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第十章 エラム航路
エラムの平和
しおりを挟むところで、なんでヴァルキュリヤチームがついてくるの?
ブリュンヒルデさんが、
「薫様のご招待です、エラムを見て、本来のミコ様を知り、以後の警備の参考にするようにと」
意味がわかりません、本来の私?
まぁ、知りたいならどうぞ、なにも隠すことなどありません。
惑星エラムの、第二衛星上にあるリリータウンに転移します。
リリータウンは久しぶり、私の街、皆さんのくつろぐ街、いつもアリスさんが迎えてくれる街……
「サリーさん、私の故郷って、この街だったのですね、本当に落ち着きます」
「十年この街で、貴女やアリスさんや小雪さん、愛人の皆さんと過ごしました」
「まだ半年もたっていないのに、懐かしくて……」
私は部屋へ行きました、皆もついてきます。
「このセーラー服、姉が私に持たせ、エラムとテラの座標を確定した服、すべてはこの服から始まったといえる服……この少し散らかった部屋……」
「エラムへ飛ばされる前の、吉川洋人の思い出は、もうここにしかないのです」
「テラに戻って、たとえ日本の私の生まれた土地へ行ったとしても、友達はいないのです」
「この身は女……誰も私とは思わないでしょう、吉川ミコは茜の妹なのですから……」
ふと涙がでました、この十年、ほとんど泣いた事はないのですが……
なにか説明のつかない感情が、胸を突き上げます。
テラではなくリリータウンで、涙が出てしまったのです。
「お嬢様……」
サリーさんが黙って涙を拭いてくれました。
「ありがとう、さあ、いきましょう、私はエラムに嫁いだのですから」
こうしてエラムの神殿都市、シビルの中央神殿の中にある湖に浮かぶ私の家、御座所へ転移します。
『存在の啓示』が輝いているはずです。
なにか歓声が聞こえます。
とにかくシビルの神殿へ行きましょう
きっと待っていてくれる人がいるはずですから……
オルガ、エレン、アグネスの三人、シモーヌとソフィー、イリーナ姉妹、レイラさんもいます。
そして多くのシビルの女官さんたち……
「ヴィーナス様、お帰りをお待ちしておりました」
代表してオルガさんが述べました。
「皆さん、元気でしたか?変わったことはない?」
「何事もございません、でもヴィーナス様がいないと思うと……さびしい限りでした」
ピエールさんとロキさんがたっています。
その後ろには神聖守護騎士団が整列しています。
「皆さん、私の心はいつもエラムにあります、皆さまがいるからです」
「今回は長くはいれません、黒の女神様は、私にもう一つの世界の救済をお命じになられました」
「でも休暇も必要、その時、頭を過るのは、エラムの私の愛する人々の顔です」
「皆さん、集まっていただいて感激です」
騎士団から声が掛かります。
「我らは黒の巫女様の親衛を誇りとする者、巫女様が戦いにある時には、その道をさえぎる者は我らがゆるさじ!巫女様の栄光は永遠なり!」
私は皆さんの為に、シビルの内壁の通路を開かせ、湖畔の奉納舞台で舞いを舞います、そうオディッシーです。
女官さんたちも、ハレムの奥から駆け付け、シビルの人々も鈴なりで……
それを見ながら薫さんが、ヴァルキュリヤチームと話をしています。
「見なさい、人々の姿、そしてヴィーナス様の美しさを」
「美しいだけなら、人々はあんなには集まりません」
「騎士団のあの言葉は本気です、少なくとも、戦闘用と自身で云うならわかるでしょう」
「この星のどこへ行っても、この反応と大同小異、皆ヴィーナス様を愛しているのです」
「その昔、この星はとても貧しく、飢えが蔓延していた」
「危機を乗り切る力もなく、静かに滅亡へ歩んでいた」
「巫女様は、望んできたわけではない」
「このエラムのけりをつけるために、強制的に呼ばれた審判者」
「その昔の終わりを望む者どもと、不利を承知の三度の大戦争を戦い抜き、その都度、陣頭に立ち死にかけるほどの大けがを負われた」
「人々の自主性を信じ、なんとか自らの力で危機を乗り切れるように、尽力されたのだ」
「そのおかげで、テラのような進歩はないが、平和なエラムがここにある」
「奴隷制度もまだあるし、豊かとは言い難いが、それでも人の心は豊かになった」
「エラムはテラとは違う、その星の環境はそれぞれで価値観も違うが、それでも女子供が泣かない世界は、望ましいはずだ」
「テラは形は違えど、エラムと同じような危機にある」
「エラムでも、乗り切るために莫大な人的被害が出た」
「全人口の3パーセント、しかしテラの場合、推測される被害は50パーセント、桁が違う」
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