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第五十四章 北の戦い
01 出撃用意
しおりを挟むキリーはいまや、ジャバ王国海軍の一大根拠地となっています。
もともと小さいといえど港町だった所、船乗り同士とあって、海軍さんと町衆は結構うまくいっています。
キリーは狭い入り江の、奥深くにある天然の良港、大艦隊も停泊できるほどの広さがあります。
港は大拡張されていて、いまや大陸でも有数の港です。
そのキリーの港に、多数の船が帆を休めています。
ジャバ王国海軍の新鋭船、日本前型(ミスツィス型)、通称、『女王のベッド』と呼ばれている船で、エラムで初めての外洋帆船。
何故この名が、と聞きますと、船の横揺れ、ローリングが、ゆりかごのように心地よく揺れるという意味だそうです。
しかしね、私のベッドですか。
この船には、多数のバリスタが装備され、船首水線下には衝角(ラム)を装備しています。
衝角(ラム)とは、最後に体当たりして敵を沈める装備です。
このためこの船は、船首がすこし改良されています、それにしても大艦隊です。
そこへいま、一隻の船が入ってきました。
ジャバ王国海軍総司令官になったギルベルトさんの旗艦、新・カティサーク号です。
北方列島の海上封鎖を指揮していましたが、打ち合わせのために単独で帰ってきたのです。
ギルベルトさんが、栄誉礼を受けながら下りてきました。
ちょっといい男っぷり、某歌劇団の男役……
「イシュタル女王陛下、ただいま戻りました。」
「ご苦労さまです。」
「大怪我を負われたと聞きましたが、大丈夫なのですか。」
「芳しくないのですが、あまり寝てられないのです。」
「もう少し時間をかけたかったのですが、いけいけの声がうるさいので、まぁ潮時かと思いまして。」
「余裕ですね」
余裕ですよ、なにせ化け物ですから私……
「この船はどうですか?」
「いいですね、初めて外洋にでましたが、羅針盤というものがありますので、進行方向が分かります。」
「陸地が見えなくても、戻ってこられるのは便利なものです。」
「この船は外洋帆船と聞いていましたが、このような装備を目のあたりにすると実感します。」
「航海術も、イシュタル様がお指図してくれたとか、聞き及んでいます。」
「船体も大きいので、海上封鎖も何ということはありません。」
「現在、我々はこの町を根拠地として、大陸沿岸を哨戒しています。」
「キリーの町の若者は、大変有能で協力的です。」
「出来ましたら何らかの褒美を、イシュタル様から下賜していただきたく、お願いします。」
「そうですか、善処します。」
「貴女に戻ってもらったのは、ここに集結中の艦艇を指揮して、北方列島の艦艇を打ち破ってもらいたいのです。」
「私たちが知るのは、四つの島の名と、その首都の名前、そして島々に囲まれるダーナ内海の名前だけです。」
「どうして敵を引きずりだすのですか?」
「このキリーに近い方の一番小さい島、ムリアス島を制圧します。」
「その時、もし敵艦隊が全力出動してくれたらしめた物、敵艦隊を殲滅してください。」
「もし出てこなかったら、ムリアス島を根拠地に、ダーナ内海を小型船であらし廻って、内海航路を寸断します。」
「さすれば敵は、外洋側の沿岸に連絡航路を求めるでしょうが、貴女の海上封鎖でそれもままなりません。」
「こうなれば、嫌でも敵は全力で海上戦力を投入、打開をはかると考えます。」
「このたびは敵も必死でしょう、海戦の帰趨が勝敗を決めます。」
「私たちとしては、敵の海上戦力を全滅させて、初めて本格的に上陸、敵地を制圧するつもりです。」
「しかし、上陸作戦は……ウミサソリキングは大丈夫ですか?」
「対策は考えてます、効果も確認済みです、おかげで大怪我しましたがね。」
「とにかく前哨戦として、ムリアス島制圧作戦を発動します。」
「ジャバ王国女王イシュタルとして命じます。」
「王国海軍は、全力でムリアス島制圧作戦を支援、敵艦隊がもし出てきたら、これを殲滅するように。」
「作戦開始まで十日の余裕がありますので、封鎖艦隊をこの新手の艦隊の一部と交代させて、休養と整備を命じてください。」
「私の読みでは、初動から敵は全力で決戦を挑んでくると思います、そういう相手です。」
「敵を評価されていますね。」
「ギルベルトさん、貴女もそう思いませんか、海兵隊の戦いぶりや、ガルダでのあの引き際の見事さ、堂々と戦ってくる敵は、尊敬されるべきでしょう。」
「さて、私はまた入院生活です、このキリーのナイチンゲール看護婦人会病院にいますので、何かあったら来てください。」
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