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第二章 長谷川倫子の物語 色仕掛け
『ヒナ』という女神が降臨すれば
しおりを挟む長谷川倫子は、五十を少し過ぎてはいるが、その美貌は衰えない。
元々新橋の美人売れっ子芸者として名高かったが、名誉刀自として、アンクレットを下賜されている関係上、その容姿は三十五、六にしか見えないのも関係しているようです。
夫である長谷川太郎は、ナーキッドのテラ駐留軍司令官、元帥まで登りつめナーキッド参与にまでなっている。
六年前に逝去した時、国葬になり、ミコが直々に弔辞を読みました。
賢夫人として有名で、後妻ではあるが、なさぬ仲の先妻の忘れ形見を、我が子のように育て上げたのです。
息子は帝国陸軍軍人から、今ではナーキッド陸軍軍人としてテラ駐留軍に在籍、大佐に昇進し、連隊を指揮しています。
七回忌がもうすぐやってくるので、その準備のため長谷川倫子は忙しくしていました。
「あら、珍しいわね、セレスティアさんから手紙なんて、確か北米ナーキッド領域管理官……夫人待遇側女になったの……寵妃なのね……」
セレスティアの手紙には、ミコとの赤裸々な睦事が書かれていました。
一瞬、顔を赤らめ倫子の胸の奥底に嫉妬が……
「まったく、アメリカ人は開けっぴろげなのだから……はしたない……」
そう呟いたものではあるが、ミコの顔を思い出しました。
確かにあの方に求められれば……どんな女も……
さらに手紙は、このように綴られ終わっています。
……テラのパシフィック領域の島々は。救いを求めているようですね。
『ヒナ』という女神が降臨すれば、救いを差し伸べる事も出来るのでしょうが……
ミコ様は巨大な力をお持ちですね、誰かが代価を支払う覚悟を固めれば、『ヒナ』は誕生するでしょう……
貴女なら分かるでしょう?
倫子の胸にその昔、夫と訪れた若き時の思い出、そう一度だけ、夫と旅行したマーシャルの島。
抜けるような青い海と青い空の下、小さな島々が首飾りのように連なっていた、懐かしいクェゼリン環礁の光景が浮かび上がります。
懐かしいわね……あの島々が……いまは大丈夫なのかしら、テラの人々はナーキッドを見捨てた……
差し出す手を払い、ナーキッドをマルスへ追い出した、その時の行為が、ナーキッドの根強いテラへの反感の核心と思われるけど……
パシフィックの人々には何の責任もない、あの時この地域の人々には、ナーキッドへ物言う力などなかったはず……国連の力ある者だけの発言のはず……
「間違っている!そうよ!なんの責任もないのに、罪を問われているのよ!」
思わず倫子は声を出したのです。
誰かが、代価を支払う覚悟を固めれば、『ヒナ』は誕生する……
七回忌が終わったら……あなたは許してくれるでしょう?
人々の為ですものね……
そう思った時、ぞくっとしたものが、全身を走りました。
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