惑星エラムより愛をこめて 第四部 野良アンドロイド編 【ノーマル版】

第五十五章 黄泉比良坂(よもつひらさか)

八雷神（やくさのいかづちがみ）

　八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を相手にするとはね……
　お酒はないけど退治しますか。

　しんどいのに、また仮想制御戦闘能力を使わなければならないようですね……
「八雷神（やくさのいかづちがみ）よ、そこまで悲しい姿になることはない、汝らの旅路もここまでだ」

　私は分身しました、八体にね……便利ではないですよ、精神がボロボロになるのですから。
　でも、決着つけなくてはね。

　ここは多少広い場所、私の愛用の武器で相手してくれます、といっても短い電撃杖ですが。
　巨大な放電はできません、通路を壊す恐れがあります。
　そこで私はアーク放電を利用します。

　この電撃杖は、アーク放電を自由にムチのように扱えます、しかも極めつけの威力があります。
　触れれば鉄でも何でも切れてしまいます。

　蛇にはこれで十分、切り刻んでくれます。

　赤く輝きながらアーク放電は空を斬ります。
　図体を大きくしたのが間違いなのですよ。
　首と尾の素早い攻撃を交わしながら、放電ムチを振り回し防御陣を作ります。
　一瞬の隙をつき、ムチが長く伸びます。
　バチッと音がして、首が一つ切り落とされました。

　私は次々と首を切り離します、切り離された首はしばらくすると、八雷神の身体に戻りますが、胴から切り離されていました。
　四体が動かなくなり、合体は解除されて、元の八雷神に戻りました、それでもまだ四体……

　残った四人は剣を抜きました。
　私のムチが襲いかかりますと、襲われた一人が切り刻まれながらも、ムチを巻きとりました。
　自らの身体を犠牲にして、私のムチを壊したのです。

「マスター、これをお使い下さい！」
　深雪さんが、でっかい剣をほうり投げてきました。
　よく持ってきていましたね。

　バスタードソード――両手持ち、片手持ちの両用の剣で切るも突くもできる剣、ウィキメディアより――です。

　八雷神の五人を始末しましたが、三体一の戦いです。
　私は三人相手に、今度はバスタードソードで戦うことにしました。

　小雪さんと深雪さんが、助太刀に出ようとするのを眼で止めながら、私は剣を交えています。

　しかし、疲れてきましたよ。
　これは勝負を急いだほうがいいでしょう。
　私は仮想制御戦闘能力を解除します、というより維持できなくなりました。

　一人が斬り込んできます、剣でこれを受けると、間髪を入れず、もう一人が斬り込んでくるし……
　相手はこのバスタードソードを、両手剣と思っているようです、これってでっかいですからね。

　余裕があまり無くなって来ました。
　大雷（おほいかづち）攻撃を剣で受けた、その隙を突いて来た相手に、私はバスタードソードを片手で持ち、開いた手で、得意の手刀を突き入れました。
　確かに腹を貫きましたがこの相手、少し笑いました。

　彼女は腹に突き入れられた私の手を掴んで、
「掴んだぞ、大雷（おほいかづち）、せめてルシファーの腕一本、切り落としてくれ、あの世の土産にする！」

「黒雷（くろいかづち）、でかした！」
　大雷（おほいかづち）の剣が、私の腕に振り落とされます。

　でも切り落とされたのは黒雷（くろいかづち）、私は突き刺した黒雷（くろいかづち）を、そのまま手前に引いたのです。

　我ながら、とんでもない馬鹿力とは思いますが、火事場のなんとやら……腕は大事なものでね、あげられないの。

　私は黒雷（くろいかづち）を貫いていた手を引き抜きました。
　ここのアンドロイドは血を流しません、潤滑油のような物を流します。
　身体から涙を流しているのか……

「無念！」
　黒雷（くろいかづち）はそう云いながら、動かなくなります。
　あと二人……

「おのれ！」
　一人が切りかかってきます。
　先程からフェイントの囮となっている者です。
「名前を聞いておこう」
「折雷（さくいかづち）」

「ではさらばだ」
　私はバスタードソードを離し、折雷（さくいかづち）の首を掴んでへし折りました。
　というより、もぎ取ったというのが正確でしょう。
　あと一人……