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第一章 ギルベルトの物語 男装の麗人

07 サーモピレー号

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 ギルベルトのカティサーク号は、艦隊の最後に入港した。
 かなりの被害で、特に船首は砕け、修理するぐらいなら、新造するほうが早いぐらいの状態。
「あぁ……長い付き合いだったな……カティサーク号もここまでか……」

 桟橋に立ち、感慨に浸っていると、イシュタル女王の使いがやって来て、『亡霊の館まで報告に来て欲しい』との伝言があった。

 イシュタル様……キリーに来ていたのか……
 ふと女王を思い浮かべると、顔が赤らむのが自分でもおかしく思った。
 濡れてくるとはな……

 イシュタルの前に出ると、ますます体か火照ってきた。
 とにかく海戦で有用だった、火炎瓶とバリスタについての効果を説明し、退出しようとした時、イシュタルが、
「ギルベルトさん、出港準備が完了したら、私の部屋へ来て下さい、こんな状況ですから、約束のお酒を浴びるほどとは行きませんが、夕食というより夜食でも準備いたしましょう。」
 と、いった。

 ギルベルトは小娘のようにウキウキして、指定の宿泊施設までかえった。
 しかし無残なカティサーク号が視界に入ると、ウキウキも吹っ飛んでしまった。
 とにかく船団の出港準備をしなくては……
 難民を無事に運ばなくては……

 義勇艦隊が交戦した以上、戦争は間違いない。
 港外を海上封鎖される前に、出港しなくては……できるだけ犠牲は少ない方がいい……

 今度はもっと簡単に勝つ!
 カティサークの仇を取ってくれる!

「野郎ども、カティサークはここに置いていく。」
「でも、あっしらはどの船に乗るのですか?」

「サーモピレー号――高速外洋帆船ティークリッパーの内の一隻、カティサーク号のライバル――しかないだろう、あの船をお借りしよう。」
「借りるといっても……」

「今航海、私は義勇艦隊の司令官、司令官の座乗する旗艦は必要だろう。」
「多少船員は、顔見知りが乗ることになるが。」

「ギルベルト!戯言もほどほどにしてもらいたいな、サーモピレー号は俺の船だ!」
「カティサークもサーモピレーも義勇艦隊所属だ、国庫の補助が入っている。」

「分かるか?つまりは非常時には、徴用されるということだ。」
「そして今、私は今航海の司令官、命令には従ってもらう。」

「そんな事は知っている、しかし欲しいのなら、力ずくでとったらどうだ!」
 サーモピレー号のカエサル船長は長剣を手にした。

「確かにお前のいうとおりだ、手っ取り早くていい。」
 ギルベルトも剣を抜き構えると、カエサルは斬りかかってきたが、これをギルベルトは何とか受ける。
 カエサルの剣法は、フェイントを多用するようで、プフルークとよばれる剣を、正眼に構えたギルベルトには分が悪い。

 まったくやりにくい……こいつは喧嘩剣術だが……強い……

 仕方ないな……奥の手をだすか……
 乙女の構え――イタリア剣術――といわれる、剣を肩にかついで、振り下ろすのだが、ギルベルトの乙女の構えは少し違う。

 体を捻りながら、この乙女の構えから、斜めに振り下ろす。
 普通なら隙ができ、そこを衝かれる事になる。

 不思議にギルベルトがこれをおこなうと決まる、無意識に体を捻るときに飛ぶからだろう。
 それがさらに加速を付けるのかも知れない、なにせ斜め前方に飛ぶのだから……

 しかしこの時だけは、ギルベルトは真っ直ぐ前方に飛び込んで、振り下ろすかと見えた剣だが、そのまま剣のポンメルといわれる、柄の頭でカエサルの上腕、肩に近い部分を砕いた。

 ソードレスリング……本来はマッチョな男に似合いの技だが、ギルベルトはスピードでパワーを補ったようだ。

「カエサル船長、ここまでにしないか?頼む、今回だけ貸してくれ。」
「カティサークの中にはお宝がある、それを借り賃として払おう。」
「……」
 沈黙するカエサルにギルベルトは珍しく頭を下げた。

 カエサルが、
「俺たちはカティサーク号を占領する……なにせお宝だからな……会計係……皆を連れて、カティサークをぶんどってこい!」

「カエサル船長?」
「俺は負傷したからな、この綺麗な姉ちゃんに、面倒見てもらいながら、パレンバンまでデートと洒落こむ。」
「まぁタダ飯は心苦しいから、少しぐらいは助けてやるさ。」
 こうしてカエサルは、ギルベルトの旗艦の副長となった。
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