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◆第六章◆

*3* 一人と一匹、仲間を連れて次の町へ。

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 情報を得るために夫人の屋敷を訪ねてから三日。

 その間に櫻子さんの日記を流し読みして、その中で興味があったり役立ちそうな部分をスマホのホーム画面に出しておいた。紅葉の件が片付いて仕事の予定に余裕が出来たら、彼女の転生した町も見に行ってみたいところだ。

 とはいえ目下の予定は不安定な存在である紅葉の記憶を取り戻すこと。そのために相棒が死ぬまでの足取りを辿らないといけない。何とも気の滅入る予定だけど、紅葉が今のままの状態で良いとは思えないんだよなぁ。忠太の話や夫人の話でも守護精霊は相棒の死と共に消えるものらしいから。

「護身用の時計型ピルケース(改)持っただろ、近隣地図スマホでチェック済み、着替えと財布持った、と。よし……それじゃあ、ひとまずこの森から出て近場の町か村に移動してみるか。もしかしたらこっちの王都まで行かなきゃかもだけど。紅葉は何か思い出せそうな時は遠慮なく声かけてくれ」

 すっかり第三の住みかとして定着しつつあるオーレルの森の小屋にて、最後の荷物チェックを終えてそう声をかければ忠太は勿論のこと、金太郎と紅葉もどことなく真剣な面持ちで頷いた。

 けれどそんな空気を緊張しすぎだと感じたのか、忠太が【まり きょうのかっこうも にあってますね】とスマホの画面に打ち込んだ。そういう忠太はいつも通り綺麗な貴族も認める白いモフ毛である。

「ん、そっか? 何か手っ取り早く異国風な格好で選んだんだけど、結果的にちょうど良かったかもな」

 目立つ紅葉を連れ歩くなら、並んでいる私も目立つ格好をすればかえって他国出身者に見えるかもと思い、前世で夏の部屋着として愛用していたしま○らの作務衣を着ることにした。一応TPOを弁えて下には黒の長袖シャツと、くるぶしまでのレギンスを着用している。足許は普通に黒のスニーカー。

 パッと見た感じだと金髪なのも相まって、前世だと輩系とか言われてた見た目か、世界観ぶち壊しな○ののけ姫ガラの悪いアシ○カとヤッ○ルみたいだが、忠太の反応が良いから良しとする。

 久々の緩い着心地にちょっとだけあの茹だるような暑さと、クソやかましいセミの声が懐かしくな……ったりはしない。あんなのは前世だけで充分だ。この国の気候は本当に過ごしやすい。

「それなら紅葉も褒めないとだな。最初はどうなることかと心配だったけど、その格好なかなか似合ってるぞ」

【ええ ほんとうに みちがえました】

 他国の町や村に入るのに流石にボタニカルな出で立ちはまずいと思って、スマホで競走馬がかぶっているマスクの名前を検索したら出た。休日にテレビで競馬中継を観ては怒鳴っていたクソ親父の記憶も役に立ったと思いたい。

 さらに検索をかけたらまさかの型紙にヒットしたので、鹿の角の部分と耳の部分の穴の位置を試行錯誤し、合成皮革と手芸用ボンドで何とかそれっぽいものを製作。一番隠したい目許には、これまた競馬の画像でブリンカーなるものを発見したので、そんな中でも特にガードの高いものを作って張り付けた。

 胴体にはこれも競馬で馬が羽織っていたコートみたいなのを。馬銜ハミと手綱も適当に再現。色々粗が目立つのを誤魔化すために、鞍っぽいものとバイク旅行で見かける荷物袋も乗せた。ただまぁ見た目は馬よりも尻下がりで不格好だから、どっちかというとラクダみたいだ。遊牧民風とでもしておこう。

「金太郎もみっしりしたせいか前にも増して頼もしく見えるぞ。一撃必殺のパンチで私達を守ってくれな」

【かわいいのに たのもしい まりをまもる がーでぃあん ですね】

 いつもより色々装着されて不機嫌気味だった紅葉は、褒め言葉に少し機嫌を直したらしく、前掻きを止めて胸を反らした。金太郎はやれやれといった様子でどっしりと構えているが、なんてことはない。これまでの褒美として増毛したのだ。

 下地になっていたフェルトを剥ぐのはかなり勇気がいったけどやって良かった。そのおかげで色も少々明るくなっている。元の体格を忘れて若干盛りすぎた気もするけど、へたれる前提ならパツパツベアーでも問題はない。はず。

 ――で。

 足場の悪いテーブルの上でスマホの画面に【しゅっぱつ しましょうか】と打ち込むハツカネズミを忘れてはいけない。ひょいとその身体の下からスマホを取り上げ、柔い身体を肩に乗せてカメラを起動する。

「皆ちょっとこっちに近付いてくれ。紅葉はしゃがんで、金太郎は紅葉の頭の上な。忠太はそのまま正面向いてろよ」

 そう言った直後に全員が映り込んだ画面をタップ。カシャリとこの世界では耳にしない電子音が響いた。スマホを覗き込めば、そこにはだいぶイロモノなうちのメンバーがそろっている。

「ん。まぁまぁ良い感じに撮れたな。お出かけ前の集合写真ゲットだ」

 一体だけホラー感を出している紅葉に光の加工とかを少しかけて手直しし、全員に見えるように翳してやると、見慣れている忠太はともかく他の二体がググッと画面に顔を寄せて首を傾げた。ホラー×キュートという一見シュールな光景ではあるけど、これはこれでなかなか可愛いといえなくもない。

 とはいえ視界から取り上げなければずっと見ていそうな二体を手で払い、ちょんちょんと耳にかけていた髪を引っ張る忠太にスマホを向ける。すると【どうちゅうも いっぱい とりましょうね】と。そんなささやかな願いを一つ。
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