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◆始まり◆

◆プロローグ◆

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 目を覚ますと真っ白な場所にいた。
 とはいえ直前に眠った記憶はない。

 周囲を見回しても壁らしきものもない。
 窓もない。空もないし、白以外の色も、音もない。

 直前の出来事を思い出そうとしたところで、服のポケットに入れていたスマホからメールの着信音が鳴り響いた。

 ひとまず取り出して画面を見たら、バキバキに割れていた液晶が直っていたことにまず驚いて。次いで改行のないみっちり詰まった文字の羅列が小さな画面に並んでいたので、読む気が失せた。

 でも何だかとても大切なことが書かれていそうな気がする。直感で。そんなわけでメール画面を一旦閉じて、スマホを操作。アプリの中から音声読み上げ機能を使うことにして起動ボタンをタップ。

 すると――。

『いきなり音声読み上げ機能を使うだなんて、せっかちな現代っ子らしいですね。でもまぁ良いでしょう。今から貴女の身に起こったことを簡単に説明していきますね、真凛マリンさん』 

「ちょっと……勝手に馴れ馴れしく人の名前呼ばないでよ。あんた誰?」

『ああ、月並みな自己紹介になりますが神様です。貴女の生きていた辺りを管轄していました』

「宗教勧誘ならいらないんだけど。それともこれって誘拐監禁?」

『だから私が貴女達がいうところの神様です。末端ではありますけどね。そしてプリン頭の女性を攫う趣味はありません』

「口頭で言われると対面で言われる百倍胡散臭い。せめて顔を見せな」

『残念ながらそれは出来ません。というよりも、貴女達に私は可視出来ない存在ですので。それじゃ、以降はサクサク説明しますからきちんと聞いていて下さいね。後からもう一回説明して欲しいは通用しませんよ』

 読み上げ機能は人工音声だから性別は分からないものの、相手は一方的に神様を名乗って強引に話を続けるつもりらしい。仕方がないので一度黙ることにした。 

『私も多忙ですのでかなり割愛しますけど、ギャンブル依存症の両親がそれ由来のキャラクターから命名した名前以外は何も残さず蒸発したあと、親族間をたらい回しにされた貴女は、一人で生きるためにお金を稼ぐ必要に迫られて幾つもバイトをかけ持ちしてましたね』

 人の生い立ちについての説明に時間を割くくらいなら、もっと他のところを教えろと言いたいけど我慢する。口を挟もうにも早口すぎるのだ。

『そして事件が起こった当日は夜勤明けだった。貴女は……あ、この辺ざっくり割愛しますね。とにかく車に轢かれそうになった男の子を助けました。そして不運にも十九歳という若さで亡くなりました』

 ――……言われてみればそんなことがあった気がする。何となくこの空間で薄々感じてはいたけどやっぱり死んでいたらしい。

『貴女が助けたその男の子は将来国内有数の名医になる子だったので、彼が将来助ける人命の数を貴女が救ったことにもなりました。大変なお手柄です。そこでこのたび一回限りの大盤振る舞い。上にかけあって転生か転移が出来るように手配しました。ただし付与出来るギフトの上限が決まっていまして』

 死後の世界も世知辛いなと思いつつ先を待っているとまたもやスマホが鳴って、バキバキだった液晶画面からヒビが消え、そこに【貴女がこの先生きていたことで予想される生涯獲得金額】と書かれた一文の後ろに、これもまた世知辛い数字が並んでいた。予想はしてたけど少ないな……。

 比較対照に並んでいる助けた子供の生涯獲得金額のゼロの数との格差が凄い。でも前向きに考えればこの金額を叩き出す子を助けたわけだから、無駄死にではなかったのだろう。

『そうですね。貴女の犠牲は尊いものでした。生涯獲得金額は微々たるものですが、この試算には出せない価値が貴女の命にはあります。とはいえこの数字で賄える以上に付与出来るギフトはありませんが』

「いや別に綺麗にまとめようとしないで良いから、そう思うならもう少――、」 
 
『この数字ですと、つけられるオプションは――、』

「おいコラ、待て。今オプションって言った? ギフトより安っぽいんだけど」
 
『異世界での生活が寂しくないよう守護精霊一体と、マジックアイテム……は、少し足が出てしまうので、もうこのスマホで良いですね。せっかくさっきヒビも修復しましたし。あ、でもこの際壊れないようオリハルコン並に頑丈にしておきましょうか。残りのオプションで』

「はあ!? ちょっ、勝手に決めるな!!」

『おやおや。もう残りはこれだけということは……選べる精霊のレベルはこのくらいまでで、転生の際に姿を美しく……もちょっと厳しいか。若干向こうの世界線に馴染めるように顔の彫りなんかを整えるくらいですかね』 

「おいおいおいおい、待て待て待て待て!!!」

『今そっちに守護精霊を転送しましたので、残りは彼から説明を受けて下さい。私は次の決済があるのでここでお別れです。貴女の次の人生に幸多からんことを!』
 
 言いたいことだけ言ってこちらの不満も聞かないまま、一方的に音声機能は打ち切られた……が。真っ白な世界で呆然とする私のスマホから、ニュッと小さな手が出てきた。

 直後にびっくりして落としたスマホは貴重なポイントを使っただけあって割れなかったものの、地面に落ちた画面から抜け出てきたのは、守護精霊と呼ぶにはあまりにも頼りない姿をしていて。そのことに声を発する前にそれまで真っ白だった世界がみるみる拓けて私をさらにげんなりさせた。
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