剣を教えた人物はディユナール流の門下だったのだろう。
「いやいや、そういうお前こそ使ったらどうだ?もう息切れしてるぜ」
彼女は知らないがジンは法術が使えない。そのため彼女の言葉は彼にとって挑発にすらならない。だがその言い方に少しカチンときたジンは挑発し返す。
「いやいや、僕が力を使ったらジンは死んじゃうでしょ」
「はあ?むしろ逆だろ」
「へえ、言うじゃないか。それじゃあ避けてみなよ!」
「くっ!」
彼女は空中に『水弾』を6つ作ると発射してきた。まだジンが幼い頃、今は亡き友人のレイが見せてくれたものとは比較にならないほどのスピードで生成、発射されるそれを彼は巧みに躱していく。
常人には避けることも難しいその攻撃は、闘気をコントロールすることに長けている彼にとって恐ろしいものではない。高速で移動する物体を目で認識し、足を強化して素早く移動する。その結果6発の『水弾』はあらぬ方向へと飛んで行った。それを最後まで確認せずにジンは一気に彼女の元に駆け寄る。
だがシオンはそんな彼に向かって笑う。それを見てジンの本能が警鐘を鳴らし、彼は咄嗟に背後に気を配る。後方から先ほどの『水弾』がジンの方へと飛んできていることに気がついた。
「ちっ!」
この術は『操水』と『水弾』の合わせ技、『操水弾』だ。文字通り『操水』とは水を操るもっとも初歩的な法術だ。水法術の使い手が最初に習得するものである。だがこれは基礎であると同時に奥義にすら通じるとシオンは昔教わった。なぜなら『操水』を完全に習得することができれば、理論上は相手の水法術さえ奪うことができるからだ。『操水』とは言ってしまえば水に対する支配力だ。強力な術を発動しても、その発動者よりも優れた支配力を有していれば放たれた術を術者に返すこともできる。
この考え方をかつて教えてくれたあの人には会えなくなって久しい。もし自分の考えが正しければおそらくすでに死んでしまったのだろう。後になって父親に付きそって法術師団長のウィリアム・ハントに会った時に、試しにそのことを聞いて見たところやはり彼も同じことを言っていた。
だがこの『操水』を鍛錬することを怠る者の方が多い。ではなぜ皆がそれを鍛えないのかと彼女が尋ねると、『まあ皆も水を操るなんて地味な訓練より大技の方が格好良いからね。どうしてもそっちが疎かになっちゃうんだよ。で、気がついた時には最も細かい技術力が鍛えられるゴールデンエイジを過ぎちゃってる、ってわけさ。それよりお嬢ちゃん、あと7年、いや8年したらもう一度ここにおいで』と言っていた。
後半部分は少し犯罪臭を感じさせるが、『操水弾』はその時彼に教えてもらった術だ。使い勝手が良いのと初見殺しであるため、威力はそこまでではないが対人戦で重宝している術の一つだ。
ジンは気がつくのが遅れたため回避できないと判断した。咄嗟に脚の他に腕を強化させ、邪魔な木剣を地面に落としす。最初に飛んできた二発を拳で叩き落とすと、その体を流れのままに回転させて蹴りを4連続で放った。水飛沫が宙を舞う。
「へぇ、やるじゃん。でもさ、これならどうだ!」
宙に浮いた水が突如集合すると、ジンの顔を包み込んだ。シオンは空中に浮かぶ水を『操水』で一纏めにして、『水牢』を発動したのだ。
「ガボッ」
法術『水牢』は本来相手の行動を束縛するための檻を作る技だ。しかし使い方次第では相手を水死させることもできる。ジンは水を飲んで息ができず、見る見るうちに顔を青くさせていく。
「ほらほら降参しないと死んじゃうよ!」
シオンの言葉は届いていないが、顔を見ればジンにはなんとなく何を言っているかが分かった。腹が立ったので本気を出そうかと考えて、止める。彼女に負けるのは少々、いやかなり悔しい。だがだからと言ってここで本気を出すのも問題だ。いくら気になる少女だとしても、全てを見せることができるほど彼は彼女を信頼していない。
彼が両手を挙げて降参の意を示すと直ぐにシオンは術を解除する。バシャリと真下の地面に水の塊が落ちた。おかげでジンの服はビショビショだ。
「…おい」
「あ、ごめんごめん」
少し恨めしそうに睨むと、彼女は謝ってくるがあまり反省の色は見えない。ジンはその顔を見て溜息を吐いた。
~~~~~~~~~~~~
とりあえず濡れたままでは夏とはいえ冷えるので上着を脱いで乾かす。下も濡れていて気持ちが悪いがさすがに少女の前で全裸になることはできない。稽古も大体終わったので二人は座りながら雑談をしていた。
「ところでさ、昨日ジンの剣の型がディユナール流じゃないかって話してたけどさ。やっぱりそうだと僕は思うよ」
「ふーん、なんで?」
「動きの節々にね、その型が隠れているって感じがするからね。あ、でも最後の4連回し蹴りは初めて見たな。あれ確か20年ぐらい前の師範代が作った技のはずだけど、今じゃ習得している人の方が少ないって話だし」
「へぇ、どんな師範代だったんだ?」
ふとその人物が気になってジンは質問する。もしウィルがディユナール流なのだとしたら、その人物がウィルに技術を教えたのかもしれない。つまり彼の過去を知っているということだ。もともとウィルが人間界でどんな風だったのか少し気になってはいたのだ。
「師範代?えっと、確かヴィレム・ディユナールって人だったかな。ザンデリオ・ディユナールの直系で、元冒険者だって話だよ。冒険者時代に体術の重要性に気がついたって言って、ディユナール流に元々あった体術をより洗練させたり追加したりした人らしい」
「ヴィレム・ディユナールか。その人はまだこの街にいるのか?」
「いや、いない。というよりも行方不明っていうのが正しいかな」
「行方不明?」
「うん、奥さんと一緒に20年ぐらい前にね」
「へぇ、理由は分からないのか?」
「うーん、師範によるとなんか子供が死んだとかで夫婦共々少しおかしくなったらしくて、或る日忽然と居なくなったらしいよ」
「…子供が死んだ?」
「うん、魔物に殺されたんだって」
「…その奥さんの名前ってわかるか?」
「えっと、確かマリなんとかだったはず」
そこまで聞いてジンは理解した。ウィルがディユナール流なのは当然だ。彼こそがヴィレム・ディユナールその人なのだから。確かにあの二人はここで、この世界で生きていたのだ。ふとウィルのことを思い出す。エデンから出てもう半年にはなるが彼はまだ生きていてくれるだろうかと。
「もしかしたら、ジンの育ての親はその師範代の直弟子だったのかもね」
「ははは、そうかもな」
ジンは笑った。ウィルとマリアのルーツを少しだけ知ることができた。それが嬉しかったのだ。そして自分の中にある彼らとの確かな繋がりを感じることができたのだから。笑っている彼をシオンは不思議そうに眺めていた。
~~~~~~~~~~~
「さてと、今日はこれぐらいにするか」
「そうだね、あんまりのんびりしていると遅刻しちゃうしね」
「おし、じゃあ行くか」
ジンは立ち上がって彼女に手を差し伸べる。シオンはその手を取ってスッと立ち上がった。
「ふふん、今日は僕の勝ちだったね」
シオンは得意そうに笑う。そんな彼女のおでこにジンは軽くデコピンをする。
「うぎゃっ!何すんだよ!」
彼女は以前とは異なり、その痛みに嬉しそうな顔を一瞬浮かべると、怒ったような顔を態とらしく作ってから怒り出す。
「はははは、ざまあ!」
そんな彼女を見て頬を緩めてから、キリッと顔を戻して手を軽く挙げてから全身を強化して一気に駆け出した。後ろにいる彼女もきっと試験の日のことを思い出しているだろう。そんなことを考えて少し胸が温かくなった。
シオンの木剣がジンの胴へと伸びる。それを難なく回避すると今度は彼の方から詰め寄って彼女に木剣を振り下ろす。だがそれを彼女は当然のごとく読んでおり、わずかに横にずれて躱した。そこで両者ともに一旦距離をとって睨み合う。
「別に法術使ってもいいんだよ?このままじゃ僕が勝っちゃうよ」
シオンはジンを挑発する。実際に確認するとやはり彼の剣の型は彼女が修めるディユナール流にそっくりだ。ジンは知らないと言っていたがおそらく彼に剣を教えた人物はディユナール流の門下だったのだろう。
