1 / 1
雑踏の中、あの人を探して。
しおりを挟む渋谷のスクランブル交差点では、一日に25万人、休日なんかでは最大で50万人が通行するという。
青信号一回で、約3000人だそうだ。
私の知り合いを全員かき集めても、青信号一回分の人数にも及ばないだろう。
私はスクランブル交差点が見下ろせるカフェで、キャラメルフラペチーノを飲んでいた。
いつもは友達と来るんだけど、今日は一人。
一人で来たかっただけ。
窓際のカウンター席で、ただじっと交差点を見下ろす。
縦横無尽に渡って行く人たちを見ながら、3000人もいるのか、と思ったけど、それよりもすれすれの距離でぶつからずにすれ違っていく日本人はすごいなと感心した。
外国人が忍者だと言うのも無理はない。
歩きスマホしていてもあの人混みの中をすいすい避けるのだから、そのスキルの高さは異常だ。
信号が赤に変わり、人々はまばらに駆け足で渡り終えていく。
それをギリギリまで待って、今度は車が交差点を走り抜ける。
その間に、交差点を挟むようにして人々が溜まって。
青になると、いろんな方向からいろんな方向へと、一斉に流れ出す。
横断歩道の白線などお構いなし。毎日渋谷を通る人間にとって、あんな白線、あってもないのと同じだ。
何度も何度も同じ光景をじっと眺める。
上から眺める私には、交差点を渡る人たちの顔は見えない。
知り合いが通ったかどうかなんて、分かるはずがない。
普通に考えて、分かるはずがないのだ。
だけど私には、自信があった。何の根拠もない自信だ。
この3000人の中にあの人がいれば、私には分かると確信していた。
実際、先月、今日と同じくらいの時間に、友達とこの席に座っていた時。私はあの人混みの中で、あの人を見つけた。
顔を見たわけじゃない。正直丸三年は会っていないし、背も伸びて髪型も少し変わっていたようだけど、絶対にあの人だと思った。
私はたぶん、心の奥底で後悔していたんだと思う。
三年前の卒業式の日に声をかけなかったことを。
だから先月、あの人だって、思った瞬間に、追いかけたくなったのだ。
一人だったら間違いなく追いかけていた。
でも友達といたから、追いかけられなかった。
これは言い訳かもしれない。追いかけるにしても、心の準備も、確かに出来ていなかった。
そして、忘れていたと思っていたのに、突然ぶり返してきた奇妙なわだかまりだけが、一ヶ月心の中に残った。
それが今、私をここに座らせる。
変な自信と、期待感を持たせて。
少しだけ残ったキャラメルフラペチーノは、もう溶けている。
一口で飲み終えて、ゴミ箱に捨てられる状態だ。
いつあの人を見つけても大丈夫なように。
すれ違いも平行線ももう懲り懲りだった。
あの人が夢に出てきた朝はため息が出た。
渋谷に来るたび探してしまって、いないと勝手に肩を落としていた。
そんな日が続くのは嫌だと思った。
このままでは、奇妙なわだかまりは何年経っても消えないのだと、分かっていた。
だから私は一人、ずっと待っている。
私とあの人の運命が、もう一度交差する瞬間を。
今度こそ、あの人と正面からぶつかるために。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる