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第四十五章 カルシュの願い

07 寵妃は優秀

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 学園長が、
「復興チャリティ公演の打ち合わせに、明日行ってきますが良いですか?」
「全権委任しますよ、私はこの町が好きなんです、何とかしたいですから。」

「復興チャリティ公演?」
「エリーゼ、私はこの国のために公演を頼まれているのですよ。」
「なぜ、ヴィーナス様が?」

「私はヴィーナス・セリムともいうのです、このカルシュ自治同盟政府より嘆願があったのです。」
「あの有名な踊り子で、歌姫のヴィーナス・セリムが、黒の巫女様なのですか?」
「スケベで女好きで残酷で、冷酷非情の私がヴィーナス・セリムです。」

 ヴィーナス先生はジャバ王国の某侯爵家の令嬢で、その先祖はアムリア帝国の貴族となっています。

 ヴィーナス・セリムと名乗り、大陸を公演していましたが、父親の侯爵の逆鱗に触れ、勘当される寸前でした。
 イシュタル女王の御贔屓を得ていたので、勅命をもって勘当は解かれましたが、引退を余儀なくされていました。

 このたび、カルシュ自治同盟政府のたっての要請で、イシュタル女王とアポロ執政が、父親の侯爵とヴィーナス・セリムに口をきいことになっています。

 その結果、引退公演と同じ理由、つまり家名の名誉のために、本名と素顔は隠すという条件付きで、一回限りの公演が実現することになったのです。

 マネージャー役の学園長とともに、カルシュにやってきたことになっています。
 当然VIP待遇で、しかもイシュタル女王の意向で、イシュタル突撃隊が護衛するという、条件がつけられています。
 同盟政府はその条件をのみ、さらに警護厳重な宿舎を用意するとのことです。

 公演は二十日後、つまりエラム月でひと月後となりました。

 カルシュ自治同盟政府は、私のことを絶対に秘匿すると確約しました。
 劇場支配人は健在で、この計画を大変喜んでいます。
 すぐに大陸全土に宣伝するとのことです。
 しかも噂は、アポロ執政の情報機関が流していますので、物凄く早く宣伝が知れ渡ります。

「支配人、ご健在で何よりです。」
 支配人は心労で、十歳ほど歳を取ったみたいです。
 しかし私と会えたことを、大変喜んでいるみたいで、
「セリムさん、会えてこれほど嬉しいことはありません。」

「今回の公演については、カルシュのすべての人が喜んでいます。」
「きっとこれをきっかけに、町も国も活気づくでしょう。」

「私からのお願いがあります、あの歌、アメージング・グレースといいましたか、あの歌をお願いします。」
「この疲弊したカルシュには、あの女神のお言葉のように思える歌が、必要なのです。」

「必ず歌います、幕が上がった時に歌うつもりです。」
「それは嬉しい、楽しみにしています、これから忙しくなります。」
「なにせ人手が足りません、公演には事務処理が膨大にかかるのです。」
 たしかに経理なんか大変でしょう。

 私はエリーゼを支配人に紹介しました。
「この方は、イシュタル女王陛下の寵妃のお一人ですが、算盤と簿記ができます。」
「それで私のために、イシュタル女王陛下が手伝うように命じられて、一緒に来てもらった方です。」

「エリーゼです、イシュタル女王陛下の命ですので、お手伝いいたしましょう。」
「それは助かりますが、算盤と簿記ができるのですか?」
「この二つは、カルシュの学問の府でも最新の学問と聞いています。」
「さすがはイシュタル女王陛下の寵妃の方、優秀な方がそろっておられるのですね。」 

 この頃、世間では『チョーカー』が認識されているようです。
チョーカーをつけている女が『寵妃』、私が節操なくものにした女性……そんな風に思われているようです……ただ『寵妃』となれば、大変尊敬されるとか……
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