上 下
246 / 280
第十章

231 計画通り ※

しおりを挟む

 ゆったりと口付けをして唇が離れるのだが、視線が交わるとまた唇が重なる。

 いつもは恋人を気持ち良くすることだけに専念し、少しだけ暴走気味のランドルフ様だが、今は穏やかで甘い雰囲気だ。

 口付けながら服を脱がせると、ランドルフ様も俺の破れたシャツに触れたが、その手を下させる。

 不思議そうに俺の名を呼ぶランドルフ様の足の上に跨り、シャツが肩からずり落ちるが、気にせずしなだれかかる。

 「このまま、しよ?」
 「っ…………」

 にこりと微笑むと、くわっと目を見開いたランドルフ様が息を呑んだ。

 乱れたままが好きらしいから、提案してみたのだが、ぽたりと赤いものが垂れる。
 
 「あ、す、すみません……」
 
 真っ赤な顔で狼狽える氷の貴公子様は、どうやら興奮してしまったようだ。

 慌てて鼻血を拭う恋人が可愛くて、そっと口付けて癒しを送ると、ランドルフ様の肩の力が抜ける。

 「イヴ……」
 「ん。なに?」
 「嫌いにならないで、ください……」
 
 熱っぽく俺を見つめるランドルフ様の掠れた声に、背筋がぞくりとした。

 無言で視線を逸らした俺は、枕元に置かれた革製の拘束具を手に取り、俺の右手につける。

 予想だにしていなかったのか、高速で瞬きをするランドルフ様にくすりと笑いながら、彼の左手にもつけた。

 「運命の赤い糸ならぬ、黒い手錠?」
 「っ…………ふふっ。私たちにぴったりです」
 「俺もそう思います。でも、俺よりラルフ様の方が似合ってるけど」

 指を絡めて手を繋ぐと、初めて自分に使ったと呟くランドルフ様が、柔らかな笑みを浮かべる。

 俺にだけ見せてくれる、いろんな表情を見ることが出来て、嬉しく思う。

 ぎゅっと抱きついて赤紫色の髪に、にやけた顔を埋める。

 ゼラニウムの香りを堪能していると、甘い香りが漂い、腰を抱かれる。

 とろりとした指先が後蕾に触れ、ビクッと体が反応すると、円を描くようにゆっくりと動いた。

 いつもならすぐにぐちゃぐちゃにされるのだが、今日は俺を甘やかすような優しい手付きだ。

 「んぅ…………ん…………は、ぁっ…………ラルフ、さま……んぁッ」

 可愛いと甘い声で囁かれて、中を行き来する指を締め付ける。

 広げるように動く指が、しこりの部分を掠めて、勝手に腰が揺れる。
 
 「ぁっ……ん、ぁあっ……もう、欲しい……」
 「っ、」
 
 ずるりと指が抜けて、亀頭が押し当てられる。

 少し苦しいが、ゆっくりと落ちていき、ぐぷぐぷと飲み込んでいく。

 良いところをゴリッと抉られて、だらしない顔で快感に震える俺を凝視するランドルフ様は、険しい表情で腰を揺らす。

 「あっ……ぁッ……きもちい、い……ラルフさま……もっと……奥にっ、あぁああぁッ!」
 「っく……」

 ぐっと突き上げられて、先端が奥まで届く。

 頭の中が真っ白になり、ガクガクと痙攣する俺を掻き抱くランドルフ様から、愛おしげに頬ずりをされる。
 
 口付けながらゆるゆると突き上げられて、身も心も満たされていく。

 一緒に幸せを感じるひと時に、ランドルフ様への愛が爆発している俺は、殿昼までくっついていた。







 最後に一目だけでも会えないかと、ギリギリまで期待していたアルベニアの王女たちは、癒しの聖女様の姿を見ることなく、落胆したまま馬車に押し込められていた。

 「やっぱり怒らせてしまったのよ……」
 「ちゃんと反省したのにっ」
 「あなたたちのせいで、私まで追い返されることになったのよ! 心から反省なさいっ!」
 「っ……お母様だって、癒しの聖女様に抱かれたいって言ってたくせにっ! お父様に言いつけてやるんだから!」
 「まあ! そんな性格だから癒しの聖女様に嫌われたのよっ!」

 アルベニア国の恥を晒す王族に、唯一見送りに来た元王子が、盛大に溜息を吐く。

 「自分の行いを棚に上げて、罪をなすりつけ合う哀れな女共だ」
 「っ……ギルバート……」

 憎悪の目を向けられても、まったく気にしていない深紅の髪の美青年。

 「癒しの聖女様はな、お前たちみたいな醜い心の持ち主が大っ嫌いなんだよ。わかったならさっさと消えろ」
 「あんたなんかに言われる筋合いはないわよ!」
 「そうよ! 平民の血が流れてるくせにッ!」

 その言葉を待っていたギルバート様は、ニタリと口角を上げる。

 「ククッ。勇者ガリレオ殿は、元平民だぞ? 息子のイヴにも伝えておいてやるよ。お前たちが、平民を見下しているクソみたいな奴らだってな?」

 喚いていた王女たちが言葉を失い、青褪める。

 馬車の扉を雑に閉めたギルバート様は、母国に帰っていく元家族を見送った。

 「まあ、俺が言えるような立場じゃないんだけどな?」
 「かっこよかったですよ! ギルバート様」

 肩を竦めるギルバート様は、こっそりとついて来ていたアレン君の頭をわしゃわしゃと撫でる。

 「僕、諦めませんから。ギルバート様がイヴ様を好きだったとしても」
 「…………ハァ。イヴのことは好きだけど、伴侶にしたいとか思ってねぇから。だから爵位もいらねぇって言ったんだよ」
 「っ、それなら」
 「俺がアレンに優しくしてたのは、癒しの聖女様かもしれないって思ってたからなんだよ。それを知っても、まだ好きでいられるか? 無理だろ」

 腰に手を当て、後悔するように告げたギルバート様を、アレン君が真っ直ぐに見つめる。

 「気付いていました」
 「……は?」
 「と言っても、クラリッサ様のことを知った時にですけど……。それでも僕は、ギルバート様が大好きですっ!」

 驚いた様子のギルバート様は、罰が悪そうな顔で髪を雑に掻いた。

 「騎士爵、もらっておけばよかったか……」
 「えっ?」
 「なんでもない。もう行くから」
 「は、はい……」

 去り際に、しゅんとするアレン君の肩に、ギルバート様が手を乗せる。

 「仕事が終わったら特別室集合な?」
 「っ、はいッ!!」

 自分の一言で、泣きそうになったり笑顔を見せたりと、コロコロと表情の変わるアレン君を見つめるギルバート様は、久しぶりに心からの笑みを浮かべていた。


 …………らしい。


 手錠の鍵を紛失したと、真顔で嘘を吐くランドルフ様と繋がったままの俺は、報告に来てくれた護衛に生暖かい目を向けられながら、話を聞き終えたのだった。













しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!

貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン
ファンタジー
ブラック企業に勤めてたのがいつの間にか死んでたっぽい。気がつくと異世界の伯爵令嬢(第五子で三女)に転生していた。前世働き過ぎだったから今世はニートになろう、そう決めた私ことマリアージュ・キャンディの奮闘記。 ※この小説はフィクションです。実在の国や人物、団体などとは関係ありません。 ※2020-01-16より執筆開始。

処理中です...