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 ――二年後。

 十五を迎えたレヴィは、今日も教会で祈りを捧げていた。
 他の聖女候補たちより多くの時間を費やしているものの、レヴィの治癒の力に変化は訪れない。
 周りはどんどん力を増しているというのに、レヴィだけが取り残されているような気分になっていた――。

(だからといって、落ち込んでいてもなにも変わらない)

 僅かとはいえせっかく治癒能力を授かったのだ。
 国の為に役に立ちたいと思うレヴィは、ひたすら祈りを捧げている。
 祈りの時間が長ければいいというわけではないのだが、自分にできることはなんでもしたいと思うレヴィは、誰よりも熱心に学んでいた。
 それは、自他共に厳しい聖女アニカですら、舌を巻くほどだった。

 それでも、レヴィに活躍の場は訪れない。
 重傷者はアニカが担当するものの、軽傷者は皆、確実に癒やしてくれる相手を選ぶ。
 そして今は聖女候補たちも駆り出されるようになっているのだが、レヴィに治癒を頼む者は誰ひとりとしていなかった――。

「レヴィ様。そろそろ騎士の方々がいらっしゃいますよ」

 レヴィにそっと声をかけたマリアンナが、優しい笑みを浮かべる。
 焦りからか、肩に力が入っていたレヴィは自然と微笑んでいた。
 くるくるとした癖のある髪と、垂れた目元が愛らしいマリアンナは、子爵家出身だ。
 身分は低いが、優秀な聖女候補である。

 滅多に指名されることのないレヴィに出番はないのだが、こうして声をかけてくれる気遣いの出来る優しい人だ。

「今回は負傷者が大勢出たみたいです」

「――そうでしたか」

 胸を痛めるレヴィが沈んだ声で話せば、マリアンナは慌てたように言葉を紡ぐ。

「あっ。もちろん、テレンス殿下はご無事ですよ? 今回も、ボスにトドメを刺されたようです」

 知らぬ間に俯いていたレヴィがぱっと顔を上げれば、マリアンナは安堵したように頬を緩めた。
 聖女候補お披露目の儀式の翌日から、魔物の動きが活発化し、平和な日常が少しずつ変化していた。
 そして国民に被害が出る前に、ドラッヘ王国の優秀な騎士団が派遣されている。
 その中に、剣術に秀でたテレンスも、もちろん含まれていた。

 よってレヴィは、テレンスとベアテルと顔を合わせる機会はめっきりと減ってしまっている。
 しかしテレンスは、この二年間で群れを率いるボスを討伐し、功績を挙げ続けているのだ。
 国民だけでなく、貴族の間でもテレンスを国王にと推す声が大きくなっている。
 それでも驕ることのないテレンスのことを、レヴィはとても誇らしく思っていた。

「僕もお力になれたらよいのですが……。皆様にご迷惑を――」

「なにを仰いますッ!!」

 治癒をするための広間に向かっていたレヴィの背に、耳をつんざくような声が届く。
 声を荒げたのは、レヴィと同年代の聖女候補たちだった。

「まだ聖女候補でしかない私たちに活躍の場を与えてくださったのは、レヴィ様なのですよ!?」

「そうです!! 私たちがこうしてお役目を全う出来るのは、レヴィ様を見習って努力した結果なのです!!」

 十名ほどの令嬢たちが、聖女候補らしからぬ勢いで、熱い言葉をかけてくれる。
 レヴィが密かに羨ましいと思う皆の琥珀色の瞳は、本心を語っているように見えた。

(……僕は、なにもしていない。みんなが努力した結果なんだ。……それに、僕はみんなの足手纏いだとばかり思っていた――)

 誰かに褒められる為に日頃から努力をしていたわけではなかったレヴィだが、たまらなく目頭が熱くなっていた。
 いつか、己の努力が報われる日が来たらいいと思っていたのは、レヴィだけではなかったのだ。













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