1 / 214
◆始まり◆
◆プロローグ◆
しおりを挟む目を覚ますと真っ白な場所にいた。
とはいえ直前に眠った記憶はない。
周囲を見回しても壁らしきものもない。
窓もない。空もないし、白以外の色も、音もない。
直前の出来事を思い出そうとしたところで、服のポケットに入れていたスマホからメールの着信音が鳴り響いた。
ひとまず取り出して画面を見たら、バキバキに割れていた液晶が直っていたことにまず驚いて。次いで改行のないみっちり詰まった文字の羅列が小さな画面に並んでいたので、読む気が失せた。
でも何だかとても大切なことが書かれていそうな気がする。直感で。そんなわけでメール画面を一旦閉じて、スマホを操作。アプリの中から音声読み上げ機能を使うことにして起動ボタンをタップ。
すると――。
『いきなり音声読み上げ機能を使うだなんて、せっかちな現代っ子らしいですね。でもまぁ良いでしょう。今から貴女の身に起こったことを簡単に説明していきますね、真凛さん』
「ちょっと……勝手に馴れ馴れしく人の名前呼ばないでよ。あんた誰?」
『ああ、月並みな自己紹介になりますが神様です。貴女の生きていた辺りを管轄していました』
「宗教勧誘ならいらないんだけど。それともこれって誘拐監禁?」
『だから私が貴女達がいうところの神様です。末端ではありますけどね。そしてプリン頭の女性を攫う趣味はありません』
「口頭で言われると対面で言われる百倍胡散臭い。せめて顔を見せな」
『残念ながらそれは出来ません。というよりも、貴女達に私は可視出来ない存在ですので。それじゃ、以降はサクサク説明しますからきちんと聞いていて下さいね。後からもう一回説明して欲しいは通用しませんよ』
読み上げ機能は人工音声だから性別は分からないものの、相手は一方的に神様を名乗って強引に話を続けるつもりらしい。仕方がないので一度黙ることにした。
『私も多忙ですのでかなり割愛しますけど、ギャンブル依存症の両親がそれ由来のキャラクターから命名した名前以外は何も残さず蒸発したあと、親族間をたらい回しにされた貴女は、一人で生きるためにお金を稼ぐ必要に迫られて幾つもバイトをかけ持ちしてましたね』
人の生い立ちについての説明に時間を割くくらいなら、もっと他のところを教えろと言いたいけど我慢する。口を挟もうにも早口すぎるのだ。
『そして事件が起こった当日は夜勤明けだった。貴女は……あ、この辺ざっくり割愛しますね。とにかく車に轢かれそうになった男の子を助けました。そして不運にも十九歳という若さで亡くなりました』
――……言われてみればそんなことがあった気がする。何となくこの空間で薄々感じてはいたけどやっぱり死んでいたらしい。
『貴女が助けたその男の子は将来国内有数の名医になる子だったので、彼が将来助ける人命の数を貴女が救ったことにもなりました。大変なお手柄です。そこでこのたび一回限りの大盤振る舞い。上にかけあって転生か転移が出来るように手配しました。ただし付与出来るギフトの上限が決まっていまして』
死後の世界も世知辛いなと思いつつ先を待っているとまたもやスマホが鳴って、バキバキだった液晶画面からヒビが消え、そこに【貴女がこの先生きていたことで予想される生涯獲得金額】と書かれた一文の後ろに、これもまた世知辛い数字が並んでいた。予想はしてたけど少ないな……。
比較対照に並んでいる助けた子供の生涯獲得金額のゼロの数との格差が凄い。でも前向きに考えればこの金額を叩き出す子を助けたわけだから、無駄死にではなかったのだろう。
『そうですね。貴女の犠牲は尊いものでした。生涯獲得金額は微々たるものですが、この試算には出せない価値が貴女の命にはあります。とはいえこの数字で賄える以上に付与出来るギフトはありませんが』
「いや別に綺麗にまとめようとしないで良いから、そう思うならもう少――、」
『この数字ですと、つけられるオプションは――、』
「おいコラ、待て。今オプションって言った? ギフトより安っぽいんだけど」
『異世界での生活が寂しくないよう守護精霊一体と、マジックアイテム……は、少し足が出てしまうので、もうこのスマホで良いですね。せっかくさっきヒビも修復しましたし。あ、でもこの際壊れないようオリハルコン並に頑丈にしておきましょうか。残りのオプションで』
「はあ!? ちょっ、勝手に決めるな!!」
『おやおや。もう残りはこれだけということは……選べる精霊のレベルはこのくらいまでで、転生の際に姿を美しく……もちょっと厳しいか。若干向こうの世界線に馴染めるように顔の彫りなんかを整えるくらいですかね』
「おいおいおいおい、待て待て待て待て!!!」
『今そっちに守護精霊を転送しましたので、残りは彼から説明を受けて下さい。私は次の決済があるのでここでお別れです。貴女の次の人生に幸多からんことを!』
言いたいことだけ言ってこちらの不満も聞かないまま、一方的に音声機能は打ち切られた……が。真っ白な世界で呆然とする私のスマホから、ニュッと小さな手が出てきた。
直後にびっくりして落としたスマホは貴重なポイントを使っただけあって割れなかったものの、地面に落ちた画面から抜け出てきたのは、守護精霊と呼ぶにはあまりにも頼りない姿をしていて。そのことに声を発する前にそれまで真っ白だった世界がみるみる拓けて私をさらにげんなりさせた。
31
お気に入りに追加
146
あなたにおすすめの小説
自称悪役令嬢な婚約者の観察記録。/自称悪役令嬢な妻の観察記録。
しき
ファンタジー
優秀すぎて人生イージーモードの王太子セシル。退屈な日々を過ごしていたある日、宰相の娘バーティア嬢と婚約することになったのだけれど――。「セシル殿下! 私は悪役令嬢ですの!!」。彼女の口から飛び出す言葉は、理解不能なことばかり。なんでもバーティア嬢には前世の記憶があり、『乙女ゲーム』なるものの『悪役令嬢』なのだという。そんな彼女の目的は、立派な悪役になって婚約破棄されること。そのために様々な悪事を企むバーティアだが、いつも空回りばかりで……。婚約者殿は、一流の悪の華を目指して迷走中? ネットで大人気! 異色のラブ(?)ファンタジー開幕!
