179 / 280
第八章
173 昔とは逆
しおりを挟むまだデートすらしたことがない恋人にプロポーズをされて、浮かれてしまった俺は、大胆にも二人の子の名前を提案していた。
魔物の大群との戦いの後で、アドレナリンが出ていたせいである。
ただ祈っていただろう、という指摘は無視だ。
そのおかげで可愛い恋人の機嫌が直ったものの、俺の肋骨には確実にヒビが入っていた。
体調はバッチリのように思うが、精神面を心配してくれるエリオット様に、もう少し休むようにと促され、寝台で横になった。
「添い寝でもしたいところだが、魔物の王の討伐に向けて、作戦を考えてくる。きっとゴッドは眠れないはずだから、起きているだろう」
「はい。エリオット様も、無理しないで休んでくださいね?」
「ああ、愛してるよ」
さらりと愛の言葉を告げ、おやすみのキスを送ってくれたエリオット様は、清々しい表情でテントを出て行った。
「眼福だ……。なんて良い笑顔なんだ……。馬鹿力で俺の骨を折ったくせにっ」
顰めっ面で吐き捨てたが、くすりと笑う。
本当なら一緒にいたかったのに、今はセオドアがいることを考慮して出て行ったのだと、俺は気付いている。
やっぱりエリオット様は大人だ……。
少しだけ期待していた俺だが、平和が訪れた時には、いつでもイチャつけるのだとにんまりする。
「イヴ・ロズウェル……。クハッ……」
ダメだ、寝よう。
今だけは脳内お花畑でも許してくれと、国民たちに許しを乞いながら眠りについた。
◆
──翌朝。
いつも通りに起きていくと、既にみんなが集合していた。
輪になって作戦会議をしているようで、俺は邪魔にならないよう、遠くから見学する。
昨日は魔物の大群を討伐するという快挙を成し遂げたわけだが、話し合う団員たちは、思い悩むような真剣な表情だ。
俺の力を前に、即座に動けなかったことを反省しているらしい。
仕方のないことなんだけど、俺が倒れたから余計に悔いているようにみえた。
次からは倒れないように気をつけようと、俺もみんなと一緒に反省しながら、聞き耳を立てた。
「次は、絶対に失敗出来ない。イヴが生まれつき神々しいのは百も承知だが、なるべく視界に入れないようにしてくれ」
「いくら団長の言うことでも、それだけは無理だ。もう、自分の気持ちに嘘はつけないっ! 俺は、イヴ君を心から愛しているっ!」
真顔で頭のおかしなことを告げる俺たちの団長だが、立ち上がって宣言した癒しの聖女様の信者も、狂っている。
この二人が第一騎士団の幹部で本当に大丈夫なのかと、初めて思った。
「イヴ君には、団長のマントを頭から被ってもらいましょう!」
「それでも見ちゃうって。あの光景から目を逸らすなんて、視力を失わないと無理だろっ」
「癒しの力に目を慣れさせるために、バンバン力を使ってもらうとか?」
「そんなことを、私が許すわけがないだろう」
「…………どうせ自分だけ見せてもらうつもりなんだろっ」
「団長だけ狡いッ!!」
団員たちからブーイングされるエリオット様を初めて見たが、しらっとした顔で受け流していた。
ちなみに、堂々と俺への愛を語るゴッド副団長は、全員から無視されている。
それでも未だに語っているのだから、きっと会議の間もぺらぺらと喋っていたことが想像できて、頭が痛くなった。
「もはや作戦会議じゃないだろう……」
「彼らにとっては、それほどに深刻な問題なんですよ」
いつのまにか俺の隣に立つ純白の騎士は、団員たちの会話を特に馬鹿にした様子はなかった。
性根が腐った俺とは違って、セオドアは優しくて良い子なんだよな。
「テディー。おはよう」
笑顔で朝の挨拶をすると、フンとそっぽを向くセオドアだが、小さく「おはようございます」と答えてくれた。
癖のある肩まで伸びた金色の髪を下ろしているセオドアは、俺より大人っぽい。
髪を結ってやると兄貴面する俺は、義弟のお世話がしたくて仕方がないのだ。
無理やり椅子に座らせて、髪の上半分をまとめ、残り半分を下ろす。
「うん、格好良いな」
背後から顔を覗き込むが、視線を逸らされる。
苦笑いする俺は、第二騎士団は大丈夫なのかと、セオドアに忠誠を誓っている彼らの話を聞くことにした。
第二騎士団は、第一騎士団から移籍した俺の同級生たちが中心となって、南に向かったそうだ。
元々成績優秀な彼らがセオドアに鍛えられたおかげで、精鋭部隊と引けを取らない実力になっているらしい。
だが、他の団員たちは、人型の魔物と戦えるレベルには到達していない。
魔物の王は、確実に俺たちの近くに潜伏していると踏んでいたため、敢えてこの地から遠ざけたと話を聞いた。
セオドアなりに、団員たちのことを想っていることが伝わって来る。
俺を心配しすぎて責務を放棄したわけではないのだと知れて、嬉しく思った。
うんうんと話を聞いていると、会議を終えた団員たちに囲まれた。
「イヴ、体調は大丈夫か?」
「はい。おかげさまで」
優しく微笑むエリオット様に声をかけられて、笑顔を向ける。
他の団員たちからも、無理はしないようにと気を遣っていただいた。
みんなに囲まれて頬を緩ませていたが、俺たちから静かに離れるセオドアは、一人で精神統一している。
昔なら俺が一人で、セオドアがみんなに守られていたのに、なんだか複雑な気持ちになった。
「今日一日は休みにしようと思っている。魔物の王の捜索は、明日から本格的に始めるつもりだ」
「わかりました。じゃあ、少しだけセオドアと話して来ても良いですか?」
快く頷いてくれたエリオット様に感謝して、セオドアを連れ出すことにした。
29
お気に入りに追加
4,118
あなたにおすすめの小説
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる