103 / 152
第六十三章 祝福は女苦労に微笑む
08 明星はエラムをいつも照らしますよ
しおりを挟む「皆さんの立場もよく理解しています。」
「でもこの際、私のお願いも聞いてください。」
「皆さんには、理解できないかもしれませんが、このエラムの天文学的な位置は、変えられませんし、変えればこのエラムが、人の住めない世界になります。」
「灼熱地獄か極寒地獄か、どちらにしろ、好ましくありません、奇跡といえる位置にあるから、人が住めるのです。」
「しかしこのエラムの位置と環境は、常に女性が多く生まれる環境にあります。」
「創造の神が、この地を選んだのは、それが理由の一つです。」
「したがって私といえど、一旦成立した、この世界が成り立つ上の、約束事は守らなくてはなりません。」
「本来私は、一夫一妻の世界に存在していたものです。」
「ですからどうしても、このエラムとの風習になじめず、皆さまには多大のご迷惑をかけています。」
「しかし幼き頃より、その制度の下で、疑うこともなく生きてきた考えは、おいそれとは変えられませんが、努力は続けます。」
「これからも、皆さまには、その辺を配慮していただき、私がエラムで生きるすべを、教えてください。」
シルビア女官長が、
「皆さん、巫女様もこう云われています。」
「巫女様の御心も考慮しながら、これからも何とか調整しながら、やっていきませんか?」
と、云ってくれました。
パリスのエリザベート女官長も、
「私たちは巫女様に仕える者として、巫女様がこのエラムに、末長くお住まい戴けるように、努力いたしますから、どうか私たちをお頼りください。」
「ありがとう、皆さん、では日取りの件、よろしくお願いします。」
皆さんが帰った後、一人残ったアンリエッタさんが、
「ヴィーナス様、いえ黒の巫女様、私たちは皆、巫女様の奴隷です。」
「巫女様の世界では、奴隷というものは、あってはならない者らしいとは、愛人の方から聞き及んでいました。」
「しかし私たちには、古来よりの風習制度、巫女様と同じく、おいそれとは変えられません。」
「宰相がたも同意とは思いますが、奴隷制度がなければ、奴隷が余り食糧不足になる。」
「人が奴隷を食べる、そんな家畜制度が復活しかねません。」
「それでは、このエラムは、人の世界とはいえなくなります。」
「この話は禁忌で、決して口にしてはいけない話です。」
「多くのエラムの人間は知りませんが、私とピエールが隠れ住んでいた教会の古文書に、書かれていたのを、読んだことがあります。」
私はアンリエッタさんの口に、指を添えました。
「その話は知っています、でも過ぎたこと、私が復活などさせません、でも危なかったのですよ、あの南部の状態は。」
「しかし今はにがり草があります、そんな飢饉は、よほどのことがなければおきません。」
「諮問会議と百合の会議がしっかりしている限り、エラムは何とかなりますし、何とかします、でしょう。」
「私は不安で、こんなエラムを、ヴィーナス様がお見限りにならないかと……」
「アンリエッタさん、幾度もいっていますが、私はエラムに嫁いだとおもっています。」
「私はだれかといわれたら、ヒロト・ヴィーナス・イシュタル・アフロディーテ・イナンナ・ウェヌス・アウシュリネ・アウセクリス・アッタル・シャレム・ヴァカリネ・アナーヒター・キッカワと名乗るしかありません。」
「ヴィーナスからアナーヒターまで、すべて愛と豊穣の女神の名です、すべては明星の意味を持ちます。」
「アンリエッタさん、本当にこれだけはお約束できます。」
「私は、エラムの人々が好きなのです。」
「私を愛してくれる、エラムの人々、この人々を私は愛します。」
「どうして愛したものを、見捨てることができましょう、貴女は愛しているジャンを、見捨てられますか?」
「私はエラムに転移する前は男でした、男は女を守るもの、この父の教えを、たがえることはありません。」
「皆さんが私を追い払うのなら、仕方ないでしょうが、エラムの黒の女神は、約束通り私を、エラムに送ったでしょう?」
「事実どうあろうとも、神話の約束は守られたのです。」
「もっとも黒の女神って私の姉、イシス姉さんではありますが……」
「だからアンリエッタさん、そんなに子供がする、不安そうな顔をしないでください。」
「私の女神の名に懸けて誓いましょう、明星はエラムをいつも照らしますよ。」
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる