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第六十一章 神々の霧の中に
01 だれの思惑なの?
しおりを挟むアナーヒター
イシスさんは私をそう呼んだ……
いままで私は、ただ名を問われた時に、なんとなく夜明けの明星を思い出して、ヴィーナスと名乗っただけです。
その後、問われるままに、金星神とその関係の名前を名乗り続けただけです。
ヴィーナス・イシュタル・アフロディーテ・イナンナ・ウェヌス・アウシュリネ・アウセクリス・ヴァカリネ……
でもいま初めて、他の存在より別の名を呼ばれました。
アナーヒター、ゾロアスター教の三幅の神の一人。
水の女神、あらゆるものを浄化する女神……
力強い色白の腕を持ち、四角い黄金の耳飾りと、百の星をちりばめた黄金の冠をかぶり、黄金のマントを羽織り、首には黄金の首飾りを身に付け、帯を高く締めた美しい乙女……
バビロニアではイシュタル、ギリシャではアフロディーテとも呼ばれ、弁財天とも観音菩薩ともいわれている女神、インド神話のサラスヴァティーとも、同一といわれている女神……
偶然、何気なく名乗ったヴィーナス……
この最初の名にも、イシスさんの思惑があったとしたら……
いったい私はなんなのでしょう……
自分で必死に考え、行動してきたことが、だれかの思惑のままに踊っているとしたら……
愚かなのかも、分からなくなる愚か者が今の私です。
ついさっき、確信して納得して、使命を感じたはずなのに……
たった一言で揺らいでしまう……
私は……
さらに考えましょう、ヴィーナスさん、薄っぺらな頭という安い雑巾を絞って……
イシスさんは確かに、神と呼んでもいいような存在、いや確かに女神様なのです。
でもイシスさんといえどアスラ族、神と呼んでもいい存在ですが、神ではありません。
どこかに最初があったはずです。
イシスさんも、どのようにか知りませんが、どこかで生まれたはずです。
だとすれば、どこで使命を知ったのか?
いまも存在しているイシスさんである以上、何らかの始まりがあった。
始まった時点で、使命を知っていたのか、でもそれならば、イシスさんも何かの思惑ゆえに、使命を刷り込まれたことになりはしませんか?
ならば最初は知らなかった、でも知った、としましょう。
しかしどうして、その使命を感じたのか、生存の過程の中となります、ではその過程はどうして……
考えれば、この過程でも、何者かの思惑が影響するかもしれません。
イシスさんは望めば無限の命があります。
終わりは自分で選べるでしょうが、始まりは選べません。
だれかが始まりを計画したとしたら……イシスさんが私にしたように……
イシスさんの前任者が……
無限のループが続いているのかも、死と再生を繰り返して……
いったい何のために……
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