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3 差別
しおりを挟む邸に戻れば、直様出迎えてくれた銀髪美青年。
幼い頃は、私と瓜二つだった双子の兄──クラレンスだ。
早くドレスを脱ぎたくて、自室に戻って着替えながら王宮での出来事を報告した。
「まさかラウル殿下の婚約者になっちゃうなんて、驚きだよ」
「ああ、私もだ。令嬢たちから告白されたことはあるが……。十二と言えど、男性から婚約を申し込まれるとは思わなかった」
「え、そこなのっ!? ディアは本当にマイペースなんだから」
後ろで結っていた髪紐を解いてくれたクラレンスが、へらりと笑う。
母親譲りの柔和な目元は優しさが滲み出ている。
切れ長の目元の私よりも、女性らしい顔付きだ。
だが、一度剣を握れば、雄々しい姿が素敵だと、ご婦人方に人気がある。
ちなみに私は、同世代の令嬢達からは『王子』と呼ばれている。
幼い頃から稽古ばかりで、令嬢達との話が噛み合わないことがある。
意見をする前に脳内で熟考している間に、話が進んでしまっている。
それが、どんな話題でも黙って聞いてくれる、彼女たちの理想の王子様に見えるのだそうだ。
『ディア様はみんなの王子様』
そう笑顔で話している令嬢達が、陰で私に告白してくるのだから、とても興味深い。
騎士団長を務める堅物の父や、裏表のない脳筋部下達と過ごすことが多いため、彼女達と関わると違った世界が見えてくる。
最初は嫌々お茶会に参加していたが、今では令嬢達と過ごす時間も大切にしている。
夕食の時間に家族が集まり、当主の席にどっしりと腰を下ろす父──カルロス。
短く切り揃えられた銀髪は、私達双子と同じ色だ。
身体の弱い母は、この邸にはいない。
物心が付いた頃には、母方の実家で静養していた。
全ては憎き父のせいで……。
娘にこれっぽっちも尊敬されていない父が、機嫌良くワインを呷り、普段は鋭い目尻が少しだけ下がって見える。
「ラウル殿下の婚約者候補に選ばれたそうだな」
「……はい」
「今は反抗期だが、いずれ陛下のような立派なお方になるだろう。彼を支えることが、女であるディアの使命だ」
差別発言をする父に対して、無理矢理口角を持ち上げる。
この世を双子の女神が統一していたことで、女性も剣を握る時代があった。
だが時を経て、現代の騎士は完全なる男社会だ。
女性にも活躍の場をと主張している者が増えている中、父は女性を軽視する思考の持ち主だ。
剣術を習う際も、私には必要ないと性別だけで判断された。
そしてクラレンスには、多大な期待をしている。
私の方が実力は上なのに、頑なに認めようとはしないのだ。
それに加えて、もう一つ要因がある。
私の型は、スアレス家のものとは全くの別物だからだ。
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