個性豊かな異世界召喚

佐原奏音

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第二章 『紅月の下の古城』

13.『炎を切り裂く風』

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 騒然たる王都から北西に数キロ離れた鬱蒼とした森。霧により視界を遮られ、本当の意味で右も左もわからないような場所で行われた戦いの痕が、闇の隙間から溢れた紅い月の光によって晒される。
 そこにはその戦いを終えたばかりのおよそ人とは言い難き怪物が二人いた。

「――っクソがよ」

 片方の獣の怪物、人狼のギデオンは不機嫌そうに悪態をつくと、地面に落ちた槍を踏みつけて破壊する。
 穂先が変形し、使い物にならない槍ではあったが、大木を抉り倒すほどの威力と耐久性は兼ね備えた逸品であった。
 それがギデオンがただ踏みつけるだけで粉々に砕けて壊れていく。

「どうした? いよいよ自分の愚かさに嫌気が差したか」

「違げえよ!! 奴らから一発、弾を食らっちまったことにムカついてんだよ!」

 ギデオンの右足には貫通したものの、痛々しい銃痕が残されていた。血は止まり、致命傷というほどでもなかったが、心の傷は癒えない。
 リツから食らった一発。一発と言えば簡単かもしれないが、ギデオンからすればプライドを傷付けられたも同然だ。この怒りが治まることなどない。

「それは貴様の注意不足の結果だ。他に怒りをぶつけるのはお門違いというものだ。自分自身を悔いろ」

「いちいち癪に障る野郎だぜ。お強いスレイさんは一撃も食らわないんだろうな」

「そうだが? それがどうした?」

 ギデオンの煽りにも顔色一つ変えることなく、いなしていく。想像した反応と違ったのか、ギデオンは舌打ちをする。

「それよりも俺様はまだ満足してねえんだぞ。何故地下牢に送らせた?」

「あそこは魔獣が住み着いている。牢を出れば腹を空かした魔獣の餌食となるだろう? それを潜り抜けてきた強い勇者こそ、貴様が戦いたい相手だろうと思案したのだ」

「なる……ほどな?」

 スレイの考えなど微塵も理解できなかったギデオンだったが、あえて納得したように振る舞う。

「やはり、その詰まっているのか定かではない小さな脳では難しいか……」

「うるっせえってんだ!!」

 我慢の限界だったギデオンは再び牙を剥く。だが、今度は先程のように怒りに任せてではなく、冷静さを保とうとするかのようにゆっくりと近付いていく。

「ちっ。次こそ仕留めさせて貰うぜ」

「ならば、貴様はホールで待っていろ。数時間もすれば勇者が一人くらい這い出てくるだろう」

「つっても、動き足りねえんだよな……」

 そう不満を吐き出し、自らが作り出した土の壁の向こうを見る。

「おい。あの兵士たちはもう全部殺ったのか?」

 ギデオンが視線向ける先、土の壁の向こうは歴戦の猛者である兵士たちは既に虫の息だ。

「いや、息の根は止めてはいない。勇者共を怯ませる罠だ」

「匂いがキツくて敵わねえ。丁度いいことだしな。俺様が後始末しといてやるよ」

「——ッ! ——やめろッ!」

 スレイの制止の呼びかけにも応えず、ギデオンが腕を振る。
 すると、そびえ立っていた土の壁は瞬く間に虫の息だった兵士たちの方へ覆い被さるように倒れる。
 鈍い音を立てて、鎧が肉が骨が、ひしゃげて潰れていく。中身をぶちまけたそれは、やがて土の中へ押し込まれるようにして消えていった。

