66 / 83
第七章 夏の教訓
娼婦のカリ
しおりを挟む
その頃、カトマンズのボーダーナート寺院近くの路上……売春婦が客引きをしていますが……
その中の一人が……「女神さま……」とつぶやいています。
あの熱心に祈っていた、姉妹の姉のほうです。
「きっとあの方だったのよ!」
妹の火傷が治る直前、妹の顔を撫でた、美しい女性をチラッと見たのです。
カリと呼ばれているこの娼婦は、カマラリ出身で、妹まで主人が強姦しようとしたので、逃げ出し娼婦になって、妹を養っているのです。
夜もかなり更けてきています。
カリは妹の待つバラックに、帰ろうとしたときです。
誰かが前を歩いています、外国人のようです。
こんなところを歩いていると、さらわれるわ……
二人いるようですが、後姿からしても、どちらも少女といってよいでしょう……
一人は白人のようで、金色の髪と白い肌が、夜目にも鮮やかです。
カリはとにかく、忠告することにしました。
「もし……こんなところを、こんな時間に歩いているとさらわれますよ……はやくホテルにお戻りなさい……」
言ってからカリは、言葉が通じないだろうと思いましたが……
金髪の少女が振り返ります、そして、
「ご忠告ありがとう」
と、完璧なネパール語で応えました。
その少女はじっとカリを見て、もう一人の少女に何か云っています。
すると……その少女が振り返りました。
思わずカリは拝みました。
そして呼びかけてしまいました。
「女神さま!」
と……
クリームヒルトは、呼びかけた女性に見覚えがありました……」
「美子姉様、ボーダーナート寺院で祈っていた、姉妹の方です」
「判っていますが……振り返ったら縁を持ってしまいますので……」
するとスピンクスが囁きます……
「サリー様には内緒にしますよ」
クリームヒルトも、
「出会ったこと自体、縁は発生していると思いますが……神様がおられるのであれば、振り返らなくては……」
ため息をついたような美子姉様でしたが振り返って、「また会いましたね、お名前は?」
と、云っていました。
「カリといいます……また女神様にお会いできるとは……」
「妹のやけどは、貴女様が治してくださったのではと、思っていました」
「それで女神ですか……」
「穢れた身で、御前にいるのは不謹慎なのでしょうが、一言お礼を申しあげたく思っていました」
「穢れた身?」
「私は夜に体を売って、生活していますので……」
「だから何だというのですか、望んだわけでもないでしょう?」
「……望んだのです……妹と生きていくためには……自ら望んで穢れたのです」
美子姉様が優しい顔になりました。
「立派なお言葉ですね……カリさんといいましたね……私に何か願いはありますか?」
「女神さま……お教えいただきたいことが……」
「云ってみなさい、答えられることなら、答えてあげます」
「この世に住まう人々はなぜ、いがみ合い争うのでしょうか……」
「利己特性と呼ばれるもの、つまりは自ら先に良くなければならない、その思いがあるからでしょう」
「なくせないのでしょうか?」
「人の人たる証の一つが利己特性、それゆえに人は進化した」
「では神様は、私たちが争うことを望まれているのですか?」
「利己特性を克服し、さらなる進化を望まれたのでしょう」
ここで初めてカリは沈黙しました。
「どうしました、聞きたいことは終わりましたか、まだ有るでしょう?」
「怖いのです……」
「どうして?明日を知ることがですか?」
「……」
「扉を開いたのは貴女ですよ?」
意を決っしてカリは聞いてみました。
「……神様は私たちを……お見捨てになったのですか?」
その中の一人が……「女神さま……」とつぶやいています。
あの熱心に祈っていた、姉妹の姉のほうです。
「きっとあの方だったのよ!」
妹の火傷が治る直前、妹の顔を撫でた、美しい女性をチラッと見たのです。
カリと呼ばれているこの娼婦は、カマラリ出身で、妹まで主人が強姦しようとしたので、逃げ出し娼婦になって、妹を養っているのです。
夜もかなり更けてきています。
カリは妹の待つバラックに、帰ろうとしたときです。
誰かが前を歩いています、外国人のようです。
こんなところを歩いていると、さらわれるわ……
二人いるようですが、後姿からしても、どちらも少女といってよいでしょう……
一人は白人のようで、金色の髪と白い肌が、夜目にも鮮やかです。
カリはとにかく、忠告することにしました。
「もし……こんなところを、こんな時間に歩いているとさらわれますよ……はやくホテルにお戻りなさい……」
言ってからカリは、言葉が通じないだろうと思いましたが……
金髪の少女が振り返ります、そして、
「ご忠告ありがとう」
と、完璧なネパール語で応えました。
その少女はじっとカリを見て、もう一人の少女に何か云っています。
すると……その少女が振り返りました。
思わずカリは拝みました。
そして呼びかけてしまいました。
「女神さま!」
と……
クリームヒルトは、呼びかけた女性に見覚えがありました……」
「美子姉様、ボーダーナート寺院で祈っていた、姉妹の方です」
「判っていますが……振り返ったら縁を持ってしまいますので……」
するとスピンクスが囁きます……
「サリー様には内緒にしますよ」
クリームヒルトも、
「出会ったこと自体、縁は発生していると思いますが……神様がおられるのであれば、振り返らなくては……」
ため息をついたような美子姉様でしたが振り返って、「また会いましたね、お名前は?」
と、云っていました。
「カリといいます……また女神様にお会いできるとは……」
「妹のやけどは、貴女様が治してくださったのではと、思っていました」
「それで女神ですか……」
「穢れた身で、御前にいるのは不謹慎なのでしょうが、一言お礼を申しあげたく思っていました」
「穢れた身?」
「私は夜に体を売って、生活していますので……」
「だから何だというのですか、望んだわけでもないでしょう?」
「……望んだのです……妹と生きていくためには……自ら望んで穢れたのです」
美子姉様が優しい顔になりました。
「立派なお言葉ですね……カリさんといいましたね……私に何か願いはありますか?」
「女神さま……お教えいただきたいことが……」
「云ってみなさい、答えられることなら、答えてあげます」
「この世に住まう人々はなぜ、いがみ合い争うのでしょうか……」
「利己特性と呼ばれるもの、つまりは自ら先に良くなければならない、その思いがあるからでしょう」
「なくせないのでしょうか?」
「人の人たる証の一つが利己特性、それゆえに人は進化した」
「では神様は、私たちが争うことを望まれているのですか?」
「利己特性を克服し、さらなる進化を望まれたのでしょう」
ここで初めてカリは沈黙しました。
「どうしました、聞きたいことは終わりましたか、まだ有るでしょう?」
「怖いのです……」
「どうして?明日を知ることがですか?」
「……」
「扉を開いたのは貴女ですよ?」
意を決っしてカリは聞いてみました。
「……神様は私たちを……お見捨てになったのですか?」
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
捨てられた転生幼女は無自重無双する
紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。
アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。
ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。
アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。
去ろうとしている人物は父と母だった。
ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。
朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。
クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。
しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。
アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。
王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。
アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。
※諸事情によりしばらく連載休止致します。
※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。
桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる