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 夕飯後、今日も今日とて、レヴィは聖女候補たちに囲まれていた――。
 彼女たちの目的は、レヴィではない。
 レヴィのローブのポケットにおさまる人気者――見た目は可愛いが、性格は中年のおじさん――であるロッティだった。

 初めはレヴィの手のひらサイズだったロッティだが、今ではずっしりと重みを増しており、黄色だった毛は赤く生え変わりつつあった。
 それでも外面そとづらのいいロッティは、とうの昔に聖女候補たちを攻略しており、現在、オヤツを爆食いしていた――。

「とても可愛いですわっ!」

「ええ、癒やしです。私も、小さな鳥を飼いたいですわっ」

「でも、飼い主がレヴィ様だから、これだけ大人しいのでは? 普通の鳥は、ピーピーと、もっとうるさいでしょう?」

 褒め言葉をくれたマリアンナだが、普通の鳥を知らないレヴィは、ただ微笑を浮かべた。

『いつもピーピーと話しているのは、お前だろう。俺様を、普通の鳥と一緒にするな! ゲプッ』

 散々オヤツをもらっておきながら、ロッティがマリアンナに悪態をつく。
 臭い臭いと、ロッティはどうしてかマリアンナのことが嫌いなのだ。

(マリアンナ様は石鹸のいい匂いがするし、臭いのは、どちらかといえば、ゲップばかりしているロッティさんなんだけど……)

 下品な鳥を撫でるレヴィは、餌やりを終えた聖女候補たちと別れ、自室に戻る。

 さっと湯浴みを終えたレヴィは、寝台に腰掛け、知らぬ間に溜息をこぼしていた。
 ウィンクラー辺境伯夫夫からの贈り物を受け取ってから、早半年――。
 窓の外を見れば、しんしんと、粉雪が音もなく降り続けている。


 異世界から勇者を召喚する儀式は、未だ成功していない――。


 そのせいで、魔物討伐を行っているテレンスたちは、苦戦を強いられている。
 そんな中、特にレヴィが気にかけているのは、ベアテルだった。
 全身に魔物の血を浴びて帰還し、誰とも言葉を交わすことはない。

(治癒は、僕が指名されてはいるけど……。仕方なく、といった形なのかもしれない――)

 安全な場所でも、常に神経を尖らせているベアテルは、聖女候補たちから怖がられている。
 『人喰い熊』という異名までつけられているが、国民のために戦っている者に対して失礼だと、レヴィは憤りを覚えていた。
 今も凍えるような寒さの中、魔物と戦い続けているのかと思うと、レヴィの胸が痛む――。

『なあ、ご主人様。俺様は、一体いつまで禁酒生活を強いられなければならないんだ? ゲプッ』

 ふかふかとした、レヴィの手作りベッドで横になるロッティが、ゲップをする。
 下品な鳥なのだが、見慣れた光景故に、レヴィは注意することを諦めていた。

「――あのね、ロッティさん。人間でも、お酒は成人してからって決まっているの。それなのに、まだ生後半年のロッティさんが、お酒を飲めるわけなんてないでしょう?」

『ハァ。だから俺様は、千二百歳だって言ってんだろお? 長年、浴びるように酒を飲んでいたんだから、今更――』

「うんうん、わかったよ。それより、クローディアスくんは、元気かなあ? 僕も鳥だったら、辺境伯領までひとっ飛びだったのに……。会いたいなあ」

『…………おい、最後まで聞けよ』

 相変わらずのマイペースだと、ロッティが話している声を聞きつつ、レヴィは小果実を用意する。
 ロッティの話によると、レヴィの瞳の色より濃い紫色の果物は、クローディアスの好物だそうだ。
 クローディアスは肉食獣だと思われているが、実際には違う。

(いつか、ベアテル様にも教えてあげたいな……)

 テレンスには、動物と意思疎通が図れることは、秘匿するようにと言われている。
 しかし、何の根拠もないのだが、ベアテルなら信じてくれそうな気がする、とレヴィは思っていた。

『最初のご主人様は、俺様をバルドヴィーノと呼んでいた。勇敢な友だと、話してくれていたんだぞ? それなのにレヴィときたら、俺様を下品なおっさん扱いしてるよなあ? アーデルヘルムは、治癒能力こそレヴィには劣るが、ご褒美の酒はたらふくくれたぞ!』

「……アーデルヘルム? 初代国王陛下と同じ名前だね?」

『そうだ。俺様が王にしてやった』

「ふふっ、今日のお話もおもしろいね。どうやったら、そんなに想像力が豊かな鳥になれるの? ロッティさんのおかげで、元気が出た、よ――」

『……は!? おとぎ話とでも思っていたのか!? 経験談だぞ!? ……おい、可愛い顔で寝るなっ! 一日だけでいいから、夜更かしくらいしてみせろっ!!』

 ロッティの叫びは、瞬く間に眠りについたレヴィには届いていなかった――。













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