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第八章

173 昔とは逆

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 まだデートすらしたことがない恋人にプロポーズをされて、浮かれてしまった俺は、大胆にも二人の子の名前を提案していた。

 魔物の大群との戦いの後で、アドレナリンが出ていたせいである。

 ただ祈っていただろう、という指摘は無視だ。

 そのおかげで可愛い恋人の機嫌が直ったものの、俺の肋骨には確実にヒビが入っていた。



 体調はバッチリのように思うが、精神面を心配してくれるエリオット様に、もう少し休むようにと促され、寝台で横になった。

 「添い寝でもしたいところだが、魔物の王の討伐に向けて、作戦を考えてくる。きっとゴッドは眠れないはずだから、起きているだろう」
 「はい。エリオット様も、無理しないで休んでくださいね?」
 「ああ、愛してるよ」

 さらりと愛の言葉を告げ、おやすみのキスを送ってくれたエリオット様は、清々しい表情でテントを出て行った。

 「眼福だ……。なんて良い笑顔なんだ……。馬鹿力で俺の骨を折ったくせにっ」

 顰めっ面で吐き捨てたが、くすりと笑う。

 本当なら一緒にいたかったのに、今はセオドアがいることを考慮して出て行ったのだと、俺は気付いている。

 やっぱりエリオット様は大人だ……。

 少しだけ期待していた俺だが、平和が訪れた時には、いつでもイチャつけるのだとにんまりする。

 「イヴ・ロズウェル……。クハッ……」

 ダメだ、寝よう。

 今だけは脳内お花畑でも許してくれと、国民たちに許しを乞いながら眠りについた。



 ◆



 ──翌朝。

 いつも通りに起きていくと、既にみんなが集合していた。

 輪になって作戦会議をしているようで、俺は邪魔にならないよう、遠くから見学する。

 昨日は魔物の大群を討伐するという快挙を成し遂げたわけだが、話し合う団員たちは、思い悩むような真剣な表情だ。

 俺の力を前に、即座に動けなかったことを反省しているらしい。

 仕方のないことなんだけど、俺が倒れたから余計に悔いているようにみえた。

 次からは倒れないように気をつけようと、俺もみんなと一緒に反省しながら、聞き耳を立てた。

 「次は、絶対に失敗出来ない。イヴが生まれつき神々しいのは百も承知だが、なるべく視界に入れないようにしてくれ」
 「いくら団長の言うことでも、それだけは無理だ。もう、自分の気持ちに嘘はつけないっ! 俺は、イヴ君を心から愛しているっ!」

 真顔で頭のおかしなことを告げる俺たちの団長だが、立ち上がって宣言した癒しの聖女様の信者も、狂っている。

 この二人が第一騎士団の幹部で本当に大丈夫なのかと、初めて思った。

 「イヴ君には、団長のマントを頭から被ってもらいましょう!」
 「それでも見ちゃうって。あの光景から目を逸らすなんて、視力を失わないと無理だろっ」
 「癒しの力に目を慣れさせるために、バンバン力を使ってもらうとか?」
 「そんなことを、私が許すわけがないだろう」
 「…………どうせ自分だけ見せてもらうつもりなんだろっ」
 「団長だけ狡いッ!!」

 団員たちからブーイングされるエリオット様を初めて見たが、しらっとした顔で受け流していた。

 ちなみに、堂々と俺への愛を語るゴッド副団長は、全員から無視されている。
 
 それでも未だに語っているのだから、きっと会議の間もぺらぺらと喋っていたことが想像できて、頭が痛くなった。

 「もはや作戦会議じゃないだろう……」
 「彼らにとっては、それほどに深刻な問題なんですよ」

 いつのまにか俺の隣に立つ純白の騎士は、団員たちの会話を特に馬鹿にした様子はなかった。

 性根が腐った俺とは違って、セオドアは優しくて良い子なんだよな。

 「テディー。おはよう」

 笑顔で朝の挨拶をすると、フンとそっぽを向くセオドアだが、小さく「おはようございます」と答えてくれた。

 癖のある肩まで伸びた金色の髪を下ろしているセオドアは、俺より大人っぽい。

 髪を結ってやると兄貴面する俺は、義弟のお世話がしたくて仕方がないのだ。

 無理やり椅子に座らせて、髪の上半分をまとめ、残り半分を下ろす。

 「うん、格好良いな」

 背後から顔を覗き込むが、視線を逸らされる。
 
 苦笑いする俺は、第二騎士団は大丈夫なのかと、セオドアに忠誠を誓っている彼らの話を聞くことにした。

 第二騎士団は、第一騎士団から移籍した俺の同級生たちが中心となって、南に向かったそうだ。

 元々成績優秀な彼らがセオドアに鍛えられたおかげで、精鋭部隊と引けを取らない実力になっているらしい。

 だが、他の団員たちは、人型の魔物と戦えるレベルには到達していない。

 魔物の王は、確実に俺たちの近くに潜伏していると踏んでいたため、敢えてこの地から遠ざけたと話を聞いた。

 セオドアなりに、団員たちのことを想っていることが伝わって来る。

 俺を心配しすぎて責務を放棄したわけではないのだと知れて、嬉しく思った。

 うんうんと話を聞いていると、会議を終えた団員たちに囲まれた。

 「イヴ、体調は大丈夫か?」
 「はい。おかげさまで」

 優しく微笑むエリオット様に声をかけられて、笑顔を向ける。

 他の団員たちからも、無理はしないようにと気を遣っていただいた。

 みんなに囲まれて頬を緩ませていたが、俺たちから静かに離れるセオドアは、一人で精神統一している。

 昔なら俺が一人で、セオドアがみんなに守られていたのに、なんだか複雑な気持ちになった。

 「今日一日は休みにしようと思っている。魔物の王の捜索は、明日から本格的に始めるつもりだ」
 「わかりました。じゃあ、少しだけセオドアと話して来ても良いですか?」
 
 快く頷いてくれたエリオット様に感謝して、セオドアを連れ出すことにした。

 




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