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13 罵り合い

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 「もう嫌ッ!!」

 甲高い泣き声は、ラウル殿下の婚約者となるドロシー・ウィーラー嬢のものだ。
 両手で顔を覆って泣きじゃくるドロシー嬢は、顔色の悪い両親に背を撫でられていた。

 身篭っている彼女にストレスを与えたくはないのだが、彼女もラウル殿下に婚約者がいるとわかっていての行動によるものだ。
 この場にいる者からの同情は得られない。
 
 「ディアっ……、見捨てないでくれっ」

 翡翠色の瞳は私だけを映しているが、今までにないほど必死な表情だ。

 「ラウル殿下が、こんなにみっともない男だとは思わなかったわ……。この子が可哀想っ」

 腹を撫でるドロシー嬢が、顔を歪ませる。
 そんな彼女に暴言を吐くラウル殿下は、昔の傲慢な人物に戻ってしまったようだ。

 「ハッ、本当に俺の子だって証拠はあるのか!? ないだろ? いろんな男と寝ていたことは知ってるんだからな」
 「証拠? そんなもの、あんたが何度も私を抱いたことが、立派な証拠だわ!?」
 「黙れっ!」

 罵り合う二人を見ていると、哀れに思う。
 
 「いい加減にしないか!」

 陛下の一言でドロシー嬢は口を閉じたが、ラウル殿下は苛立ちを抑えられない様子だ。
 もしラウル殿下の言う通り、ドロシー嬢がいろんな相手と体を重ねていたとしても、それはラウル殿下も同じこと。
 似たもの同士でお似合いだ。

 二人を放置し、陛下と父が私達の婚約を白紙にする書類を用意して署名する。
 慰謝料の金額など、話は淡々と進んでいく。

 「二人の婚約は白紙とする」
 「そんな! 父上っ!」
 「そして、ラウルにはこの度の責任を取ってもらう。ドロシー・ウィーラーを新たな婚約者とする」

 絶望するラウル殿下が、その場で崩れ落ちる。
 無様に四つん這いになって泣き喚くくらいなら、最初から暴走しなければ良かったのに。
 王子だから、なんでも許されるとでも思っていたのだろうか?

 「ああ、それから。公爵の席を用意していたが、今のお前には分不相応だ。お前が管理する予定だった領地の一部は、スアレス侯爵家に譲渡する。ラウルは、ウィーラー伯爵家に婿入りでもするんだな」

 その言葉に悲鳴を上げたのは、ラウル殿下ではなく、ウィーラー伯爵夫妻だった。
 彼らには、私への慰謝料の支払い義務がある。
 それに加えて、手ぶらの王子がついてきたのだ。
 叫びたくもなるだろうが、娘の教育を間違えたのは親の責任だと思う。
 
 「あの人達、貧乏なんだよ。目論見が外れて残念だったね」

 背後から、くすくすと笑うクラレンスの声が聞こえてくる。
 世渡り上手のクラレンスは、様々な貴族の情報を持っている。
 もしかしたら、両親が娘を利用したのかもしれないなと思うと、少しだけラウル殿下に同情した。
 話を聞いてくれなくても、野放しにしなければ良かったのか。
 彼に不幸にはなって欲しくない気持ちもあり、複雑な感情になっていた。

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