怪賊

住原かなえ

文字の大きさ
上 下
6 / 11

第六話 大佐

しおりを挟む
「大佐!」
木の陰から現れたのは、紛れもなくアーマン大佐だった。

フォックスはすぐさま駆け寄ろうとする。

バァン!

思わぬ事態にフォックスは尻餅をつく。
アーマンが発砲したのだ。
フォックスに向かって。
何が起きているんだ。


「悪いなフォックス。俺はもうお前の大佐ではない。」
「な、何を…仰ってるんですか!」
困惑するフォックスにアーマンが答える。

「俺だってちゃんとお前の大佐だったし、本気でこの海賊共の対策を考えていたんだ。だが、三日前に全てが変わった。マーランド島から電話が掛かって来たんだ。」
混乱してものも言えないフォックスに構わず、アーマンが言葉を続ける。

「マーランド島の軍人からだった。用件を聞くとマーランド島の計画に協力して欲しい、という事だった。お前らは当然知ってるだろうが、マーランド島は海賊を用いてスペンサー島を落とそうとしている。初めは不思議に思ったよ。何でそんな乗る訳の無い話を持ち掛けてくるんだとね。だが、それを言ったら相手はこう言った。『もし協力すればお前をマーランド島の重要な役職に付けてやる』とな。」
「ま、まさか大佐!そんな下らない誘惑に乗ったんですか!」
フォックスが叫ぶ。

「ハハ。だけどな、俺はその一言を聞いてハッとしたよ。俺は元々この国の王、エドワードの一族が嫌いだった。狂った政治しかしない典型的な独裁者だ。この国であれを好きなやつなんていない。だが俺はそんなクソ野郎の下でペコペコ頭を下げて大佐をやってる。俺は正直馬鹿馬鹿しくなった。しかしだからと言って俺はマーランドの下につく気はねぇ。俺はスペンサー島もマーランド島にも従わねえ。俺はそんな奴らを潰して、ここを俺の国にする!」
「あんたがか?笑えるな。」
トーマスが嘲る。

「そう思うだろ?だが周りを見てみろ。お前らは俺の部下達に囲まれてるんだぜ?そう、そいつらは有志だ。三日で集めたもんだから大変だったが、優秀な軍人も沢山引き抜いた。要は皆、あのクソエドワードが嫌いなんだよ。」
「例え王が独裁者だとしても、スペンサー島を敵にするのは間違ってると思わないのか!」
フォックスが声を荒げる。

「あと一つ、お前らに忠告しておこう。お前ら海賊はすでにマーランドの野郎共に嵌められている。言っちゃ悪いがマーランドの奴らはお前らを生かしておくつもりなどない。陽動作戦の協力をして報酬を貰おうとしてたんだろ?今までみたいに。だが、今回はそうはいかない。」
「何だと!?」
ジェイムスが叫ぶ。

「奴らの計画は海賊に協力して国を取るつもりはない。海賊を殺して国を取ろうとしてるんだ。分かるか?この意味が。お前らは他所から見れば国を取りに現れた大悪党だ。つまり、その悪党を倒せば、英雄になる。そして、そのどさくさに紛れてスペンサー島の軍隊までもを滅ぼし、スペンサー島を何気ない顔で頂くつもりなんだ。」
「どうしてそんな回りくどい事をするんだ。マーランドは!」
今度はクリスがそう言う。

「キートソン帝国が興味を示してる。お前らは馬鹿じゃないから分かるよな?これがどういうことか。」
「嘘だろ…キートソン帝国だと!?」
ニックが仰天する。

「そう、あのキートソン帝国だ。我々スペンサー島やマーランド島の比ではないぐらいの強さだ。恐らく相手にならないだろう。キートソン帝国はかつての世界大戦にも圧勝し、最早軍事力で右に出る国など存在しない。そして、奴らの何よりの特徴は、見せしめ主義だ。自分達の正義を全うし、国内外からも支持を集め、同時に恐怖を与える。」
「ま、まさかじゃあ…」

「そうさ、今回の件はキートソン帝国から見ても海賊が悪党だ。さっきも言った様に、海賊を討ち取った者が英雄視される。そして見せしめ主義のキートソン帝国はその英雄に加担するだろう。つまり、この争いにおいて、海賊を討ち取った者がスペンサー島を手にすると言っても過言ではないだろう。」
「じゃあつまり、この島にいる輩は全員俺たち海賊の命を狙いに来てる訳だな。」
ニックがそう言う。

「その通りだ。もう察しただろう。お前たちは既に包囲されている。逃げ場などないんだ。お前たちには何の恨みも無いが、この俺の計画を実行する上でお前らを討ち取る事は必要不可欠なんだ。」
「ちょっと待って下さい!なんで俺まで!」
フォックスが喚く。

「気の毒だが、フォックス。キートソン帝国は海賊が七名だと思っているんだ。」
フォックスは言葉も出なかった。

ニック、クリス、ジェイムス、トーマス、メリザ、エマ。そして、フォックス。
増えた一名はそれを露呈していた。

「もうお喋りの時間は終わりだ。眠れ!海賊!おいニコラス、撮影を忘れるなよ。」
最早、海賊にも打つ手立ては無かった。
皆静かに、観念した表情を浮かべていた。

ここまでか。
フォックスは眼を瞑る。



「隊長!至急報告します!西海岸にいた我が兵達が、スペンサー島軍と思しき集団に襲撃を受けています!」
「何!?スペンサー島軍だと!?まさか勘付かれたか!?」
アーマンが銃を向けるのを止め、怒鳴る。

するとその時、またしても木の陰からガサゴソと音がした。
「今度は誰だ!!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

月明かりの儀式

葉羽
ミステリー
神藤葉羽と望月彩由美は、幼馴染でありながら、ある日、神秘的な洋館の探検に挑むことに決めた。洋館には、過去の住人たちの悲劇が秘められており、特に「月明かりの間」と呼ばれる部屋には不気味な伝説があった。二人はその場所で、古い肖像画や日記を通じて、禁断の儀式とそれに伴う呪いの存在を知る。 儀式を再現することで過去の住人たちを解放できるかもしれないと考えた葉羽は、仲間の彩由美と共に儀式を行うことを決意する。しかし、儀式の最中に影たちが現れ、彼らは過去の記憶を映し出しながら、真実を求めて叫ぶ。過去の住人たちの苦しみと後悔が明らかになる中、二人はその思いを受け止め、解放を目指す。 果たして、葉羽と彩由美は過去の悲劇を乗り越え、住人たちを解放することができるのか。そして、彼ら自身の運命はどうなるのか。月明かりの下で繰り広げられる、謎と感動の物語が展開されていく。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

密室島の輪舞曲

葉羽
ミステリー
夏休み、天才高校生の神藤葉羽は幼なじみの望月彩由美とともに、離島にある古い洋館「月影館」を訪れる。その洋館で連続して起きる不可解な密室殺人事件。被害者たちは、内側から完全に施錠された部屋で首吊り死体として発見される。しかし、葉羽は死体の状況に違和感を覚えていた。 洋館には、著名な実業家や学者たち12名が宿泊しており、彼らは謎めいた「月影会」というグループに所属していた。彼らの間で次々と起こる密室殺人。不可解な現象と怪奇的な出来事が重なり、洋館は恐怖の渦に包まれていく。

推理のスタートは『スタート』

天野純一
ミステリー
被害者の茅森美智代が遺した謎のダイイングメッセージ。彼女は近くにあった“カタカナパネル”というオモチャの中から、『ス』と『タ』と『ー』と『ト』だけを拾って脇に抱えていた。 『スタート』の4文字に始まり、すべてが繋がると浮かび上がる恐るべき犯人とは!? 原警部の鋭いロジックが光る本格ミステリ!

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

咲が消えたあの日

神通百力
ミステリー
一人の女はある人物に呼び出されて天井も壁も床も真っ白な地下に来ていた。 遅れてきた人物は女に一人の少女の写真を見せた。その少女のことを女は知っていた。 だが、少女の名前は自分の知る名前とは異なっていた。 一方、柘榴恐妖が仲良くしてる少女――妖華咲はある日、学校を休んだ。咲は恐妖に隠している秘密があった。小説家になろうやノベルアップ+にも投稿しています。

特殊捜査官・天城宿禰の事件簿~乙女の告発

斑鳩陽菜
ミステリー
 K県警捜査一課特殊捜査室――、そこにたった一人だけ特殊捜査官の肩書をもつ男、天城宿禰が在籍している。  遺留品や現場にある物が残留思念を読み取り、犯人を導くという。  そんな県警管轄内で、美術評論家が何者かに殺害された。  遺体の周りには、大量のガラス片が飛散。  臨場した天城は、さっそく残留思念を読み取るのだが――。

処理中です...