1 / 65
1 百回目の口付けを
しおりを挟む自室の扉を開けると、光の束を集めたような艶やかな髪の美青年に目を奪われた。
僕の視線を独り占めする眩しい金色の髪は、春の日差しを浴びて、より一層光り輝いている。
僕とのお茶会をすっぽかした人は、胸元に読みかけの本を置いてソファーに横になって眠りについていた。
婚約者である彼に、今日こそ文句を言ってやろうと思っていたのに、あまりの美しさに息を呑む。
音を立てないように、静かに近付く。
彼の端正なお顔の前で膝を折った僕は、十年間片思いをしていた相手に、そうっと口付けた――。
…………やってしまった!
いくら好きだからって、寝ている相手に勝手にキスするなんて犯罪だ!
今は隠れている、煌めく黄金色の瞳と目が合う前に、僕は自室から逃げるように飛び出していた。
激しい動悸に目眩がする中、春の美しい花々が咲き誇る庭園を目指してひた走る。
庭園内の人目のつかない奥まった場所まで辿り着いた僕は、足の力が抜けてその場でしゃがみ込んだ。
「はあ……百回目……」
初恋の相手とキスをした回数を覚えている僕は、彼のことが好きすぎてたまらない。
四つ年上の僕の想い人、ユーリ・グレンジャー。
切れ長でつりあがった目元の彼は、理知的だが冷たい印象。かっこいいけど少し怖い。
そんなユーリの笑った顔に、六歳の僕は胸を撃ち抜かれた。
ユーリのつり目が柔らかく弧を描き、蜂蜜のようにトロリとした黄金色の瞳に魅入られた僕は、兄の側近候補だった彼にめちゃくちゃ懐いた。
そう、僕はアルメリア王国の第三王子。
腰まで伸びる真っ直ぐな白銀の髪に、くりっくりの大きなアメジストの瞳は、『生きる宝石』と呼ばれていた母様譲りだ。
十六歳になった今でも男らしさは微塵もなく、絵本の中の挿絵でしか見たことがない、『女性』というこの世に存在しない架空の人種に似ている。
みんなは可愛いって言うけど、僕にとっては全てがコンプレックスでしかない。
そんな僕の名は、
ヴィヴィアン・ゼロ・アルメリア。
名前までもが、絵本の中の女の子っぽい。
敬愛する両親がつけてくれた大切な名前だから、文句はないけど……。
それでも気にしてしまうのは、僕の二人の兄様の名前がレオナルド、ナポレオンだからだ。
どうしてそこで、次にヴィヴィアンと来たのか。
『ヴィーちゃんって呼びたかったの。フフッ』
妖艶に微笑む母様の言葉に、「なるほど……」と笑顔で答えた僕は、ヴィクターとかヴィンセントでも良かったのでは? と、心の中で呟いた。
だけど、大好きなユーリに「ヴィー」と呼ばれる度に、この名前で良かったなと思う。
だって、口許がにこってなるんだ。
かっこいいのに可愛いって、最強。
それなのに、ここ五年。
ユーリの口からその名を呼ばれたのは、たった一度だけ。
なぜなら僕は、幼い頃からずっと片思いをしているユーリに、世界で一番嫌われているから――。
34
お気に入りに追加
1,281
あなたにおすすめの小説
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
勇者の股間触ったらエライことになった
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。
町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。
オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる