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第三章 エッダの物語 招待状

ザッハトルテに紅茶はいかが?

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 美子さん、壁の花を決め込んでいたエッダに、つかつかと歩み寄り、
「私と踊っていただきたい」
「えっ、まさか、喜んで♪」

 優美に踊る二人……ただエッダの背中に、羨望と嫉妬の矢が……

 ……この程度、反対に快感だわ……
 この瞬間、エッダは大人の女性になったのです。

 休んでいたエッダにヘディが、
「いま踊っていた相手はだれ?形容しがたいほどの美しい方だったけど……まさか……」

「あの方に心を奪われたわ♪」
「エッダ!」
「だって、ミコ様ですもの、わざわざ男装してきて下さったのよ♪」
 
 母娘がそのような会話をしている頃、美子さんはディアヌと踊っていました。

「美子様、あとでアリシアが文句を云うでしょうね」
「仕方ないでしょう、近々にディヴィトソンの主催する舞踏会に出れば、文句も収まるでしょう」
 
 美子がディアヌと踊り終わると、シャルル枢機卿が近寄ってきます。
「では先ほどのお約束、このリストの娘と、踊っていただきます」
 そう云いながら、顔写真付きのリストを渡しました。
 肩をすくめる仕草の後、美子さん、次々と誘っています。

 エッダは、美子が次々と相手を変えながら踊っているのを見て、心穏やかではありません。
 ……ディアヌさんならいいけど……なんで見ず知らずの女と踊っておられるの……

 へディも心中穏やかではありません。
 淑女然としているディアヌに比べて、エッダがあまりに小娘に見えるのです。

 ……並べばエッダは小間使いに見えるわ、これでは引き立て役じゃないの、何とかしなくては……

 ディアヌにない魅力……そういえばエッダがいっていたわね……難しいお話の相手は、ディアヌさんやアリシアさんでも無理なのって、エッダは本が好き、そしてその知識を活用できる力がある……

 そうよ、女の魅力を身につけて、知的な会話をミコ様とできれば可愛がってもらえる……
 そうよ、女の魅力なら、ディアヌにはかなわないけど、会話なら太刀打ちできるのではないから……そうよ、それよ♪

「エッダ!会話よ!貴女は知的な会話で勝負すればいいわ、そのあたりに磨きをかけるのよ!」
 この後、長々と美子さんの寵愛を得る為の、ヘディなりのノウハウを伝授していました。

「そろそろディアヌさんのところへ行ってくるわ、何といっても、私の上司でもあるしね」

 その頃、美子さんはシャルルさんのご指名の相手と、次々と踊っています。
  
「シャルルさん、このあたりで良いでしょう、ドイツの範囲をかなり逸脱していますよ、貴方たちの計画が必要になるとは決まってはいないのですからね」

「とにかく枢機卿、エッダ達を頂いた以上は、かかわりを持った相手は何とか致します」
「チェコ、スロバキア、スロベニア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア……かなりお美しいご令嬢ばかりですが、危険な雰囲気が漂ってきましたのでね」
「ディアヌさんやエッダさんに抓られそうですし」

「あと一つ、クロアチアの生徒と踊っていただけませんか?」
 美子さん、ため息をついたようでしたが、
「私と踊っていただけませんか?」
 と、誘いました。
 

 その後、踊り終わった美子さんは、殿方たちと談笑していた、シャルル枢機卿のところへやってきて、
「クロアチアもですか、枢機卿も大変ね、例の計画、不必要になればよいのにね、さてギャラリーの殿方たちも、満足されたでしょう」

「出来ますれば、受け取っていただきたいものですが……」
「私は紅茶が好きなのですよ、でもね、時々似合わないお菓子を出されるの」
「しかし今回のザッハトルテは、私の紅茶に合いました、好みのお菓子を作る地域は、大事にしたいものです」
 そういうと、枢機卿や殿方たちの安堵の顔に送られながら、すたすたとエッダとディアヌの元へ。

「お嬢様方、そろそろ舞踏会も終り、この後私とお茶でも致しませんか?」
「喜んで♪」

 両手に花の状態で美子さん、ホテル・ザッハーへ、どうやらディアヌさんも、このホテルへ泊っているようです。
 ロッシチルド財閥の力で、何でもありなのでしょうね。

「さて、有名なザッハトルテでも頂きましょうか♪」
「でも、お飲み物はコーヒーになりますが、よろしいのですか?」
「勿論、紅茶でね」
 エッダとディアヌはウィンナ・コーヒーでしたが。
  
 このオリジナルザッハトルテは、美子さんの紅茶に合ったようでした。
 そのおかげか、オーストリアはマルス移住の時、かなり優遇されたのです。
 ザッハトルテをマルスに持ってくるために……

  FIN

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