上 下
3 / 46

3 差別

しおりを挟む

 邸に戻れば、直様出迎えてくれた銀髪美青年。
 幼い頃は、私と瓜二つだった双子の兄──クラレンスだ。

 早くドレスを脱ぎたくて、自室に戻って着替えながら王宮での出来事を報告した。

 「まさかラウル殿下の婚約者になっちゃうなんて、驚きだよ」
 「ああ、私もだ。令嬢たちから告白されたことはあるが……。十二と言えど、男性から婚約を申し込まれるとは思わなかった」
 「え、そこなのっ!? ディアは本当にマイペースなんだから」
 
 後ろで結っていた髪紐を解いてくれたクラレンスが、へらりと笑う。
 母親譲りの柔和な目元は優しさが滲み出ている。
 切れ長の目元の私よりも、女性らしい顔付きだ。
 だが、一度剣を握れば、雄々しい姿が素敵だと、ご婦人方に人気がある。

 ちなみに私は、同世代の令嬢達からは『王子』と呼ばれている。
 幼い頃から稽古ばかりで、令嬢達との話が噛み合わないことがある。
 意見をする前に脳内で熟考している間に、話が進んでしまっている。
 それが、どんな話題でも黙って聞いてくれる、彼女たちの理想の王子様に見えるのだそうだ。

 『ディア様はみんなの王子様』
 
 そう笑顔で話している令嬢達が、陰で私に告白してくるのだから、とても興味深い。
 
 騎士団長を務める堅物の父や、裏表のない脳筋部下達と過ごすことが多いため、彼女達と関わると違った世界が見えてくる。
 最初は嫌々お茶会に参加していたが、今では令嬢達と過ごす時間も大切にしている。





 夕食の時間に家族が集まり、当主の席にどっしりと腰を下ろす父──カルロス。
 短く切り揃えられた銀髪は、私達双子と同じ色だ。
 身体の弱い母は、この邸にはいない。
 物心が付いた頃には、母方の実家で静養していた。
 全ては憎き父のせいで……。

 娘にこれっぽっちも尊敬されていない父が、機嫌良くワインを呷り、普段は鋭い目尻が少しだけ下がって見える。

 「ラウル殿下の婚約者候補に選ばれたそうだな」
 「……はい」
 「今は反抗期だが、いずれ陛下のような立派なお方になるだろう。彼を支えることが、女であるディアの使命だ」

 差別発言をする父に対して、無理矢理口角を持ち上げる。

 この世を双子の女神が統一していたことで、女性も剣を握る時代があった。
 だが時を経て、現代の騎士は完全なる男社会だ。

 女性にも活躍の場をと主張している者が増えている中、父は女性を軽視する思考の持ち主だ。
 剣術を習う際も、私には必要ないと性別だけで判断された。
 そしてクラレンスには、多大な期待をしている。
 私の方が実力は上なのに、頑なに認めようとはしないのだ。

 それに加えて、もう一つ要因がある。
 私の型は、スアレス家のものとは全くの別物だからだ。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします

天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。 側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。 それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?

曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」 エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。 最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。 (王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様) しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……? 小説家になろう様でも更新中

帰らなければ良かった

jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。 傷付いたシシリーと傷付けたブライアン… 何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。 *性被害、レイプなどの言葉が出てきます。 気になる方はお避け下さい。 ・8/1 長編に変更しました。 ・8/16 本編完結しました。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

処理中です...