惑星エラムより愛をこめて 第四部 野良アンドロイド編 【ノーマル版】

第五十章 ナーキッドの再介入

人種戦争

　七月下旬、惑星フルーツガールの件で、私たちの注意がそらされている間に、アメリカやユーラシア・アジアなど、ナーキッドが自ら責任の範囲とする地域以外では、状況が悪化を始めています。

　特にアメリカは、ＮＳＭ８８が牙を表し始めているようです。
　西部が全滅状態でも、アメリカの半分は残っているのです。
　その広大な大地で、ナチスの人種殲滅が実行されようとしています。
　相手は非白人、クー・クラックス・クランが主流派になったようです。

　しかし、一方的なジュノサイドではありません。
　なんといっても、白人以外も力を持っているのが、南北戦争時と違うところ。
　アメリカの第二の内戦は、人種間の皆殺し戦争といっても良い状態でしょう。

　アメリカの良識派はマルスに去り、ここにいるのは欲望むき出しの人が大半、その欲望が元々あった人種間の反目と融合して、憎しみが育っていく……

「理想のアメリカを、力強いアメリカを、そのためには彼奴等が邪魔だ！」
　町や村で、人種の集団が形成され始め、それは排他的な色彩を帯びてきます。

　共同体に所属できないものは排除する、帰属する集団が繁栄するためには、より大きな集団に成長していく、そこへＮＳＭ８８が政府として、人種ごとの隔離政策を始めます。
　そしてそれは甚だしい不公平の上に、成り立っていたのです。

　軍は白人以外を、強制的に追い出し始めます。
　憤慨した非白人は、武器を持ちだして脱走を始めます。
　その脱走兵は各自の人種集団の私兵となって、人種集団独自の軍隊が成立、ついに内戦が始まります。

　しかしそれは町や村の中の、人種集団の殺し合いになり、血に狂い始めた男たちは、対立する集団を殲滅すると残った女子供に……

「マスター、いよいよアメリカで暴動が始まりつつあります、町や村で女子供を含めた、殲滅戦の様相を現し始めています」
「マレーネさん、貴女の予想ではどうなります」

「減ったといえど、白人が圧倒的でしょう」
「約５割は白人です、ヒスパニックが２割、黒人が２割、あとの多民族が１割ぐらい……」

「とくに白人と黒人は、相容れないでしょうから、一つの人種が消えてしまうかも知れません」
「白いアメリカになるかと思われます」

「ヒスパニックは、西部に移動できるかとも思われますが白いアメリカに制圧されるでしょう」
「多分ここでは、ジュノサイドを起こさないかと考えられます、被支配民族との認識が勝つでしょう」

「支配民族として君臨するためには、支配される側の民族が必要なのですから」

　どうしたものか……嫌な奴を助けるのは嫌なのですが……
　だってね、この間、アメリカ軍に殺されかけたのですよ。

　その上にナーキッド体制から、さっさと離脱した国、私の愛したアメリカはマルスにありますので……このアメリカがどうなろうと知った事ではない……と言いたい。

「ナーキッドにとっては、関係無いことではありますが、しかしアメリカの黒人が、皆殺しに合うのを見過ごす訳にはいかないし……」
　結局、なんとかしようと腹を固めました。