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第十章
231 計画通り ※
しおりを挟むゆったりと口付けをして唇が離れるのだが、視線が交わるとまた唇が重なる。
いつもは恋人を気持ち良くすることだけに専念し、少しだけ暴走気味のランドルフ様だが、今は穏やかで甘い雰囲気だ。
口付けながら服を脱がせると、ランドルフ様も俺の破れたシャツに触れたが、その手を下させる。
不思議そうに俺の名を呼ぶランドルフ様の足の上に跨り、シャツが肩からずり落ちるが、気にせずしなだれかかる。
「このまま、しよ?」
「っ…………」
にこりと微笑むと、くわっと目を見開いたランドルフ様が息を呑んだ。
乱れたままが好きらしいから、提案してみたのだが、ぽたりと赤いものが垂れる。
「あ、す、すみません……」
真っ赤な顔で狼狽える氷の貴公子様は、どうやら興奮してしまったようだ。
慌てて鼻血を拭う恋人が可愛くて、そっと口付けて癒しを送ると、ランドルフ様の肩の力が抜ける。
「イヴ……」
「ん。なに?」
「嫌いにならないで、ください……」
熱っぽく俺を見つめるランドルフ様の掠れた声に、背筋がぞくりとした。
無言で視線を逸らした俺は、枕元に置かれた革製の拘束具を手に取り、俺の右手につける。
予想だにしていなかったのか、高速で瞬きをするランドルフ様にくすりと笑いながら、彼の左手にもつけた。
「運命の赤い糸ならぬ、黒い手錠?」
「っ…………ふふっ。私たちにぴったりです」
「俺もそう思います。でも、俺よりラルフ様の方が似合ってるけど」
指を絡めて手を繋ぐと、初めて自分に使ったと呟くランドルフ様が、柔らかな笑みを浮かべる。
俺にだけ見せてくれる、いろんな表情を見ることが出来て、嬉しく思う。
ぎゅっと抱きついて赤紫色の髪に、にやけた顔を埋める。
ゼラニウムの香りを堪能していると、甘い香りが漂い、腰を抱かれる。
とろりとした指先が後蕾に触れ、ビクッと体が反応すると、円を描くようにゆっくりと動いた。
いつもならすぐにぐちゃぐちゃにされるのだが、今日は俺を甘やかすような優しい手付きだ。
「んぅ…………ん…………は、ぁっ…………ラルフ、さま……んぁッ」
可愛いと甘い声で囁かれて、中を行き来する指を締め付ける。
広げるように動く指が、しこりの部分を掠めて、勝手に腰が揺れる。
「ぁっ……ん、ぁあっ……もう、欲しい……」
「っ、」
ずるりと指が抜けて、亀頭が押し当てられる。
少し苦しいが、ゆっくりと落ちていき、ぐぷぐぷと飲み込んでいく。
良いところをゴリッと抉られて、だらしない顔で快感に震える俺を凝視するランドルフ様は、険しい表情で腰を揺らす。
「あっ……ぁッ……きもちい、い……ラルフさま……もっと……奥にっ、あぁああぁッ!」
「っく……」
ぐっと突き上げられて、先端が奥まで届く。
頭の中が真っ白になり、ガクガクと痙攣する俺を掻き抱くランドルフ様から、愛おしげに頬ずりをされる。
口付けながらゆるゆると突き上げられて、身も心も満たされていく。
一緒に幸せを感じるひと時に、ランドルフ様への愛が爆発している俺は、宰相殿の事前の計画通りに昼までくっついていた。
◆
最後に一目だけでも会えないかと、ギリギリまで期待していたアルベニアの王女たちは、癒しの聖女様の姿を見ることなく、落胆したまま馬車に押し込められていた。
「やっぱり怒らせてしまったのよ……」
「ちゃんと反省したのにっ」
「あなたたちのせいで、私まで追い返されることになったのよ! 心から反省なさいっ!」
「っ……お母様だって、癒しの聖女様に抱かれたいって言ってたくせにっ! お父様に言いつけてやるんだから!」
「まあ! そんな性格だから癒しの聖女様に嫌われたのよっ!」
アルベニア国の恥を晒す王族に、唯一見送りに来た元王子が、盛大に溜息を吐く。
「自分の行いを棚に上げて、罪をなすりつけ合う哀れな女共だ」
「っ……ギルバート……」
憎悪の目を向けられても、まったく気にしていない深紅の髪の美青年。
「癒しの聖女様はな、お前たちみたいな醜い心の持ち主が大っ嫌いなんだよ。わかったならさっさと消えろ」
「あんたなんかに言われる筋合いはないわよ!」
「そうよ! 平民の血が流れてるくせにッ!」
その言葉を待っていたギルバート様は、ニタリと口角を上げる。
「ククッ。勇者ガリレオ殿は、元平民だぞ? 息子のイヴにも伝えておいてやるよ。お前たちが、平民を見下しているクソみたいな奴らだってな?」
喚いていた王女たちが言葉を失い、青褪める。
馬車の扉を雑に閉めたギルバート様は、母国に帰っていく元家族を見送った。
「まあ、俺が言えるような立場じゃないんだけどな?」
「かっこよかったですよ! ギルバート様」
肩を竦めるギルバート様は、こっそりとついて来ていたアレン君の頭をわしゃわしゃと撫でる。
「僕、諦めませんから。ギルバート様がイヴ様を好きだったとしても」
「…………ハァ。イヴのことは好きだけど、伴侶にしたいとか思ってねぇから。だから爵位もいらねぇって言ったんだよ」
「っ、それなら」
「俺がアレンに優しくしてたのは、癒しの聖女様かもしれないって思ってたからなんだよ。それを知っても、まだ好きでいられるか? 無理だろ」
腰に手を当て、後悔するように告げたギルバート様を、アレン君が真っ直ぐに見つめる。
「気付いていました」
「……は?」
「と言っても、クラリッサ様のことを知った時にですけど……。それでも僕は、ギルバート様が大好きですっ!」
驚いた様子のギルバート様は、罰が悪そうな顔で髪を雑に掻いた。
「騎士爵、もらっておけばよかったか……」
「えっ?」
「なんでもない。もう行くから」
「は、はい……」
去り際に、しゅんとするアレン君の肩に、ギルバート様が手を乗せる。
「仕事が終わったら特別室集合な?」
「っ、はいッ!!」
自分の一言で、泣きそうになったり笑顔を見せたりと、コロコロと表情の変わるアレン君を見つめるギルバート様は、久しぶりに心からの笑みを浮かべていた。
…………らしい。
手錠の鍵を紛失したと、真顔で嘘を吐くランドルフ様と繋がったままの俺は、報告に来てくれた護衛に生暖かい目を向けられながら、話を聞き終えたのだった。
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