「……」

 そこにはもう何も残されていない。そこに人がいたという痕跡さえも、消えてしまった。皮肉にも嫌な音だけがただ虚しく耳に残る。

「あ、なんだ? テメェでやりたかったか?」

 出し抜いてやったかのように、ただの怪物は口の端を上げる。

「…………いや、いい。貴様は地下牢に落とした勇者たちが目覚めた時に備えておけ」

「テメェはどうすんだよ?」

「私はこの娘を城に連れていく。目覚めたらバルバトス様に会わせる」

 抱き抱えた女の子を見て、スレイは古城へ向かう。

「さっきも気になったがよ。その女は何者なんだ?」

 引くラインを知らないギデオンは悪びれもなく、不躾に聞いてくる。
 その様子に何とも言えない何かが胸の内から沸いてくる。だが、それは喉の奥で出てくることを拒んだ。

「…………貴様には関係のないことだ。しばらくすればジノスも戻ってくるだろう」

 そう言うと、スレイの周りで風が吹き荒れ、木の葉が舞う。スレイの身体を包み込むようにしてスレイと女の子は姿を消した。
 一人残されたギデオンはその様子をただ傍観していた。古城の方を横目で見ると、右手で頭を掻き、深くため息をつく。

「……ったく。なんだってんだよ」

      ※    ※    ※

 燃え盛る王都をから強弓から放たれた矢が横切っていく。火に煽られようとも朽ちず、風を受けようとも減速しないそれは、怪鳥の胸へと真っ直ぐに飛んでいく。
 ほんの十数メートルかそこらの距離だ。三秒と待たずして、目標を射抜くだろう。

「……」

 もはや、避けようもない攻撃に諦めたのか顔色を変えることなく、矢を見届けている。
 先制の一撃を与えられたとタクミはぬか喜びをしてしまっている。そんな簡単に倒せるはずがないからだ。

「やはりお主は弱いな」

 タクミの様子に呆れ返ったジノスは、胸を前へと突き出す。突き出した胸に一筋の線が浮かび上がる。
 線がガバっと大きく開き、その本性を晒す。均等に並んだ凶悪な歯が剥き出しとなり、その奥からは赤い光が見える。
 何かを溜めているのか、光は徐々に大きくなっていく。
 矢は既にジノスのほんの数センチ先のところまで来ていたが、矢はジノスに到達することはなかった。

「何あれ!?」

 隣いたただの馬鹿であるスズネでさえ、その光景に目を見張る。
 ジノスの胸から大火が噴き出す。それは矢を飲み込み、瞬く間に消し炭に変える。全てを呑み込んで、全てを無かったことにしていく。
 そして炎はその勢いを殺すことなく、タクミへと伸びかけていた。

「……あ」

 タクミの顔色が絶望に染まっていく。死を悟ったわけではない。目の前で起きていることが理解できなかったのだ。
 先程までの余裕は消え去り、今はただ立ち尽くし迫り来る業火に身を焦がされるだけだった。
 ーーはずだった。

「……へ?」

 タクミの視界が急変する。
 身体が浮き上がり、横腹に強い衝撃を受ける。
 そのまま吹き飛ばされ、瓦礫の山に突っ込んでしまった。

「あ……ごめん。やり過ぎた」

 申し訳なさそうに謝るのは、スズネだった。
 スズネは魔法を行使して氷柱を生成し、タクミを吹き飛ばしたようだ。それも一瞬で数十メートルもの距離を移動できる程の速度を出して。

「……痛い。ミクラさん、病人は丁重に扱って欲しいな。いくら軽く動けると言っても、これは無理がある」

「でもこうでもしないと、タクミさん死んでたよ?」

「そこは素直にありがとうございます」

 タクミは起き上がって服についた埃を払う。幸いにも怪我はないようだ。
 タクミの身体が思いっきり突っ込んでしまったのはどうやら、露店だったようだ。その証拠に商品がそこらに散らかっている。

「あそこか……」

 その散らかったものの中に持っていた弓が見える。弓は瓦礫の下敷きになっていた。
 一つ一つの瓦礫を退かしていき、弓を手に取る。そしてその横には奇妙な色をした小瓶が転がっていた。
 タクミはその小瓶を見て、微かに笑う。

