100回目の口付けを

ぽんちゃん

文字の大きさ
上 下
42 / 65
その後

42 黄金色の

しおりを挟む

 それからというもの、ユーリは人前でもベッタベタに甘やかしてくれるようになった。

 嬉しいけど恥ずかしい気持ちの方が大きい僕は、顔を赤らめてもじもじとすることしか出来ない。

 そんな僕を見て「初心で可愛い」と、よりユーリを喜ばせてしまい、所構わずちゅっちゅされてしまう。

 辱めを受けてもユーリに早く会いたい僕は、今日も今日とて訓練場の近くの大きな柱に隠れて、ユーリの勇姿を遠くから見守っている。

 最近まで引きこもりだったことが嘘のようだ。

 終了の号令がかかり、チラッと姿を見せると、すぐに僕に気付いてくれるユーリは、全速力で僕の元に走ってきてくれる。

 毎日ハードな練習をしているというのに、ユーリはいつも余裕綽々なんだ。

 「ヴィー! 早く部屋に行こう!」
 「え、あ、でも、今日はこのまま庭園に行きたいって言ってなかった?」
 「あぁ。でも、汗掻いて臭いから湯浴みしたい」
 「ん? ユーリは汗を掻いても良い匂いだよ?」

 逞しい上半身に顔を寄せてくんくんと匂いを嗅ぐ僕は、やっぱり良い匂いだと頷く。

 そしてこてんと首を傾げると、口許を手で隠してそっぽを向くユーリは耳が赤くなっていた。

 「もしかして照れてる?」

 可愛いと呟いてくすりと笑っていると、むっとするユーリが僕を抱きしめて、耳元でコソコソと話してくる。

 「ヴィーが変態だってこと忘れてた」
 「っ……へ、変態は関係ないよ、本当に良い匂いだもんっ」
 「ふぅ~ん? じゃあこのまま行こう。あとで臭いって言うのは無しだから」
 「………………お茶するだけだよね? ねぇ、ユーリ? 僕の話聞いてる?」
 
 僕の手を引いてスキップしそうなほどご機嫌なユーリは、僕の話をしれっと無視して、人目のつかない庭園の隅っこまで歩いていく。

 そして、両方の手を繋いで向かい合った。

 「ヴィー。俺はこの十年、ただひたすらヴィーのことだけを考えて生きてきた。ヴィーを守る騎士になりたい。俺は、ヴィーのことだけを愛してる。その気持ちは俺が死ぬまで、いや、死んでも変わらない。必ず幸せにするよ、ヴィー。だから、ずっと一緒にいて欲しい」
 
 煌めく金色の髪がサラサラと風に靡いて、黄金色の瞳は僕だけを映している。

 もしかして、これは……プロポーズ?
 熱烈な言葉に胸を打たれた僕は、笑顔で頷いた。

 「僕もユーリと同じ気持ちだよ。ユーリと出逢ってから、ずーっとユーリに夢中だよ? ……僕はユーリみたいにかっこよくないから、立派な騎士にはなれないけど……。ユーリのお姫様になりたい。それでハッピーエンドを迎えたいよ」
 「っ…………クソ可愛い」

 デレッとした顔で下品な言葉を吐いた僕の王子様は、その場で跪いて僕の手の甲にキスをする。

 そして指輪を取り出して、左手の薬指にはめてくれた。

 黄金色に輝く指輪は、僕の指にぴったりで、いつの間にサイズを測っていたんだろう、と嬉しくて目頭が熱くなった。

 「やっぱり、ユーリは、何でも出来る、僕のかっこいい王子様……っ」
 「ヴィーっ!」

 ひしっと抱き合う僕達は、引き寄せられるように口付けた。

 顔を見合わせてにっこりと笑った僕は、世界で一番幸せ者だ! と心の中で絶叫した。

 「心の準備、出来た?」
 「ひぇっ?!」
 「もう結婚するって決まったから、心置きなくヴィーを抱いて良いよね?」
 「ゆ、ユーリ? もしかして、それが目当て……じゃない、よね?」

 片方の口角を上げてニヤリと笑うユーリに、僕は口をはくはくとさせる。

 「あははっ、違うって! 大好きなヴィーと、一分一秒でも早く結婚したいと思ってたから、プロポーズしたんだよ? ……もちろん、抱きたいけど」
 「っ! 下心が見え見えなんですけどっ?!」
 「ククッ、もう下手に隠す必要もないしね? だって、俺の可愛いお姫様は、性格も見た目も性癖も、全てが俺のドストライクだからなっ!」

 ババーンと胸を張っているユーリは、僕の性癖までもドストライクだと宣う。

 ……さっきの感動を返して欲しい。

 そんなユーリにじっとりとした目を向ける僕だけど、内心では僕のマイナスな部分も含めて、全てを愛してくれているんだとわかって、すごく嬉しかった。

 でも、僕は恋人のストーカーになるほどユーリのことが好きなのに、その状態で抱かれたら、もうメロメロになっちゃって大変なことになりそうだ。

 だからやっぱり、初夜まで待った方が良いと思われる。僕自身のために……。

 「え、エッチは、初夜にとっておこうよ……」
 「ぷはっ……! ヴィー、もう一回! もう一回言って? 初心なヴィーの可愛い顔でエッチって言葉、めちゃくちゃクルッ!」
 「~~っ! もう、揶揄わないでよっ!」

 つり目を細めて、「もう一回」と繰り返して、楽しそうにくつくつと笑っているユーリ。

 本当は僕の心の準備が出来ていなくても気にしなくて良いとばかりに、ふざけてくれていることに僕は気づいている。

 本当、優しいんだから。

 僕を揶揄ってにっこりと笑っているユーリの胸元をぺしぺしと殴る僕は、優しいユーリを喜ばせたくて「途中までなら……」と口にする。

 サッと真剣な表情になったユーリは、僕のことをお姫様抱っこして、足早に部屋に戻るのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...