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第六章 ヘディ・ハプスブルグ・ロートリンゲンの物語 地に堕ちた世界
ミコ様上機嫌
しおりを挟むミコが歓迎のアイリッシュダンスの中に入っている。
なにをやっても完璧の上に、神々しいほどの美しさ、一人また一人、ダンスを止め、ミコのダンスに見惚れているようだ。
「ねえ、この歓迎、貴女が入れ知恵していない、ミコ様、このような歓迎は、きっと喜ばれるでしょうから」
長谷川倫子が上杉忍に囁いた。
「まぁね」
「まさかと思うけど、あの娘さん、リズ・グレイさんでしたか、献上品?」
「そこまでは考えていなかったわ、ただ美人で女々しくない女を案内に、とはいったわ」
ローズマリーが、
「それって、お好みの女じゃないの、で何を画策しているの、アイルランドは二級に残ったのでは満足しないの?」
「出来たら二級や三級から寵妃が出ないかな、とおもって」
セレスティアが、
「テラの直轄惑星を目論んでいるものね、忍さんは」
「私はマルスとテラとヴィーンゴールヴの三惑星は、対等になれればと望んでいるのよ
「確かにテラは、再々ミコ様にご迷惑をかけた、しかし考えてみてよ、今のテラはミコ様に抱かれなくては生きていけない、罰は存分に受けたわ」
「そして『自分だけがよければ』との思想は、言葉は悪いけど処分された」
「確かに南米には、まだそのような考えの者もいますが、一度ミコ様が処分されています」
「今回の事は、南米にも伝わっています、警告に従わなければどうなるか、『主の凍れる炎』は情け容赦がない、たとえれば『神の罰』でしょう」
「もう表立っては喚かない、嫌でも暴力的な行動はとれない、モラルのない者は、人としては扱われないのです」
「確かに言われれば、いまのテラの人々は、おとなしくなったと思うわ……」
と、呉月娘。
「皆さんは聞いたことがあるでしょう、利己特性が人類の滅亡を呼び込む原因の一つ、後はY染色体の劣化、男が劇的に減り、『自分だけがよければ』はなくなりつつある」
「生存競争が激化しない限り、利己特性は現れない、徹底的に『人に尽くす、それが人の美しさ』という教育をすれば、この見捨てられそうなテラの人々といえども、長くミコ様とともに繁栄できる」
この忍の言葉を受けて、鈴木駒子が、
「今ふと思ったのだけれど、結局はミコ様の望んだことではないかしら?」
忍はその言葉に驚愕した。
「確かに……ミコ様は、当初はテラを救おうとなされていた、しかし……」
セレスティアが、
「人々は利己的で常に争い、都合が悪くなると裏切った……」
「そして、ミコ様は人を二つに分離、一方はマルスへ移住させた、良き心を持つ者は救われ、残りは取り残された……」
ローズマリーの呟きの後、駒子が言った。
「救いようのない者はまとめて滅し、望みの有るものはなんとかする……人類の選別は続いた……」
誰も何も言いません、ただ互いに見合っています。
「どうしたの、皆さん」
怪訝そうにミコが声をかけてきた。
あわてて忍が、「いえ、余りにお上手で」と答えるとミコが、
「パープル・ウィドウ・クラブの皆さんには謝りますよ、でもこれでテラの未来も開けたわ」
「ミコ様……分かりました、では迷惑料をいただきますよ!」
「観光旅行だけではダメ?」
「当然です!」
「しかたないわね、では観光旅行が終わるまでに考えていてね」
「皆さん、聞きましたね」
「聞きました!」
やれやれという顔をした、ミコさんです。
ダブリン高等女学校で、女生徒たちの歓迎に結構ご機嫌なミコさん、その夜の立食パーティーでも上機嫌、コルカノン――マッシュポテトにキャベツとベーコンが入っている、いわゆる付け合わせ――とソーダブレッド――イースト菌のかわりに重曹を使ったパン――とダブリン・コドル――ソーセージの煮込み料理――を気に入ったようで、パクパクと食べています。
「それにしても、ミコ様は質素な食事が御好きですね」
呆れたように、セレスティアがいいましたが、
「なんせ貧乏性ですからね、豪華な食事は身体にあわないの」
との返事。
その話を鈴木駒子にすると、
「そう言えば娘の聡子が云っていたわね、ミコ様の食事って夜でも朝食みたいって、でも量はすごいっていっていたわよ、そのうえお酒も底なしって」
ローズマリーが、「殿方の労働者みたいね」と云いながら、くすくす笑った。
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