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第五十二章 ユーラシアの戦い

ロプノール共和国

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 トルファンに衝撃が走りました。
 ナーキッドの兵団は香港から長駆進撃してくるので、ハミに来る頃には、物資補給もとどこおり、疲労していると読んでいたのです。

 だからハミでこれを叩き、共和国としての地位をナーキッドに認めさせる。
 内政不干渉を約束させ、あわよくば貿易を開始する……

「どうするのか!」
「奴らはどうした!」
「なに、いない!」

 ロプノール共和国軍は、ありったけの兵員をハミに集結していたのです。
 その軍が壊滅した今、首都トルファンは逃げようとする市民でごった返しています。

 市民といっても支配階級……
 ロプノール共和国の内部は、少数貴族の独裁体制、寡頭政――有名なのは古代ローマ共和制の時の元老院体制――で、それ以外の国民は全て奴隷、それはアメリカ南部の黒人奴隷なみの扱いです。

 ロプノール共和国の国民は、何らかの貴族の支配下にあり、生きるも死ぬも、そう婚姻生殖、全てにおいて支配されているのです。
 そしてその貴族たちは余っている奴隷女を、自爆婦人兵として供出したのです。

 逃げ出すのは独裁貴族ばかり、残るのは奴隷、そして蔓延する盗賊……

 近衛師団はトルファンに無血入城、すぐに治安回復と占領政策をするハメになりました。
 長谷川司令官が、「ミコ様、どうすれば……」
 この人は根っからの武人、とても占領行政などはできそうもありませんし……一人いましたね……
「高倉雪乃さん、任せました、後はお願い!」

 ものすごく文句を云われましたが、しばらくの間ということで、なんとか引き受けてくれましたが……
「ミコ様が適任でしょう、悪辣さでは宇宙一なのですから!」

 酷いことを云いますね、ならこう言い返してあげましょう。
「現地の女を調達するまでです、しばらくの辛抱ですよ」
「ミ・コ・さ・ま……!」

 華宮洋子さんといい高倉雪乃さんといい、日本のプリンセスはお淑やかなはずでは……
 私の周りの女たち、皆が皆、怖くなるのですよね……どうも尻に敷かれてしまうのです……

 私たちはしばらく、トルファンに駐留することになっています。
 ミハイロフスキー城からカザフ、タクラマカンを鎮撫しながらやって来る、ヴァンパイア軍団を待っているのです。
 あと3日ほどでここに着く思います。

「ところで雪乃さん、ヴァンパイア軍団が来るまでに、テラのものでない勢力が何処にいるか、調べなければならないのですが、やはり金ですかね」

「……話題をそらすのですか?でも……まずは奴隷女から聞きましょう、一番喋ってくれそうですから」
 すこし矛先が鈍りました。

 膨大な奴隷女から聞き取り調査をしますと、『夜に囁く物』がいるようです。
 奴隷女の中には権力闘争に負けて、奴隷に落とされた者も結構いたのです。
 その者に対しても夢のなかで『夜に囁く物』がいたと複数の報告があるのです。

 特にその様な奴隷女は惨めな状態で、近隣の地域から非合法に手に入れた少年たちの、精を受け入れ子を孕む……奴隷を生産させられているのです。

 まったく、ここでも腹の立つ……とにかく貴族とその一族は全員、奴隷に落としてくれる!

 でもこの国はほっといても、いつかは滅亡するのです。
 テラではボルバキア菌がのさばっているのですから、マレーネさんは、この菌の除菌はしないのです、もっとも私もする気はないのですが……
 抗ボルバキア菌薬は簡単には供給しないのですよ。

 『夜に囁く物』ね……
 北米で活動していたと思われる、『変な噂の女』の他にもいたのですね……

 戦闘用アンドロイドが現れたアメリカには、野良の根拠地はありませんでした。
 だから怪しいのはここしか残っていないのです。

 そしてあの妖精型自爆爆弾ロボット……
 9割の確率で、このロプノール共和国の何処かに、野良の拠点があるはずです。

 エールさんとヴァルキュリヤも、呼んだほうがいいですね……
 オルメカたちは虫相手に忙しそうですし……
 ゼノビアの軍団はヴィーナス・ネットワークの警備を任せいてる上に、いざというときの戦略予備ですし……

 意外に戦力が薄いわね……
 私しかいないではありませんか……まあテラの事ですし……やぶさかではないのですけど。

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