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第七十四章 深層風景

ルーツがない?

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 この『最後の審判戦争』、キュベレーとの戦いで、私が身につけた力を使って、欲界を虱潰しに探してみました。
 惑星アースに似たような星はいくつかありました、中には本当にそっくりの星があり、アースと思ったのですが……

 惑星に存在する、水素同位体比が少し違っていたのです。
 それと月の大きさが少し違っており、また惑星系がほんの少し違っています。
 そっくりといえども別の星なのです……

 私はマレーネさんより、エラムへ転移する直前のあらゆる地球、つまりアースの知識がインストールされた状態でした。
 だから、地球の水素同位体比も知っているのです。

 私はこの星を、とりあえず『蓬莱(ほうらい)』と名づけました。

 蓬莱(ほうらい)はさておき、惑星アースがない……これはどういうことなのか……
 パラレルワールドであるテラに転移したとしても、今の私の力、欲界の全てを把握出来る力を持ってすれば、惑星アースは確実に見つけることが、出来るはずなのです。

 私はここに居る、しかし故郷はない……滅亡したのだろうか……
 もう一度、念入りに探査してみました。
 ソル星系をも探査の対象にして見ましたが……

 欠片もないとは……どういうこと?

 私の記憶が間違い……ありえないこと……
 いや、ありえる……事実として、現実を組み上げれば……空恐ろしいものが浮かび上がってきます。

 ……

 私という記憶、吉川洋人は存在しなかった……吉川茜が存在しなかったように、吉川洋人もまた幻だった……
 作り上げられた虚像を、私はねじ込まれ。
 そして関係するもの、マレーネさんの電子記憶を操作した。

 マレーネさんは、私について、自分で介入したと記憶している事を、イシスさんがそれを介入した事を知らず、イシスさんは、さらに自分が誰かも知らず、私に介入したと信じていることが、さらに造化三神の思惑だった……

 私という存在を必要としたのは造化三神……

 母から感じたのは神産巣日神(かみむすびのかみ)様の雰囲気、そして父から感じたのは高御産巣日神(たかみむすびのかみ)様の雰囲気。
 これは間違いではなかった……
 造化三神は私に知らせたかった……

 私にはルーツがなかった?
 とんでもない、神ははっきりとおっしゃっている。
 吉川ミコ……神の子と……

 私は作られたのだろう……有機体アンドロイドのように……
 ヒューマノイドの身体を参考に、父と母の特徴を遺伝子として作られた存在……
 だから手鏡とハーモニカが、身近にあったのだ……
 私は守られていたといえるだろう……

 この考えが正しいかどうかは、永久に不明であろう。
 しかし全てのデーターの矛盾は、このことで説明できる。
 ただ最後の疑問は残っていますがね……
 これは私たちには、関係ないことでしょう……
 神の存在理由やその目的など、今のところケセラセラです。

 不思議ですね、イシスさんの時は、あれほど動揺した私なのに、私の時はむしろサバサバしている。
 故郷アースは現実にはなかった……
 ただ私の心の中には存在する……

 姉の茜もイシスさんとして存在する……
 姉と私はどこまでも手を繋いで歩んでいく……幻のあの日のように……

 もう故郷探しはやめましょう……
 誰も幸せにはならない……どうでもいい事実なのです。

 姉さん、手をつないで、歌をうたって帰ろう……
 幼い頃に、私が姉と歩んだ道は、幻でも懐かしい大事な記憶……

 五日目の夕方でした。
 ジェーンさんが心配そうにやって来ました。
「ヴァカリネ様……今日は何も口にされていませんが……少しでもお食事をとってくれませんでしょうか……」

「そうですね……確かにお腹が減りましたね……レストランへいきますか……」
 私はフロントへ電話しました。

「特別室の吉川です、レストランの何処か、貸切にできませんか?」
 電話の相手は慌てていましたが、バーレストランなら一時間後から、二時間ほど貸切にできるそうです。
 あとで人数を知らせると伝え、とにかく貸切にしました。

「ジェーンさん、私の為に、このホテルに詰めている方で、今ここに居る方と、一緒に食事をしましょう」
「悪いけどカミーラさんと藤子さんと協力して、共に食べてくれる方を集めてくれませんか?」
「もし姉を捕まえられたら、是非にと招待して下さい」

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