3 / 65
3 着せ替え人形
しおりを挟むそして、いつも着替えを手伝ってくれていた使用人のエメル。
中年の優しい彼は、いつも僕の肌のケアをしてくれていた。
良い香りのする液体を全身に塗り込んでくれて、僕の肌はいつも艶々だった。
そんなある日、エメルは僕のために、最近巷で流行っているという、少し変わった衣装を用意してくれていた。
「私はヴィヴィアン様を可愛く着飾ることに命をかけています」
「そんなことで、エメルの大切な命をかけないでよ~」
くすりと笑う僕が身につけた、すけすけの黒のワンピースは太ももが丸出しだ。
それに膝上までのストッキングを履いて、落ちてこないようにガーターベルトというヒラヒラの可愛らしいものを装着する。
そして、頭にふわふわの黒猫の耳をつけた。
猫好きのエメルは「似合う似合う」と大喜びで、涙まで流していた。
もっと喜ばせたいと思った僕は、本物の猫のように、手を丸めてポーズをとる。
「ッ!!」
目を見開いたエメルは、僕を抱きしめて頬ずりしまくり、身体中を撫で回す。
「エメル、くすぐったいにゃあ~」
「グハッ……」
喜びすぎて鼻血を出したエメルは、鼻にティッシュを突っ込みながら、僕の肌が見えている部分を余すところなく舐めまくっていた。
僕を子猫だと思って毛繕いをし始めたエメルは、猫ごっこがしたかったらしい。
それから暇を見つければ、エメルの猫ごっこに付き合っていた。
そんなある日。
二番目の兄であるナポレオン兄様も猫好きだと知った僕は、猫耳ごっこのときの格好をしてを遊びに来る予定の兄様を待っていた。
「俺の可愛いヴィー! お兄様が来たよ!」
「なー兄様、待ってたにゃあ!」
「――……ッ!!!!」
切れ長の目を大きく見開いたナポレオン兄様。
すぐさま僕に駆け寄って、僕の体をシーツでぐるぐる巻きにした。
「なんて格好をしてるんだッ!」
「え? だって、なー兄様も猫が好きなんでしょう? だから今日は、猫ごっこしようと思って」
「…………猫ごっこ?」
「うん! だから、舐めていいよ!」
シーツを剥ぎ取った僕は、ガーターベルトを指でぺちんと鳴らした。
これをすると、エメルはすごく喜ぶんだ。
ナポレオン兄様も喜んでくれたのか、顔が髪色のように真っ赤に染まっていたけど、声にならない叫び声を上げていた。
燃え上がるような真っ赤な髪に黒曜石のような瞳のナポレオン兄様は、ライオンみたいだ。
もしかしたら、猫よりライオンが好きだったのかもしれない……。
その日は、ナポレオン兄様が僕と離れたくないと駄々をこねて、仕方がないので兄様のお部屋で一緒に寝てあげた。
そして次の日、新しい使用人がやってきた。
エメルは持病が悪化して、仕事を辞めてしまったみたいだ。
「エメル、大丈夫かな?」
「ヴィヴィアン様……」
「猫ごっこ、もっとしてあげたら良かった……」
病気になったエメルを心配しながらしょぼんとしていると、新しい使用人が泣きながら部屋を飛び出していった。
いきなりどうしたのかと思って追いかけると、部屋の前でへたりこんで泣いていた。
「どうしたの? 大丈夫?」
「っ、は、はい…………すみません」
「元気出してにゃあ~」
エメルにしてもらっていたように、すりすりと頬ずりをすると、新しい使用人がパタリと後ろに倒れて、意識を失っていた。
結局その人も病気だったらしく、挨拶しただけですぐに辞めてしまい、また新しい使用人が三人も増えたのだった。
24
お気に入りに追加
1,281
あなたにおすすめの小説
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
勇者の股間触ったらエライことになった
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。
町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。
オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる