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第六十五章 情事日程その二

03 私は鬼ですか!

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 そしてまた次の日、アルジャに飛んだ私は、フローラさんに迎えられました。
 フローラさんは、二人の女を従えています。
 キャンディスとレイチェルですが……
 すこし問題ありの二人でした。

 母娘でした。

 どうしましょう……
 かつてない事態です、私は鬼ですか……
「フローラさん、どのような経緯か聞かせてください。」
 すこし怒りが漂ってしまいます。

 フローラさんを、怖がらすつもりはなかったのですが、そんなに震えなくとも……
「はいはい、怒っていませんよ、小娘ではないでしょう。」
「酸いも甘いも知ってる大人の女でしょう。」

 もともと王族のプリンセス、どこかお姫様が出るのでしょうね。
 リューリックさんがゾッコンなのも、分からぬではないですね。

 プリンセスといえば、アナスタシアさんなのですが、あのド迫力は……
 出会ったころは、深窓の姫君でしたが、私に見せる夜の姿の淫靡なこと……

 フローラさんも、いつかはなるのかしら……
 リューリックさんも、この中々のお尻に、夜も敷かれてぺらぺらの座布団かしら……

 いえ、いまはつまらぬことを、考える時ではありません。
「実はこの二人は……」
「私からご説明いたします。」
 と、母親キャンディスさんが云います。

「私たち母娘は、もとアムリア帝国の侯爵家の者です。」
「先帝ジョージ三世陛下が、リゲルで女たちを、後宮に納める命令を出され、次から次に、納めさせた女を拷問で殺し始めた時、夫はそれを拒絶、すぐに私たちを領地に送りました。」

「リゲルの城門を出たのは昼前、その夜に、夫は粛清され、侯爵家は取りつぶしを受けました。」
「私たちは、帰る場所を失いましたが、幸い実家の兄は一人身で、まだ領地にいて健在でしたので、それを頼り、しばらくはそこで過ごしていました。」

「しかし蛮族が侵攻して来て、アムリア帝国は総動員となりましたが、敗北し、頼りの兄も帰ってきませんでした。」
「そのまま蛮族に領地は蹂躙され、私は領民と何とか山に隠れ住んで、やり過ごしました。」

「動乱が終わり、領地は実家を相続した者に引き渡し、私たちはその片隅に、住まわせてもらっていました。」
「しかしイーゼルの会議で、アムリア帝国は解体、新しく王国が成立しました。」

「私たちの住まう地域は、タリンの領地になり、再び内乱に巻き込まれ、治安が悪化、領地も荒れ果てやっていけなくなりました。」

「なんとか騎士団領に編入され、治安も回復しましたが、領地は再編成され、実家の者も騎士団に志願して、領地を貰いましたが、今までのように私たちを養うことは、不可能に思えました。」

「これ以上の迷惑はかけられません、なんとか実家にも再興の資金が必要ですし、身を売るしかないかと、思いめぐらしましたが、奴隷になれば、亡き夫に合わせる顔がありません。」

「娘も私がいなくなれば、行く末は売られることになります。」
「覚悟を固めつつある時、亡き夫の知り合いだった、リューリック様にお会いでき、このお話を聞きました。」

「もはや覚悟はしております、巫女様の噂はよく知っております。」
「母娘二人、どうせ死ぬなら、代価を実家に残して死ぬのが良いと思い、恥ずかしながらここにいるわけです。」

「フローラさまへのご勘気は、私たちのせいです。」
「どうぞ私たちをお責めください、母娘で苦労しました、終わりも一緒と思っています。」

 また悪しき噂ですか……
「ヴィーナス様、お二人には説明はしたのですが……」

「ご主人とリューリックさんは、親しかったのですか?」
「主人は失礼ながら、リューリック様とは二度ほど決闘騒ぎを引き起こし、当時のピエール総長が、とりなしてくれた仲です。」

「しかしその後は、互いに認め合っていたような気がしました、当時私は、娘を産んだばかりで、詳しくはしりませんが。」
 リューリックさんは、この辺の説明などしないでしょうし、ピエールさんは猶更でしょう。

「私の噂は噂です、女好きは否定しませんが、鬼ではありません、お嬢さん、お歳は?」
「12歳です。」
「すこし聞きますが、この場にいるということは、どういうことか、お母様より説明を受けましたか?」

「黒の巫女様に女を差し上げて、二人でお父様の元へ行きます。」
「私も侯爵の娘、幼いといえど泣きわめきはしません。」
 まったく……感心しました。

 ここまでこのような子供にいわせる教育とは……帝国貴族とは立派というか……
 それでも私も根っこは日の本の民、武士の魂はどうやら私にもあるようです。
 この手の話には、敬意を表してしまいます。
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