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第二章
34 漢組
しおりを挟むレイヴァン団長様と友人になったらしいギルバート様は、俺の気も知らないで第三騎士団に入隊して欲しいと勧誘して来る。
全力で拒否しながら、本日は第四騎士団の見学に向かった。
平民メインで構成されている、別名『漢組』。
(……どこの騎士団も男しかいないだろうが)
もっと他にあっただろうと思ったが、平民だから適当なネーミングをつけられたのかもしれない、と察した。
他の騎士団と違って名の知れた人物がいない為、そこまで期待していなかったのだが……。
鍛え上げられた肉体を曝け出し、稽古に励む彼らの戦闘方法を見た俺は「ここが良い」と、思わず心の声を漏らしていた。
荒削りで、一人一人の力量はそうでもないのに、見事な連携技。
お互いの思考を全て理解しているような動きは、まるで一つの大家族のようだった。
「君たちは第四に興味があるのか?」
胸板の厚い盗賊頭のような容姿の大柄な騎士に声をかけられた俺は、素直に頷いた。
珍しいとばかりに目を丸くした彼を、真剣な表情で見つめ返す。
それもそのはず。
俺たち以外、他に見学者は誰もいないのだから。
「素晴らしい戦術で、俺も一員になりたいと思いました」
「ガッハッハ! だろ? 見る目あるな! 俺は、グリフィン。この部隊の責任者だ!」
団員達を褒められて破顔したグリフィン団長様に、バシバシと強めに肩を叩かれる。
俺の悪評を知らないのか、太陽のような元気いっぱいのグリフィン団長は、白い歯を出してニカッと笑っている。
厳つい見た目だが、男前なグリフィン団長に、是非訓練に参加して行ってくれと促され、第四騎士団員たちに混ざって剣を交えることになった。
「おお! 意外とやるな!」
「さすが勇者様の息子だな!」
心からそう思っているように声をかけられて、どう対応したら良いのかわからなくなる。
嫌悪の目を向けられたことしかない俺は、歓迎しているかのように声をかけてくれる彼らの対応に、目頭が熱くなってしまった。
「うおっ!?」
「ど、どうした??」
わらわらと集まってきた騎士達は、泣くな泣くなと子供をあやすかのように、俺の髪をわしゃわしゃとかき混ぜる。
木刀をぎゅっと握りしめて涙を堪える俺に、グリフィン団長が「べろべろばぁ!」と言いながら変顔をしてあやしにかかる。
白目を剥いたり寄り目にしてみたり、出している舌をチロチロと蛇のように動かしてみたり。
赤子ではないのだが、と思いながら、とにかく馬鹿馬鹿しくて笑ってしまった。
「っ…………かわいいな」
「あ、ああ……胸が、こう、キュンとした」
「イケメンの笑顔の破壊力……」
声を潜めて話し出した彼らに首を傾げていると、ギルバート様が背後から俺に飛びついた。
「イヴは俺のだから!」
「…………そうだったんですか?」
「うん! ずっと前からね?」
「…………初耳です」
おぶるような形になって、落とさないように支えていると、気さくな第四騎士団員たちがけらけらと笑い始める。
「残念だったな、ギルバートくん。イヴくんは第四に来てくれる予定だ」
「イヴくんは俺たちが可愛がるから、安心して第一で腕を磨いてこいよ!」
「くくっ、違った意味で可愛がっちまったら、ごめんなあ~?」
「っ、ぶっ殺すッ!!」
ぶっ殺宣言をするギルバート様は、子供扱いする彼らに完全におちょくられている。
低い声で唸る姿は、俺の忠実な番犬のようだ。
「俺は彼らにたくさん可愛がってもらいますね? ですから、ギルも第一でエリオット様に可愛がってもらってください」
「っ、はぁ?! ふざけんなッ! 意味わかって言ってる? 絶対わかってないよね?!」
「全て理解しておりますよ?」
「…………絶対勘違いしてる」
俺の肩に顔を乗せて不機嫌そうにするギルバート様が可愛らしくて、こっそりと笑った。
俺とセオドアの兄弟仲が悪いとデマの噂を知っているはずの彼らは、俺に何も聞いて来なかった。
気になってグリフィン団長に話を聞いてみると、「イヴくんを見ていたらわかる」と当たり前のような顔で言われてしまい、きょとんとしてしまった。
「噂は噂だ。俺たちは、相手のことを見てから判断する。敵と戦う時と同じだ。弱い相手だからといって舐めてかかるのではなく、対面してから判断する。だからあいつらは、イヴくんが義弟を虐めているような奴じゃないって判断したんだろう」
ひだまりのような笑顔と温かい言葉に、俺は胸を打たれた。
絶対に第四に入隊すると誓った俺は、救護班にも興味があることを話した。
それなら騎士と救護班を掛け持ちして欲しいと、想像だにしなかった言葉をかけられる。
素晴らしい案に、俺の頬は緩みまくる。
話を聞けば、騎士団の救護班を志願する者はほとんどいないそうだ。
宮廷医師はもちろんだが、裕福な貴族のお抱えの医師になることがステータスらしい。
その次に街医者。
国から一定額の補助金が出る為、安定しているそうだ。
最後に、騎士団の救護班。
給料はそんなに良くないのに危険が伴う為、美形騎士団長様目当ての変わり者の医師くらいしかいないそうだ。
しかも、第四騎士団は人気がないらしい。
派遣されて来る人達は、揃いも揃って馬鹿にしたような態度をとってくるらしい。
ろくな手当てもしないくせに威張り散らして、金銭を要求されたこともあり、こちらの方から願い下げだと拒否したそうだ。
「だからイヴくんが名乗り出てくれただけでも、感謝してもしきれないぞ!」
「ありがとうございます。俺は応急処置くらいしか出来ませんが、切り札がいるのでお任せ下さい」
「切り札?」
フッと不敵な笑みを浮かべる俺の脳内には、ライム色の髪の可愛い友人の顔が思い浮かんでいる。
「俺の親友は、アデルバート・バーデン伯爵子息なんです」
「っ、バーデン……だと?!」
「ええ。ですので、なにかあればアデルを連れてきますね?」
ガハハと愉快な笑い声を上げたグリフィン団長と、ハイタッチする。
早々に仲良くなれた気がしたが、力が強すぎて腕がもげそうだ。
「でもアデルバート・バーデン様が、俺たちなんかのところに来てくださるんですか?」
「そこは問題無し。アデルバートは、イヴのことが大好きすぎて、宮廷医師になろうか迷っているくらいだから」
いつのまにか、第四騎士団員たちの剣術の指導をしているギルバート様が得意げに答える。
「罪な奴だな、イヴくんは……」
「そうそう、本当に罪な男ッ。でもそんなところも可愛いから、みんな許しちゃうんだなあ~」
「ああ~。わかる気がするな」
俺を罵りながら第四騎士団員たちと絆を深めるギルバート様に、じっとりとした目を向けてしまう。
その後、みんなと仲良く剣を交え、フォーメーションにも参加させてもらい、俺の新たな居場所を確立することができた。
日頃の鍛錬のメニューの中に、第四騎士団員たちとの連携技を練習していた俺は、まさかその技を使う日が来ることがないなんて、夢にも思っていなかった――。
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