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しおりを挟む神聖な教会では、暖かな夕焼け色をした光があちこちで舞っていた。
真新しい白いローブを着た聖女候補たちが、魔物退治で怪我を負った騎士たちの手を取る。
緊張しつつも、堂々と、神秘的な力で次々と傷を癒やしていく。
聖女候補として集められた若者たちが、初めて治癒能力を使用したのだ。
騎士からは感謝され、国のために貢献することができたと、家族と喜びを分かち合っている。
彼女たちの眩い笑顔は、輝かしい未来への希望に満ち溢れており、共に切磋琢磨してきたレヴィにとっても、喜ばしいことだった。
(……僕は、なぜここにいるのだろう……)
しかし、その輪の中心にいるはずだったレヴィは教会の隅で気配を消していた。
努力は必ず報われると思っていたが、そうではなかった。
聖女候補のお披露目をする晴れの舞台で、誰にも選ばれることなく、ひとり絶望の淵に佇むレヴィが天を仰ぐ。
見慣れているはずの優美な天井画は、息を吞むほどの美しさだった――。
この度招集された十三を迎えた聖女候補の中で、男性はレヴィただひとり。
悠久の歴史を持つドラッヘ王国だが、異例のことだった。
そして優れた治癒能力を授かる者は、総じて身分の高い者が多い。
よって、シュナイダー公爵家の人間であるレヴィが、その身に治癒能力を宿している可能性があると発覚した時、それはそれは期待されていたのだ。
三歳の時点で多くの者から求婚され、第二王子殿下の婚約者の座におさまった。
レヴィが望んだわけではなかったが、とても幸運なことだと思う。
なにせ婚約者のテレンスは、好青年だったのだ。
教会で生活しているレヴィのもとに足繁く通い、とても大切にしてくれていた。
文武両道で、レヴィと同じ歳の頃には、大型の魔物を討伐した経験もある。
いずれは魔王討伐部隊を率いることになるであろうテレンスの力になれると、レヴィは治癒能力を持って生まれたことを、神に感謝していたのだ。
しかし、今し方。
レヴィの治癒能力は、擦り傷を癒やす程度の僅かなものでしかないと、残酷な事実が知らされたばかりだった――。
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