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第一の記録
幕間
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「こいつは、何だか不穏な話だな」
「ええ。本当にこの交番で起こっている事なら、恐ろしいですよね」
大久保はそう言う。
「でも、その戸棚に入っていたのなら、順当に考えれば、ここじゃないのか?」
「そうですね。確かに、ここの入り口と外のガラス張りの外観で、表の席からは向かいの道路がそのまま見えるようになっているというのは一致してますけど、奥の部屋だとか、交番の中身に関しては違和感を感じますよね」
この交番は二部屋に分かれている。ガラス張りで、外が見える表の部屋は、長机で仕切られていて、主に訪問者の対応に使われる。残念ながら、訪問者はいないが。奥の部屋からは外が見えず、戸棚や金庫、ソファなどがあり、殆ど控え室として使う。
「言われてみれば、そうだな」
いみじくも指摘した大久保に、感心する。後藤は、ここで描写されている風景に、違和感を何ら感じなかったのだ。
「それよりも、この話によれば、原稿の語り手は辞職した人間と推察できるよな。一つの交番の辞職者の数など知れているし、もしこの交番で発生した事象なら、該当する人物が出てくるんじゃないか?」
「そこなんですよ。僕も気になって一応調べてみたんですが、参考になる物はなくて」
「ということは、またあの戸棚か。」
過去の勤務記録など、誰も好んで読む筈など無い。従って、あの戸棚に向かう訳だ。
「恐らく。探せばあると思います」
誰もが不要と分かるような書類とはいえ、捨てる訳にはいかない紙の集まりなのだ。それが何十年と溜め込まれてきたのだから、無論探し物をするのは容易ではない。
「後藤さん、もし良ければ、手伝って貰えませんか?」
「狙いはそれか。まあいい。ここで来もしない来客を延々と待つよりかは数倍マシだ。だが、先に俺は勤務日誌を書いているから、それまで自分で探しておいてくれ」
大久保の手中に嵌ったのは癪ではあるが、後藤自身が、興味を惹かれていた。
「おい、大久保。今年って何年だった?」
交番には勤務日誌をつける義務があり、日々の職務を記録しなければならない。
「今年は2020年ですよ。もう後藤さん、しっかりしてくださいよ」
「ああ、情けない事に、うっかり度忘れしてしまったよ」
「ふと思ったんだが、辞められた警察の本庁は、たまったもんじゃなかったろうな」
日誌を書きながら、後藤が言った。
「え?」
「いやいや、最近は警察官になろう、って人間が少なくなって、警察官不足が問題になってるじゃないか。それなのに、交番の前におかしな男がいるから辞めます、だなんて、本部は焦ったと思うぞ?」
「そんな問題、ありましたっけ。あっ!ちょっと見てください、後藤さん。目的のモノではないんですが…」
そう言って渡されたのは、分厚いリングのノートだった。
「これ、最初の方は普通に記録とかが書いてあるんですけど、後ろの方何ページかに…」
慌てて確認する。
「何だこれ。誰かの落書きか?」
乱雑な手書きの文字が、隙間なくノートを埋めている。
「落書きにしては、意味ありげじゃないですか?」
大体、交番にある資料に落書きというのも懐疑的である。
「休憩のついでに、読んでみるか」
「そうですね」
以下の話は、ノートの内容をそのまま掲載したものとなる。但し、所詮は殴り書きであるので、判読不能な文字は幾つか存在した。該当する箇所には適当な記号を振っておく。この点については予め、了とされたい。
「ええ。本当にこの交番で起こっている事なら、恐ろしいですよね」
大久保はそう言う。
「でも、その戸棚に入っていたのなら、順当に考えれば、ここじゃないのか?」
「そうですね。確かに、ここの入り口と外のガラス張りの外観で、表の席からは向かいの道路がそのまま見えるようになっているというのは一致してますけど、奥の部屋だとか、交番の中身に関しては違和感を感じますよね」
この交番は二部屋に分かれている。ガラス張りで、外が見える表の部屋は、長机で仕切られていて、主に訪問者の対応に使われる。残念ながら、訪問者はいないが。奥の部屋からは外が見えず、戸棚や金庫、ソファなどがあり、殆ど控え室として使う。
「言われてみれば、そうだな」
いみじくも指摘した大久保に、感心する。後藤は、ここで描写されている風景に、違和感を何ら感じなかったのだ。
「それよりも、この話によれば、原稿の語り手は辞職した人間と推察できるよな。一つの交番の辞職者の数など知れているし、もしこの交番で発生した事象なら、該当する人物が出てくるんじゃないか?」
「そこなんですよ。僕も気になって一応調べてみたんですが、参考になる物はなくて」
「ということは、またあの戸棚か。」
過去の勤務記録など、誰も好んで読む筈など無い。従って、あの戸棚に向かう訳だ。
「恐らく。探せばあると思います」
誰もが不要と分かるような書類とはいえ、捨てる訳にはいかない紙の集まりなのだ。それが何十年と溜め込まれてきたのだから、無論探し物をするのは容易ではない。
「後藤さん、もし良ければ、手伝って貰えませんか?」
「狙いはそれか。まあいい。ここで来もしない来客を延々と待つよりかは数倍マシだ。だが、先に俺は勤務日誌を書いているから、それまで自分で探しておいてくれ」
大久保の手中に嵌ったのは癪ではあるが、後藤自身が、興味を惹かれていた。
「おい、大久保。今年って何年だった?」
交番には勤務日誌をつける義務があり、日々の職務を記録しなければならない。
「今年は2020年ですよ。もう後藤さん、しっかりしてくださいよ」
「ああ、情けない事に、うっかり度忘れしてしまったよ」
「ふと思ったんだが、辞められた警察の本庁は、たまったもんじゃなかったろうな」
日誌を書きながら、後藤が言った。
「え?」
「いやいや、最近は警察官になろう、って人間が少なくなって、警察官不足が問題になってるじゃないか。それなのに、交番の前におかしな男がいるから辞めます、だなんて、本部は焦ったと思うぞ?」
「そんな問題、ありましたっけ。あっ!ちょっと見てください、後藤さん。目的のモノではないんですが…」
そう言って渡されたのは、分厚いリングのノートだった。
「これ、最初の方は普通に記録とかが書いてあるんですけど、後ろの方何ページかに…」
慌てて確認する。
「何だこれ。誰かの落書きか?」
乱雑な手書きの文字が、隙間なくノートを埋めている。
「落書きにしては、意味ありげじゃないですか?」
大体、交番にある資料に落書きというのも懐疑的である。
「休憩のついでに、読んでみるか」
「そうですね」
以下の話は、ノートの内容をそのまま掲載したものとなる。但し、所詮は殴り書きであるので、判読不能な文字は幾つか存在した。該当する箇所には適当な記号を振っておく。この点については予め、了とされたい。
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