「さて、と……」

 タクミは弓と小瓶を手に取り、改めてジノスへと向き直る。既にジノスの周りには何もなくなっており、地面には焼け跡だけが残っていた。

「やはりこれはチュンも熱いから苦手だな。少し改良が必要かもしれんな」

 ジノスは胸元の大きな穴――否、口をさすりながら呟く。そこから煙が立ち上っていることから火傷を負っていることがわかる。
 しかしその火傷も次第に消えていく。

「炎を使うのに熱いって……いや、熱いくらいしか感じない方がおかしいか」

 あれほどの炎を生み出しておきながら、自身は熱いと言い捨て、軽く火傷をした程度だ。
 魔法を扱う者は、自らの適正属性の魔法は食らっても大したダメージを負うことはない。中には受けたダメージをそのまま自らの魔力に変換する者までもいる。
 しかしそれは、人間の話だ。
 魔族の場合、適正属性の魔法を食らったとしても、ダメージはそのままの威力で蓄積されていく。人間とは違う魔力の流れのため、魔力に変換することはまず不可能だ。
 ――というのが普通の話だ。
 このジノスという怪鳥は自らの魔法でダメージを負っている。自らの魔法でダメージを負う前例など聞いたこともない。別にこちらがカウンターをした訳でもない。
 ならば何故炎によるダメージがあるのか、それさえわかれば、この絶望的な戦力差でも対抗できるかもしれない。
 しかしそれがわからない。
 炙り出すために、一つカマをかけてみる。

「それにしてもあの炎は何なんだよ? 胸から出してくるとか規格外にも程がある――」

「――そんなに熱いなら冷やしてあげる! 『アイスペブル』」

 タクミが思考している最中にスズネは炎の仕返しとして氷の礫を十個撃ち出した。そのどれもが同じ軌道を描いてジノスへと飛んでいく。
 しかしそれも呆気なく躱され、ジノスはそのうちの一個を掴み取り、スズネへ撃ち返す。

「嘘でしょ!?」

「俺がまだ話してる途中だろうが、このおバカ令嬢!」

 咄嗟に残りわずかな魔力を使い、風の流れを作り出す。風の流れは弱いものではあったが、氷の礫の軌道を変える程度の力はあった。
 スズネの前で急に軌道を変えられた氷の礫は横の建物の中へと突っ込んだ。建物が轟音を立てて崩れ落ちていったが既に燃えて、崩れかけていたのだから大差はないだろう。

「タクミさん、ありがとう!」

 スズネに礼を言われても、何とも言えない表情を浮かべるしかなかった。

「俺の話を遮るのは頂けないけど、まあオーケー。これで貸し借りナシだ」

「えーと……」

「冗談だよ。それより危ないから俺の近くにちゃんといてくれよ」

 スズネは素直にそれを受け入れ、タクミの背中に隠れるように移動する。
 スズネの反応に苦笑しつつ、再びジノスの方へと視線を向ける。

「それで……さっきの話の続きなんだが、お前の炎はいったいなんなんだ? 普通とは違うし、何よりお前の反応も気になる」

「何だお主、気付いたのか?」

 ジノスは意外そうな顔をしながら答える。

「……ということは、やっぱり何かあるんだな?」

 ジノスは小さくため息をつくと、タクミを睨みつける。

「お主は勘が鋭いな。そこの娘と違い、中々に骨がある」

 ジノスの眼光にタクミは僅かに気圧されるが、何とか踏み止まる。やはり威圧感が尋常ではない。

「……だが、その質問に答えてやる義理はない。例えこれから死ぬ者であろうとも、死ぬのであれば何を言っても意味はない」

 そう淡々とタクミたちに向け、死の宣告をする。
 しかし、タクミはそれでも怖じ気付くことはなかった。ジノスに言われた言葉に少しイラついてしまい、逆に煽ってしまった。

「へえ。でも言った方がいいと思うけどな。その死ぬ者ってのは多分、……お前のことだから」

「――ッ! もういい、死ね!」

 ジノスの激昂を買い、再び胸の口が大きく開き、そこから先程より大きな規模の業火が吐き出される。
 食らえば、骨も焼き尽くす程の火力だ。普通は避けようとするはずだ。

「あーあ。なんだよもう殺すのかよ。……せっかくだからいいことを教えてやる。魔王軍のお前ならとっても嬉しいことのはずだ」

 ジノスは構わず炎を放つ。
 しかしタクミは避けようともせず、むしろ堂々としていた。やがて炎の渦は迫り来る。
 タクミは涼しい顔でジノスを見据えるだけだった。

「俺とミクラさんはこの世界に召喚され、つい先日、魔王軍幹部の蛇女を倒し、これからお前を倒す勇者だ」

 そう宣言し、タクミは小瓶の栓を抜いて中身を喉の奥へ流し込む。不思議な感覚の喉越しに少しだけテントで伏していた時の吐き気を思い出した。
 そんなタクミの様子にジノスは一つ息を吐く。