「いやいや、そういうお前こそ使ったらどうだ?もう息切れしてるぜ」
彼女は知らないがジンは法術が使えない。そのため彼女の言葉は彼にとって挑発にすらならない。だがその言い方に少しカチンときたジンは挑発し返す。
「いやいや、僕が力を使ったらジンは死んじゃうでしょ」
「はあ?むしろ逆だろ」
「へえ、言うじゃないか。それじゃあ避けてみなよ!」
「くっ!」
彼女は空中に『水弾』を6つ作ると発射してきた。まだジンが幼い頃、今は亡き友人のレイが見せてくれたものとは比較にならないほどのスピードで生成、発射されるそれを彼は巧みに躱していく。
常人には避けることも難しいその攻撃は、闘気をコントロールすることに長けている彼にとって恐ろしいものではない。高速で移動する物体を目で認識し、足を強化して素早く移動する。その結果6発の『水弾』はあらぬ方向へと飛んで行った。それを最後まで確認せずにジンは一気に彼女の元に駆け寄る。
だがシオンはそんな彼に向かって笑う。それを見てジンの本能が警鐘を鳴らし、彼は咄嗟に背後に気を配る。後方から先ほどの『水弾』がジンの方へと飛んできていることに気がついた。
「ちっ!」
この術は『操水』と『水弾』の合わせ技、『操水弾』だ。文字通り『操水』とは水を操るもっとも初歩的な法術だ。水法術の使い手が最初に習得するものである。だがこれは基礎であると同時に奥義にすら通じるとシオンは昔教わった。なぜなら『操水』を完全に習得することができれば、理論上は相手の水法術さえ奪うことができるからだ。『操水』とは言ってしまえば水に対する支配力だ。強力な術を発動しても、その発動者よりも優れた支配力を有していれば放たれた術を術者に返すこともできる。
この考え方をかつて教えてくれたあの人には会えなくなって久しい。もし自分の考えが正しければおそらくすでに死んでしまったのだろう。後になって父親に付きそって法術師団長のウィリアム・ハントに会った時に、試しにそのことを聞いて見たところやはり彼も同じことを言っていた。
だがこの『操水』を鍛錬することを怠る者の方が多い。ではなぜ皆がそれを鍛えないのかと彼女が尋ねると、『まあ皆も水を操るなんて地味な訓練より大技の方が格好良いからね。どうしてもそっちが疎かになっちゃうんだよ。で、気がついた時には最も細かい技術力が鍛えられるゴールデンエイジを過ぎちゃってる、ってわけさ。それよりお嬢ちゃん、あと7年、いや8年したらもう一度ここにおいで』と言っていた。
後半部分は少し犯罪臭を感じさせるが、『操水弾』はその時彼に教えてもらった術だ。使い勝手が良いのと初見殺しであるため、威力はそこまでではないが対人戦で重宝している術の一つだ。
ジンは気がつくのが遅れたため回避できないと判断した。咄嗟に脚の他に腕を強化させ、邪魔な木剣を地面に落としす。最初に飛んできた二発を拳で叩き落とすと、その体を流れのままに回転させて蹴りを4連続で放った。水飛沫が宙を舞う。
「へぇ、やるじゃん。でもさ、これならどうだ!」
宙に浮いた水が突如集合すると、ジンの顔を包み込んだ。シオンは空中に浮かぶ水を『操水』で一纏めにして、『水牢』を発動したのだ。
「ガボッ」
法術『水牢』は本来相手の行動を束縛するための檻を作る技だ。しかし使い方次第では相手を水死させることもできる。ジンは水を飲んで息ができず、見る見るうちに顔を青くさせていく。
「ほらほら降参しないと死んじゃうよ!」
シオンの言葉は届いていないが、顔を見ればジンにはなんとなく何を言っているかが分かった。腹が立ったので本気を出そうかと考えて、止める。彼女に負けるのは少々、いやかなり悔しい。だがだからと言ってここで本気を出すのも問題だ。いくら気になる少女だとしても、全てを見せることができるほど彼は彼女を信頼していない。
彼が両手を挙げて降参の意を示すと直ぐにシオンは術を解除する。バシャリと真下の地面に水の塊が落ちた。おかげでジンの服はビショビショだ。
「…おい」
「あ、ごめんごめん」
少し恨めしそうに睨むと、彼女は謝ってくるがあまり反省の色は見えない。ジンはその顔を見て溜息を吐いた。
