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31 奇跡が起こった
しおりを挟むずずっと鼻を啜る音で目が覚めた僕は、暫くの間、このまま起きて良いのだろうかと迷っていた。
なぜなら、寝ている僕の横で椅子に座って突っ伏した状態の金髪の美青年が、大号泣しているから。
…………僕、死んだと思われてる?
昨日も静かに泣いていたけど、こんなに延々と泣いているユーリは初めて見た。
真っ白なふわふわの上掛けは、ユーリの涙と鼻水でベチョベチョなんじゃないかと思う。
大好きなユーリの鼻水なら、どれだけ汚れても別に構わないけど。
よしよしと金色の髪を撫でると、ビクッと体を震わせたユーリは、恐る恐る顔を上げる。
そして美しい顔の青年は、今は目元がパンパンに腫れていて、白目も真っ赤だ。
「ユーリ?」
「っ……ゔぃー、」
「だ、大丈夫……?」
目が開いているのかもわからないくらい腫れすぎて、かなり可哀想なことになっている。
体を起こすと、額からぽろりとタオルが落ちてきた。もしかしたら、熱っぽかった僕のために、ユーリが寝ずに看病してくれていたのかもしれない。
さっと起き上がってタオルを水で冷やして、ユーリの腫れ上がる目元に当てる。
「なにか嫌なことでもあった? 僕でいいなら、なんでも聞くよ」
「っ、ゔゔゔっ……」
「えっと、みんなみたいに的確なアドバイスは出来ないけど……。ユーリが落ち着くまで、一緒にいるから」
「っっっっ、ゔぃ~~~~っ!!!!」
僕の腰にしがみつくユーリは「ヴィー」とひたすら僕の名前を呼び続けていた。
嫌いなはずの僕に頼るなんて、相当辛いことがあったみたいだ。
頼りない僕でも、ユーリのためならなんだって出来ると、そっと頭を抱きしめてユーリが落ち着くまで優しく金色の髪を撫で続けた。
「ごめ゛んな、ゔぃー。お゛れ、お゛れ、ゔぃーに好きって、言ってもらいだぐで、ゔそづいだ」
「……………………ぇえっ?」
「ナポレオンなんがっ、一ミリも好ぎじゃない! あんな性悪っ、むじろ、ぜんっぜん、タイプじゃないがらっ! 死んでもごめんだっ!」
「んんんん?」
僕に好きって言ってもらいたかった?
ユーリはナポレオン兄様のことが好きで婚約者になったんじゃなかったの?
むむむ、と唸る僕に、パッと顔を上げて、綺麗な顔をくしゃくしゃにしているユーリは、すがるように僕を見つめる。
「ずっと、ゔぃーが好きだっだ! 十年前から、お゛れは、ずっとゔぃーが好きなんだよっ!」
半ばヤケクソぎみの告白に、僕は開いた口が塞がらない。
こんな奇跡のようなことが起こるなんて。
明日は雨かもしれない。
いや、雪が降る。……今は春だけど。
「こんな状況じゃ、カッコ悪いし、碌に説明もでぎないから、明日出直じでぐるっ」
「え、ええっと、うん……」
「明日、朗読会ずるがらっ」
「あ、う、うん」
ぐしゃぐしゃな顔のまま僕から離れたユーリは、とぼとぼと部屋の扉の方に歩いていく。
このまま行かせて大丈夫だろうか。
心配になった僕は、今日は小さく見える背中にぎゅっと抱きついた。
「ユーリ、行かないで」
ひゅっと息を呑むユーリは、壊れたおもちゃのようにぎこちなく僕の方に振り返る。
「あのとき、大嫌いって言ってごめんね。僕も、十年間ユーリが好きだったよ。ヴィーって呼んで、笑顔を見せてくれたときから、ずっと……」
「…………ゔぃーっ」
くしゃくしゃな顔でにっこりと笑ってくれたユーリに、僕も満面の笑みを浮かべる。
「ユーリは完璧な王子様だって思ってたけど、そんな顔もするんだね?」
「……やっぱり帰る」
「ええっ?!」
「こんな不細工な面で天使と一緒にいれない」
「……天使?」
首を傾げる僕にくすっと笑ったユーリは、正面から僕を抱きしめた。
「ヴィーと一緒に読みたいと思っていた本がたくさんあるんだ。五年分、ストックが溜まってる」
「そんなに?」
「ああ。でも明日読む本は決めてある」
「……すごく楽しみ。もう、一生朗読会は出来ないと思ってたから」
幸せを噛みしめていると、ユーリは真剣な表情で僕の両肩に手を置いた。
「ヴィー。俺はいつも、ヴィーの前でかっこつけてばかりで、本心を口にして来なかった。だって俺は、いつだってヴィーの王子様になりたかったから……。でも、間違ってた。そのせいで、ヴィーをたくさん傷つけてしまった。本当に本当にごめん。ヴィーは、俺が情けない奴でも……好きでいてくれるか?」
「もちろんだよ! だって僕の方がよっぽど情けないもん」
自慢出来るようなことじゃないけど、堂々と話した僕は、えへへと照れ笑いをする。
そんな僕に、ユーリはしわくちゃな顔をして「可愛い」と連呼する。
褒められているのだろうけど、ユーリにだけは可愛いなんて言われたことなかったから、すごく恥ずかしい。
「可愛いはコンプレックスなんだけどなぁ?」
「なに言ってるんだ。可愛いは正義だろう」
「えっ。どういう意味?」
「ヴィーは息をしているだけで可愛い」
「っ……そんなわけないでしょっ」
それから、ひたすら僕を可愛いと言い続けるユーリに、恥ずかしいからやめてとお願いしたけど「十年分の可愛いを爆発させている」とよくわからないことを言ってた。
昔僕と一緒にいたユーリは、いろいろと我慢していたらしい。
ユーリの素の部分が垣間見れた気がして、それはそれですごく嬉しかった。
でもあまりに可愛いしか言わないもんだから、寝不足で頭がおかしくなってしまったのだと判断した僕は、ユーリを無理矢理僕の寝台で寝かしつけたのだった。
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