「……そうかお主らが勇者か。レジーナ様を倒したとは聞いたが、その程度の力だったとはがっかりだ。痛ぶる気も失せた。強火で苦しみ無く殺してやる」

 炎は勢いを削ぐことなくタクミたちへと襲い来る。
 しかし、その炎を遮るように氷壁が生み出された。氷壁はタクミたちの前に立ち塞がり、ジノスの放った炎を受け止める。

「これでちょっとした時間稼ぎになるかな!」

「……っぷは! ミクラさん、ナイスサポート!」

 タクミの前にスズネが立ち、氷壁を生み出していた。
 その氷壁に阻まれ、炎は威力を減衰させながらも徐々に迫ってくる。

「……この程度の氷なんぞすぐに溶かせるぞ。チュンの炎を舐めるではないわッ!」

 ジノスの言葉通り、氷壁は徐々に溶かされていく。スズネは慌てて氷を追加していくが、ジノスの言うように焼け石に水でしかない。
 そして遂に氷壁は砕け散った。氷片が舞い、氷壁の奥にいたタクミたちが姿を現す。

「――ッ!!」

「……舐めてるのはどっちだ? ――『ウィンディアロー』!!」

 姿を現したタクミは弓を構えていた。放たれたのは風の魔法矢。しかしただの風ではなく、纏う風に氷属性が付与されているものだ。
 それはジノスの放つ炎の渦を突き抜け、一直線にジノスへと向かう。

「……ッ!? お主、魔力が跳ね上がっているではないか!」

「ああ。俺は今、魔力回復ポーションを飲んだ。これでさっきまでみたいに防戦ばかりにはならないぞ」

 ジノスの表情が驚愕に染まる。
 確かにタクミの言ったことは事実だ。先程まで枯渇寸前であったはずのタクミの魔力量はいつの間にかかなり回復していた。
 だが、それだけではないのだ。

(それにしてもこのポーション、凄いな)

 タクミは内心で感嘆する。何故なら今のタクミは、身体が軽く感じられたからだ。まるで羽根のように軽い。
 恐らくこれは身体能力強化の効果もあるだろう。だが何よりもタクミの興味を引いたのは、疲労感が完全に消えていることである。

「……まあ、それももう終わるから遅過ぎたバフだな」

 タクミが放った矢はまだ止まっていない。
 炎を矢に纏う風が切り裂き、矢が燃え尽きないように氷属性でカバーしているため、決してジノスの炎では止められはしない。

「くっ! 調子に乗るなぁ!!」

 ジノスは両腕を広げ、矢に向けて巨大な業火を放つ。
 しかしタクミが放った矢はその炎すらも貫いて進む。そしてそのままジノスへと到達し、胸の中心に突き刺さる。

「――ッがは!」

 血反吐を吐き出しながらジノスは吹き飛ばされ、地面に倒れ込んだ。
 ジノスの胸からは多量の血が溢れ出し、痛々しい傷が見るに堪えない。
 それでもタクミはゆっくりと近付き、ジノスを見下ろす。

「お前の負けだ。多分、もうすぐでお前は死ぬ。その血の量じゃ、無理だ」

「ぐぐうっ……!」

 自分の命を省みてないのか、無理にでも立ち上がろうとする。上の口からも胸の口からも血を垂らしている。
 胸を一突きだ。しかも、貫通している。ほぼ心臓を貫いているだろう。息をするのも苦しいはずだ。

「無理するなよ。もう力も全然入らないだろ」

 そんなタクミの制止の言葉もジノスには届かなかった。

「ぐぅッ!! ……まだだ! まだまだァアアッ!!」

 ジノスは胸を押さえるふりをし、胸の上で両手で輪を作る。胸の口から炎が溢れ出て、天高く火柱を立ち上らせる。

「……な、何なの?」

「まさか、アイツ……っ! 最後に王都全体に火を放つつもりか!?」

 ジノスのやろうとしていることに気付いたタクミは即座に駆け出す。せめて近くにいるスズネだけでも助けようと思った。
 しかしジノスはタクミが動くのを見ても、止めようとしなかった。
 最後の力を振り絞り、火柱を放った。その炎は上空へ昇り、王都を中心に空一面を覆い尽くすほどの炎となる。
 それを見たジノスは満足そうに笑みを浮かべて静かに目を閉じた。

