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第五章 呉月娘の物語 おやこどんぶり

耳打ちの効力

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 マルス撤退後の日本列島、大陸と半島の難民がなだれ込んだ。
 瞬く間に男は死滅してしまったが、劉芙蓉の尽力で何とか安定した。

 引き続き半島を高麗ナーキッド領域として設立、劉芙蓉に再び任せ、何とか安定することになった。
 功績を認められ、芙蓉に執政官の話が持ち上がるが……

* * * * *

 困ったわね……ヨーロッパがきな臭いというのに、芙蓉さんが転出とはね……
 ディエゴガルシア島のパープル・ウィドウ・クラブ事務所で、上杉忍は浮かぬ顔をしていた。

 今日はディエゴガルシア高級技芸学校の入学式。
 生徒は入学希望の北米や中華の技芸学校卒業生の中から特別選別した女たちで、エリート候補である。

 パープル・ウィドウ・クラブの面々も、賓客として呼ばれて、入学式は盛大に行われ、つい先ほど終わったばかりである。

「どういたしました?」
 ローズマリーが声をかけてきた。
「いえね、劉芙蓉さんに執政官の内示があったの」
「そりゃあ、そうでしょうね、彼女、優秀ですからね、で、後任は、志玲さん?」

「それがね、志玲さんは管理官を辞職したいといってきているの、別に何の落ち度もないし、中華を上手く収めているのに……理由が分からないわ、まったく……」

「それで……理由はなんとなく分かりますわ」
「貴女、理由を知っているの?」
 
 ローズマリーは忍に耳打ちした、呉月娘の件を。
「劉志玲としては、母と一緒にミコ様のベッドを軋ませたいのね、その為に、パープル・ウィドウ・クラブに母を入れたいわけね」

 しばらく考えていた忍だが、
「案外名案かもしれない……大体あの地域は問題もないし、この際、懸案のザ・バイカルあたりも編入して、東アジアナーキッド領域を成立させれば……」

「どうしたの?」
 今度はセレスティア・デヴィッドソンが、声をかけてきた。
「皆さん、お久しぶりですね」
 鈴木駒子と長谷川倫子もやってきた。

「皆さん、お集まりで、ちょうどいいわ、少し相談があるので、お茶を致しませんか?」

 セレスティア・デヴィッドソンが、
「芙蓉さんは当然でしょうね、私は忍さんの案はいいと思うわ、だってね、管理官はパープル・ウィドウ・クラブの未亡人で決まり」

「しかし志玲さんはどういたします、このまま辞職させたら、この先、あまりいいことにならないわ」
 と、長谷川倫子が聞くと、
「娘のアリシアがね、補佐官が欲しいと云っていたの、志玲さんなら適任よ」

「私も名案と思います、特にザ・バイカルあたりも編入して、東アジアナーキッド領域という構想、ウラル以東はいまではほとんど人はいないし、いても中国の女ばかりですからね」
 鈴木駒子も賛成します。

「お母様の呉月娘さん、六十五歳でしたかね、たしか十六歳で芙蓉さんを生んだのでしたね、名誉刀自ですから容姿は文句なしですけど……管理官が勤まるかしら?」

「問題があるのですか?」と、長谷川倫子。
「とても優しいのよ」

「大陸と半島、それに列島は、志玲さんと芙蓉さんの尽力で安定しているし、ザ・バイカルも問題はないのでは?」
「誰が後任になっても収まるでしょう、問題はミコ様が抱くか抱かぬかだけでしょう」
 と、セレスティアが断言します。

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