個性豊かな異世界召喚

佐原奏音

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第二章 『紅月の下の古城』

5.『カミングアウト?』

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 初討伐祭準備三日目、ようやくすべての作業を終わらせることができた。
 一悶着あったが、それほど大した問題無く進めることができた。
 午前中に終わらせられ、街を周ろうと思ったが、国王に呼び出された。また何か問題があったのだろうか。

「みんな集まってくれてありがとうね。いよいよ明日は前夜祭ということでね、みんなに頼みがあるんだ」

「頼みって?」

「みんなの中から一人、代表を選出してその人に演説をしてもらいたいんだ」

「演説か……」

 先日、国王は俺たちの存在を公表すると言っていた。それに関することなのだろう。

「演説ってさ、どんなこと言えばあいんだよ?」

「普通に……どうもぉーー!! 勇者でーす!! 幹部倒しましたー!! ……とかでいいんじゃない?」

「そんな勇者には誰もついて行きたがらねぇよ!」

「そもそも誰が言うの?」

 俺が言うのはかなり厳しいと思う。なにせ俺は人前でスピーチなどという目立つようなことはしてこなかった。そんな日陰者の俺には務まらないだろう。

「ユウヤでいいんじゃね?」

「あー、一応幹部倒したのユウヤだしね。適任だよね」

 タクミとアカリがとんでもないことを言い出した。

「待て待て! 俺には務まらないって! 俺だぞ! タクミ、お前ならわかってるだろ!?」

「悪い、ユウヤ。面白ければいいんだよ。だからその犠牲になってくれ」

「あんた最低だな!?」

 俺にはキツいぞ、これは。
 まだ、リツやタクミの方が適任だ。俺にやらせたらアウトだ。

「ということでユウヤくん頼むよ」

「国王まで……」

 これはもう引き下がれないと悟る。
 というよりは引き下がれなくされた。
 だが、これは逆にチャンスかもしれない。
 ここで俺の有能さを国中に知らしめれば、どこかで聞いてくれるだろうメリナにも届く。これは俺のポイントを上げるためのものなのかもしれない。

「あーもうわかったよ! 俺でいいよゲスどもがよ!」

「よし、みんな! ユウヤを盛大に煽ってやろうぜ!」

「あーもうわかったー!! もうお前らを仲間と思わねー!」

 茶番のような会議を終わらせて、俺は祭りに誘いたい人のところへ向かった。

      ※    ※    ※

 俺が向かったのは『魔道具店アロリナ』。
 俺が誘いたいのはメリナだ。
 もちろん、こういう展開は二人きりではなく、その友達も付いて来るというオチだ。なので、アロエも誘う。
 しかし、いざ誘うとなる躊躇するものがある。
 女の子を誘うのだ。それなりに緊張はするのが健全な男子高校生たるものの行動だ。
 しかし、覚悟を決め、店の扉を開く。
 鈴がなると、メリナとアロエの営業挨拶が聞こえてきた。

「よお、メリナ、アロエ。十日ぶりだな」

「ユウヤさん! 今回かなり活躍したみたいじゃないですか!」

「私も聞きましたぁ」

「お、誰かから聞いたの?」

「リツさんと女性の方たちがユウヤさんの話をしてくれたんですよ。魔王軍の幹部にトドメをさしたって」

 メリナが嬉しそうに話しているのを見ると、俺も嬉しくなってくる。
 幹部を倒せて良かったと、始めて思えた。

「そんな褒めるようなことじゃないよ~」

「いえ、ユウヤさんはもっと誇るべきなんですよ。だってあの人を倒したんですから。あの人かなり強いですよ」

「あの人、性格も悪いよねぇ」

「? メリナとアロエってレジーナを知ってるのか? あの場にはいなかったっぽいけど」

 二人とも動きが固まった。

「あ、ああいや、噂ですよ。噂。こういう魔道具店やってると、旅人さんとかが話をしていくんですよ」

「そうそう、なんかもうすごい大きい蛇だとか聞きますしぃ」

 焦り焦り、さっき言ったことへの訂正をする。
 物申したい気持ちもあるが、詮索するのはやめておこう。

「そうなんだな。いやー、てっきり魔王軍と関係があるのかと思ったじゃんかよー……なんて」

 メリナとアロエがまた固まった。

「そんなのあるわけないじゃないですか。ふふ。冗談も程々にしてください」

「魔王軍の者がこんな所に店を構えるわけないですよぉ。ちょっと人とはかけ離れているだけですよぉ」

「? アロエって人じゃないの?」

「私、ハーピーなんですよぉ。知ってますぅ? ハーピーって翼を人の腕に変えられるんですよぉ」

「ホントに人じゃなかったんだ!? ちょっとした冗談のつもりだったのに!?」

 突然のアロエのカミングアウトに驚いてしまった。どこからどう見ても人にしか見えない。腕も人と同じ見た目だ。

「アロエはなんでそうすぐに自分の素性をバラしちゃうの? 鳥だからなの?」

「メリナぁ。怖いですよぉ」

 顔をすくめて怯えるアロエはカウンターの下に隠れた。

「別に俺、言いふらしたりとかしないから大丈夫だよ。まあ、少しは驚いたけどさ」

 二人を安心させるためにも約束はしておかなければならない。さもなければ、この後の約束にも支障をきたすことになる。
 それは避けたい。

「ユウヤさんなら言いふらさないと思いますけど、あまり人に知られたくないんですよ」

 メリナは俯いて、そんなことを呟く。
 メリナの事情を聞いた俺は考えを巡らせた。

「んじゃあ、このことは綺麗さっぱり忘れる! それですべて解決だろ? ほら、アロエも出てこいよ」

「あまり納得はいきませんけどとりあえず良しとしましょう。それで? 今回は何をお求めですか?」

「あー、今日は買いに来たんじゃないんだ」

「「?」」

 二人が小首を傾げる。
 俺が大抵ここに来るのは魔導具を買いに来るぐらいだ。そんな俺が別の目的で来るのだから当然の反応だ。

「今、国総出でお祭り騒ぎだろ? だからさ、祭りの日に俺の他の仲間とみんなで出店とか周らないか?」

「ええ、いいですよぉ」

「私たちその日暇でしたので」

 祭りだと言うのに意外にもその日は店を出さないのか。この店は繁盛しているというのに不思議だ。

「サンキュ、それじゃその日迎えに来るから。ここで待っててくれよ」

「はい、待ってますね」

 メリナのスマイルを拝み、店を後にした俺は少し考え込んでいた。

「……やっぱ、気になる。メリナもアロエも魔王軍に絶対関係あるだろ、あれ」

 隠しているようだったのであまり踏み込んだ話をしなかったが、さすがに動揺が隠せて無さすぎた。だが、別に俺としては無理に問いただす必要のないことだ。向こうが言いたくないのならば、聞かないのが礼儀だろう。

「それに惚れてる女の子とその友達を疑うほど俺は最低じゃない。あの子たちがどんな裏を抱えてても俺はあの子たちを信じる。それが俺の優しさって奴だよな」

 自分を納得させるために二人の隠していることへの自分の素直な気持ちを述べて、城へ帰る。懸念しか残らないが、それを聞いたところで返って嫌な気持ちにさせてしまうだろう。

「『ゲート』」

 無属性魔法を唱え、城へと帰還する。城には俺にどのような演説をさせるか模索中の仲間たちがいる。帰るのには少し抵抗があるが、帰らざるを得ないだろう。

 ゲートを通るのと同時にその様子を見て、ゲート内をついて来ている者がいるとも知らずに俺はメリナとの祭りを楽しみにしていた。
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