「……これは魔力がどうこうの話じゃ無理だろ」

 目の前に広がる光景を目にして、思わずそんな言葉が出てしまう。スズネは呆然としており、タクミは苦虫を噛み潰したような顔をする。
 この炎が振り注げば、辺り一帯は火の海となるだろう。

「このままだと俺らも焼け死んじまうぞ……」

「ど、どうにかしないと……!」

 燃え盛る炎はまるで生きているかのように動き回り、タクミたちを追い詰める。

「――『羽稚盗はちどり』」

 突然聞こえてきた声に呼応して、辺りから光の羽が飛んでくる。光の羽は広がろうとしていた炎を一箇所に集め、徐々に炎を小さくしていく。
 そして次第に光が鈍くなっていき、いずれ消えていった。
 タクミたちは何が起こったのか理解できない。何が起こった声のかした方に視線を向けるとそこには知った顔がいた。

「……あ、アロエさん?」

 空から羽を広げ、優雅に降りてくるのはアロエだった。彼女はタクミたちを見下ろしながら、微笑む。

「どうもぉ。タクミさんにスズネさん、お久しぶりですぅ」

「なんでアロエさんがここにいるの? それにその羽は……」

「あんな大きな火柱が立てば、どこにいても見えますよぉ。私ハーピーなので飛んでたら簡単に見つかりましたしぃ。それに、この方たちを送り届けないといけなかったのでぇ」

 急な人外カミングアウトでタクミたちを驚かせるが、アロエの横にはそれよりも驚かされるものあった。

「アカリ……! それにシオンも!」

「二人とも、ボロボロだよ!?」

 そこには全身傷だらけのアカリとシオンの姿があった。二人とも意識はなく、鳥籠のような光の檻に入れられている。
 しかし、傷だらけの割には、血があまり出てはいないようだ。それに安らかな表情をしている。

「大丈夫、息はありますぅ。私がお二人に会った時には既にこの状態でして、今は私の魔法で回復中ですぅ」

「なんでこんなことになって――」

 なんでこんなことになっているのか、そう聞こうとして顔を上げると、アロエの姿は消えていた。
 いや、正確にはあり得ない速さで移動していた。アロエは大きく翼を羽ばたき、倒れて意識を失ったジノスのもとへと飛び寄っていた。

「……おやぁ? もしかしてそれは私の作品第一号じゃないですかぁ?」

「作品……?」

 アロエは興味を倒れ込んだジノスに変え、ゆっくり近付く。そして顔を覗き込み、状態の確認をする。

「とりあえず起きてくださいぃ。そのままだと話がしにくいですぅ」

 そしてアロエはジノスの胸元に手を当て、何か呟くように口を動かし、手を翳す。するとジノスの傷口は徐々に塞がっていく。

「お、おい! 回復なんてしたらまたそいつ暴れるじゃないか!」

「安心してくださいぃ。私の意思に関係なく暴れ出したら、即座に塵にしますのでぇ」

 冗談を言っているのか本気なのか、よくわからないことを言う。
 安心できる発言ではあるが、不安な発言でもある。
 ジノスの顔色はみるみる良くなっていく。完全に回復したのか、ジノスはゆっくりと目を開ける。

「あ、起きましたぁ? あなたに色々と聞きたいことがあるんですけどぉ」

「…………あ。ああ、あぁあああぁぁああ!! なんであなた様のような御方がこんなところにぃッ!!」

 アロエの姿を目視したジノスは目を大きく見開き、地面に尻を着いたまま後ずさる。その光景にタクミたちは唖然とする。
 今のジノスには、あの全ての生き物を下等と見下すような威勢はない。怪物がいたはずの場所には、鷹の恐怖に怯える小鳥がいた。
 その様子にアロエはクスリと笑い、今までの彼女とは思えない瞳を向ける。

「しばらく帰っていませんでしたが、まだ生きていたんですねぇ。
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