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◆第六章◆

★18★ 一匹、地味チート活用術。

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「オニキスに会わせるとしても……どう会話を切り出すか、だな」

 一旦タイムアウトを要求して部屋を出たマリは、乱暴な手つきで髪をかき上げた。本来ならこの件でこんな風に悩むのは彼女の仕事ではないのに、それでも一介の人間の身でありながら首を突っ込む。そこがとても彼女らしくて好ましかった。

 あの少年が話した内容が真実ならば、オニキスは中級精霊として彼等の一族を滅しても問題ない。人間は精霊の下位でありこの世界でその理は絶対的な力がある。だというのに――。

「オニキス泣くかなぁ。泣くよなぁ。せっかく掴んだ情報の内容が、お前の相棒はお前が信じた通り高潔だったせいで、逆怨みされて殺されたぞって。別にそれで復讐するのは止めないけど、エリックのことだけは見逃してやれって私が口出ししても良いもんなのか……?」

 大きく溜息をついて口にする内容は、面倒を見る必要のない一度は堕ちかけた精霊への心配ばかり。通常契約出来る精霊は一柱のみで、マリの持つ魔力ではわたし程度の下級精霊くらいしか御せない。中級精霊であるオニキスの存在は荷が勝ちすぎている。彼は本当なら契約者の死と共に消えているはずだ。

 なのにオニキスは持ち直した。マリと出会ってからの彼は、初めてダンジョンで出会った時よりも確実に安定している。これは通常なら考えられない。他にも彼女の作った魔宝飾具に宿る下級精霊達も、極僅かではあるものの好きや嫌いといった意思を持ち始めている気がする。

 これが新たに加わっていた称号〝精霊テイマー〟のせいなのか、彼女が持つ資質なのかは判別がつかないものの、わたしとしては無茶振りの激しい上司の手柄より後者を激推ししたい。肩口から見上げるマリの横顔は苦悩に歪み、同胞のために最善を考えてくれていることが良く分かった。本当に好ましい。

 ああでもない、こうでもないと唸る彼女の髪を一筋摘まんで引くと、すぐに「あ……悪い忠太。私はもう一人じゃないんだった。助言頼むな」と言って、照れ臭そうにスマホを差し出してくれた。現金なものだが嬉しい言葉をかけられたことで、俄然やる気が出る。

【なににしても こうなった からには おにきすと しょうねんの かいこう ふかひ わたしたちは とうじしゃ ちがう ただきけつ みまもる だけの ぼうかんしゃ でも そのご もしも てだすけ ひつようなら そのときは わたしたちの ちーと でばんです】

 渾身の速度で一気に打ち込んだ長文。深夜に懸垂をして鍛えている成果が出てきたのか息は切れていない。脈拍も正常。マリは文面へと視線を走らせ「そっか、そうだよな」と吹っ切れた風に笑った。

 その言葉を肯定と受け取り、一度メッセージ機能を閉じてネット書店を探し、人体に関して取り上げている大判の図が中心のカラー本を数冊と、病名と症例をカラー写真で説明しているものを数冊選んで注文。

 さらに教材関係を扱う会社のホームページまで飛び、大学病院でも利用されている臓器が取り外せるタイプの精巧な人体模型も注文しておいた。説明書は読めなくとも、取り外し方や戻し方は図で丁寧に描かれている。医学の心得があるなら元に戻せるだろう。

 最後に百均サイトで取り外した臓器にこちらの文字で名称が書けるよう、お名前シールとサインペンを購入した。全ての発注作業が完了したのを確認し、領収書の金額を合算してから、再びメッセージ機能を呼び出す。流石に疲れた。

【しょうねんへの せいきゅうしょ まりのさいん ひつようです】

「ん、分かった。エドの店で使ってるやつと同じやつで良いよな……っとぉ……ヤバいなこれ。想像したよりだいぶ厳ついお値段だぞ。払えるかなあいつ」

【へいきですよ あいてはきぞく それに ちゅうせいより はるかに はってんしたいがく さっきのねつい あるなら これでも やすいはず さあ あとは おにきすを ここに つれてくるだけ】

 チートというには地味で、マリが思うような能力ではないかもしれない。でも中級精霊の真似事を下級精霊が出来るはずもないし、わたしもそれを望んでいない。わたしはマリの精霊だからだ。

「よっし、ありがとな忠太。ここまで準備してもらったら、もうビビってらんないか。荷物が届いちゃう前にパッと帰ってパッと連れてきて、オニキスがどんな結論出すか見守ろう。金太郎も一緒にな」

【はい まり だめだったら ここから どろん しちゃいましょう】

「ドロンて、また古いの拾ってきたなぁ。何十年前の流行りだよ」

【ちっちっ はやりは くりかえす ですよ いとおかし】

 彼女の表情が明るくなったことが嬉しくてそう打ち込めば、マリは犬歯を見せて「私の持ってる一番のチートは間違いなく忠太、お前だな」と気持ち良く笑った。その後呼び出したオニキスとエリック少年の邂逅を果たして一悶着あったのだが……そこはまぁ、ドロンするほどでもなかったとだけ触れることにする。
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