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第六十三章 祝福は女苦労に微笑む
04 我が息子ウィルヘルム
しおりを挟むさて、レムリアの反応はどうでしょうかね、政治的には文句は出ないはずですが……
問題は、ヘタレのウィルヘルム君が、どう口説くかです。
お膳立てはしますが、男らしく女心を射止めてもらいたい、母代りとしての私の本心です。
エーデルガルトさんに、
「モルダウのウィルヘルム王が、レムリアの女官を貰い受けたいと云っていますが。」
といいますと、「だれでしょう?」と聞かれ、その娘の名をあげました。
「十三歳ですか?で、どのような理由で、この娘を貰い受けたいと?」
「好きなんだそうです、でアリアドーネさんが何とかしたいっていいまして……」
「女官本人はどう思っているのでしょう?」
「それが伝えていないそうです。」
エーデルガルトさん、大笑いをしました。
「モルダウ国王たる方が、うぶですね。」
「寄こせといえば、ヴァカリネ様が反対されない限り、それで済んでしまいますのに、ヴァカリネ様が反対されれば、何をしても無駄ですし、そうですか、恋をしたのですか。」
「ヴァカリネ様としては、どうされるおつもりですか?」
「本人しだいでしょう、私としては下賜は避けたいのです。」
「でもそれが一番手っ取り早いのでは?」
「そもそも女官は奴隷ですので、ヴァカリネ様の意向に、奴隷の気持ちは関係ありません。」
「しかしね、ウィルヘルムは私の息子でもあります。」
「その想いの相手を抱いて、飽きたからお前にやるというのはね……」
「私としては、ヘタレのウィルヘルムに、男の甲斐性を見せて欲しいのです。」
「告白ぐらい一人でして、女心をですね、鷲掴みにしてもらいたいのです。」
「でも殿方と、顔を合わせる機会の無い女官、十三の新任の女官に、外へでる許可は出していませんし……」
「どうして王は、その娘をみそめたのでしょうか?」
「私が時々、ウィルヘルムに会いに行く時、その娘が一度随行したようです、その時でしょう。」
「とにかくもう一度、その娘に随行を命じて、ヴァカリネ様がウィルヘルム王子に会いに、モルダウに出かけることを勧めます。」
「そしてなにか理由をつけて、半日ほど二人だけにすればいかがですか?」
「その間に王には頑張って、口説いてもらいましょう。」
「女官をものにしたいのですから、半日ほどで、何とかしていただかなくてはね……」
「そうですね、明後日あたりに、モルダウへ行きましょうか、その心積もりでお願いします。」
「お任せを、その娘を磨きあげておきましょう、ただ横取りは、王に気の毒ですよ。」
私はそのままハイドリアへ行き、アリアドーネさんに、明後日決行を伝えておきました。
その夜、サリーさんとアナスタシアさんと三人で、まったりとしながら話をしていました。
サリーさんが、
「ウィルヘルム王も可愛いですね……あの子がね……」
と、感慨深げです。
アナスタシアさんが、「母としては落ち着かないのでは?」といいますので、
「正直落ち着きません、うまくいってくれれば、ハイドリッヒに顔向けできるのですが……」
アナスタシアさんが、「愛していたのですか?」と聞きますので、
「わからないのですが、好意は持っていました。」と答えました。
二人ともそれ以上は聞きませんでした。
……
当日、私は渦中の娘さんを連れて、ハイドリアに来ました。
ほっそりとした、目の大きな物静かな娘です。
この娘なら、ウィルヘルムも狼君になれるかも知れません、とてもおいしそうですから。
ウィルヘルムが挨拶に来ました。
側にいる意中の女を見て、パッと頬を染めています。
娘はと、みると無表情です。
これはなかなかの娘さんですね、落とすのが難しそうです。
がんばれ、ウィルヘルム……
「あ、そうそう、クルトさんに用事があるのを思い出しました。」
「貴女、ウィルヘルム様のお相手を、半日ほど頼みます。」
そういって私は、クルトさんの部屋へ行き、立ち入り禁止の札を掛けておきます。
クルトさんが「大変ですね、母親代わりも」と、ねぎらってくれました。
さて、結果はどうなることやら、楽しみでもあります。
ウィルヘルムが食べないなら、私がいただきましょう。
結果は、ウィルヘルムはヘタレということです。
でも、甘ちゃんの私は、二度目のチャンスを与えることに、というより、幾度でも与えたのですが……
でも、なにも云わなかった、云えなかったようなのですね。
本当にウィルヘルムは……困った息子です。
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