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第六十四章 情事日程その一
07 ジャンの恋人
しおりを挟むそんな話をしている時、「ヴィーナス様」とジャン君がやってきました。
「ジャン君、大きくなりましたね、騎士見習いですか?」
「はい、神聖守護騎士団です、もっとも父は、賛成ではないようですが……」
「ジャン君、恋人は?」
と聞くと、恥ずかしそうに下を向きます。
これはいますね、私の感です。
「で二人、三人、どこまで行ったの、お嫁さんに欲しいの?」
「お父様には遠慮しなくてよいですよ、このお姉さんが、良いようにしてさし上げます。」
とてもちいさい声で、
「一人です。」
「食べちゃった?」
と聞くと、頷きました。
「よろしい、相思相愛なら、どこのだれの娘であろうと、貴女の嫁にもらってきてあげます。」
「ヴィーナス様……」
ピエールさんがかなり動揺しています。
「それが売られてしまって……明日、ジャイアールの奴隷市場に……」
「僕は買いに行こうかと思ったのですが……」
「父の名誉を考えると……」
ピエールさんが、
「それはメルケルの娘たちか?」
「はい、父上。」
ピエールさん、唸ってしまいます。
「だれですの、そのメルケルとは?」
「先日、行政府で使いこみが発生し、犯人が自決したのですが、それがメルケルです。」
「確かなのですか?」
「確かです、なぜかというと、メルケルの妻が長く病気がちで、寂しいのか娼館に入り浸り、その遊興費に使いこんだのです。」
「妻はすぐ後を追って自殺、三人の娘たちは、借金返済のために売られるというわけです。」
「メルケルの家は、このすぐ近くでした。」
「ジャン、未来の妻はそのうちの何番目?」
「真ん中です。」
三姉妹の名はアレクサンドラ、アンネローゼ、アマーリアというそうです。
「アンリエッタさん、明日の昼間の予定のホラズムのコーデリアさん、シャヘルの新人のダイアナさんは、コナの日にいたしましょう。」
「たしかこの日は、すこし余裕があるはず、バーバラさんの件は、本人が待ち構えていますので、動かせないでしょうが、この二人の件は動かせるでしょう?」
「手配はいたしますが、ジャンのために、まさか奴隷市場に行かれるのですか?」
「そうですよ、一度は奴隷市場なるものを、見ておかなければね、良い機会です。」
「それにビクトリアさんとアテネさんに、ついてきてもらえば良いでしょう。」
「まぁロキさんの治療で、私はお疲れをだしたといえば、だれも文句はいえないでしょう。」
「ヴィーナス様、愚息のために、その様な所へ行かれるなど、このピエール、見過ごすわけにはいきません。」
「ピエールさん、私は幼き頃に、父親も母親もなくし、姉がひとりで私を育ててくれました。」
「両親の優しさをあまり知りません、それだけに、親の気持ちを大事にしたいのです。」
「お二人は、私にとってサリーさん以外で、初めてエラムで頼りにした方。」
「いまエラムは平和で、多少の私の我儘も聞ける状態です。」
「これが動乱最中なら、見過ごすことになるでしょうが、だから任せなさい。」
「それよりも二人とも、そのアンネローゼという娘、ジャンの嫁、神聖守護騎士団総長で、エラムの首席女官長の家の嫁に、ふさわしいのでしょうね。」
「それについては、私が保障いたします。」
と、アンリエッタさんが云いました。
「では明日は早いので、とにかく神殿へ帰りましょう、ピエールさん、奥さんを借りますよ。」
「どうぞ、夜伽などさせてください。」
「そんなことはいたしません、ご主人に云われれば、なおさらいたしません!」
「ジャン、待ってらっしゃい、必ず連れてきますが、奴隷市場に立つ以上、貞節は散らしているかもしれません、それでも、嫁に所望しますか?」
「アンネローゼの心が穢れるわけではありません。」
と、きっぱりいいました。
「さすがはピエールさんの息子、立派な物言い、よい息子です。」
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