~~~~~~~~~~~~
とりあえず濡れたままでは夏とはいえ冷えるので上着を脱いで乾かす。下も濡れていて気持ちが悪いがさすがに少女の前で全裸になることはできない。稽古も大体終わったので二人は座りながら雑談をしていた。
「ところでさ、昨日ジンの剣の型がディユナール流じゃないかって話してたけどさ。やっぱりそうだと僕は思うよ」
「ふーん、なんで?」
「動きの節々にね、その型が隠れているって感じがするからね。あ、でも最後の4連回し蹴りは初めて見たな。あれ確か20年ぐらい前の師範代が作った技のはずだけど、今じゃ習得している人の方が少ないって話だし」
「へぇ、どんな師範代だったんだ?」
ふとその人物が気になってジンは質問する。もしウィルがディユナール流なのだとしたら、その人物がウィルに技術を教えたのかもしれない。つまり彼の過去を知っているということだ。もともとウィルが人間界でどんな風だったのか少し気になってはいたのだ。
「師範代?えっと、確かヴィレム・ディユナールって人だったかな。ザンデリオ・ディユナールの直系で、元冒険者だって話だよ。冒険者時代に体術の重要性に気がついたって言って、ディユナール流に元々あった体術をより洗練させたり追加したりした人らしい」
「ヴィレム・ディユナールか。その人はまだこの街にいるのか?」
「いや、いない。というよりも行方不明っていうのが正しいかな」
「行方不明?」
「うん、奥さんと一緒に20年ぐらい前にね」
「へぇ、理由は分からないのか?」
「うーん、師範によるとなんか子供が死んだとかで夫婦共々少しおかしくなったらしくて、或る日忽然と居なくなったらしいよ」
「…子供が死んだ?」
「うん、魔物に殺されたんだって」
「…その奥さんの名前ってわかるか?」
「えっと、確かマリなんとかだったはず」
そこまで聞いてジンは理解した。ウィルがディユナール流なのは当然だ。彼こそがヴィレム・ディユナールその人なのだから。確かにあの二人はここで、この世界で生きていたのだ。ふとウィルのことを思い出す。エデンから出てもう半年にはなるが彼はまだ生きていてくれるだろうかと。
「もしかしたら、ジンの育ての親はその師範代の直弟子だったのかもね」
「ははは、そうかもな」
ジンは笑った。ウィルとマリアのルーツを少しだけ知ることができた。それが嬉しかったのだ。そして自分の中にある彼らとの確かな繋がりを感じることができたのだから。笑っている彼をシオンは不思議そうに眺めていた。
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「さてと、今日はこれぐらいにするか」
「そうだね、あんまりのんびりしていると遅刻しちゃうしね」
「おし、じゃあ行くか」
ジンは立ち上がって彼女に手を差し伸べる。シオンはその手を取ってスッと立ち上がった。
「ふふん、今日は僕の勝ちだったね」
シオンは得意そうに笑う。そんな彼女のおでこにジンは軽くデコピンをする。
「うぎゃっ!何すんだよ!」
彼女は以前とは異なり、その痛みに嬉しそうな顔を一瞬浮かべると、怒ったような顔を態とらしく作ってから怒り出す。
「はははは、ざまあ!」
そんな彼女を見て頬を緩めてから、キリッと顔を戻して手を軽く挙げてから全身を強化して一気に駆け出した。後ろにいる彼女もきっと試験の日のことを思い出しているだろう。そんなことを考えて少し胸が温かくなった。
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アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。
※諸事情によりしばらく連載休止致します。
※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。
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