王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。
これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。
しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。
それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。
事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。
妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。
故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。
型録通販から始まる、追放令嬢のスローライフ
呑兵衛和尚
ファンタジー
旧題:型録通販から始まる、追放された侯爵令嬢のスローライフ
第15回ファンタジー小説大賞【ユニーク異世界ライフ賞】受賞作です。
8月下旬に第一巻が発売されます。
300年前に世界を救った勇者達がいた。
その勇者達の血筋は、三百年経った今も受け継がれている。
勇者の血筋の一つ『アーレスト侯爵家』に生まれたクリスティン・アーレストは、ある日突然、家を追い出されてしまう。
「はぁ……あの継母の差し金ですよね……どうしましょうか」
侯爵家を放逐された時に、父から譲り受けた一つの指輪。
それは、クリスティンの中に眠っていた力を目覚めさせた。
「これは……型録通販? 勇者の力?」
クリスティンは、異世界からさまざまなアイテムをお取り寄せできる『型録通販』スキルを駆使して、大商人への道を歩み始める。
一方同じ頃、新たに召喚された勇者は、窮地に陥っていた。
「米が食いたい」
「チョコレート食べたい」
「スマホのバッテリーが切れそう」
「銃(チャカ)の弾が足りない」
果たして勇者達は、クリスティンと出会うことができるのか?
・毎週水曜日と土曜日の更新ですが、それ以外にも不定期に更新しますのでご了承ください。
転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~
りーさん
ファンタジー
ある日、異世界に転生したルイ。
前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。
そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。
「家族といたいからほっといてよ!」
※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。
婚約も結婚も計画的に。
cyaru
恋愛
長年の婚約者だったルカシュとの関係が学園に入学してからおかしくなった。
忙しい、時間がないと学園に入って5年間はゆっくりと時間を取ることも出来なくなっていた。
原因はスピカという一人の女学生。
少し早めに貰った誕生日のプレゼントの髪留めのお礼を言おうと思ったのだが…。
「あ、もういい。無理だわ」
ベルルカ伯爵家のエステル17歳は空から落ちてきた鳩の糞に気持ちが切り替わった。
ついでに運命も切り替わった‥‥はずなのだが…。
ルカシュは婚約破棄になると知るや「アレは言葉のあやだ」「心を入れ替える」「愛しているのはエステルだけだ」と言い出し、「会ってくれるまで通い続ける」と屋敷にやって来る。
「こんなに足繁く来られるのにこの5年はなんだったの?!」エステルはルカシュの行動に更にキレる。
もうルカシュには気持ちもなく、どちらかと居言えば気持ち悪いとすら思うようになったエステルは父親に新しい婚約者を選んでくれと急かすがなかなか話が進まない。
そんな中「うちの息子、どうでしょう?」と声がかかった。
ルカシュと早く離れたいエステルはその話に飛びついた。
しかし…学園を退学してまで婚約した男性は隣国でも問題視されている自己肯定感が地を這う引き籠り侯爵子息だった。
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★8月22日投稿開始、完結は8月25日です。初日2話、2日目以降2時間おき公開(10:10~)
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。
阿吽
ファンタジー
クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった!
※カクヨムにて先行投稿中
「自重知らずの異世界転生者-膨大な魔力を引っさげて異世界デビューしたら、規格外過ぎて自重を求められています-」
mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
ネットでみつけた『異世界に行ったかもしれないスレ』に書いてあった『異世界に転生する方法』をやってみたら本当に異世界に転生された。
チート能力で豊富な魔力を持っていた俺だったが、目立つのが嫌だったので周囲となんら変わらないよう生活していたが「目立ち過ぎだ!」とか「加減という言葉の意味をもっと勉強して!」と周囲からはなぜか自重を求められた。
なんだよ? それじゃあまるで、俺が自重をどっかに捨ててきたみたいじゃないか!
こうして俺の理不尽で前途多難?な異世界生活が始まりました。
※注:すべてわかった上で自重してません。
誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら
Rohdea
恋愛
───酔っ払って人を踏みつけたら……いつしか恋になりました!?
政略結婚で王子を婚約者に持つ侯爵令嬢のガーネット。
十八歳の誕生日、開かれていたパーティーで親友に裏切られて冤罪を着せられてしまう。
さらにその場で王子から婚約破棄をされた挙句、その親友に王子の婚約者の座も奪われることに。
(───よくも、やってくれたわね?)
親友と婚約者に復讐を誓いながらも、嵌められた苛立ちが止まらず、
パーティーで浴びるようにヤケ酒をし続けたガーネット。
そんな中、熱を冷まそうと出た庭先で、
(邪魔よっ!)
目の前に転がっていた“邪魔な何か”を思いっきり踏みつけた。
しかし、その“邪魔な何か”は、物ではなく────……
★リクエストの多かった、~踏まれて始まる恋~
『結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが』
こちらの話のヒーローの父と母の馴れ初め話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる