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第七十四章 深層風景

疑惑 其の二

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 姉は誰なのか……茜がいなくてイシスであったなら、今一度イシスがいなくて……
 ぞーとしました……背筋が凍るような……

 考えたくない……知りたくない……これ以上の真実は知りたくない……
 どこまでも、私といてくれると信じている姉、黒の女神イシス……
 しかも本人は、その事を欠片も疑っていない……

 考えるのはやめませんか?私の心よ……

 私は知らず、顔を手で覆っていました……
 そしてポロポロと涙が溢れると……嗚咽が止まらなくなりました……

 私の嗚咽を聞きつけたのでしょう、山下藤子さんが慌てて部屋に入ってきました。
 私が泣いているのを見て、一瞬固まっていましたが、黙ってハンカチを差し出してくれました。

「……ありがとう……でも……一人にしてくださいませんか……私でも……泣きたい時が有るのですよ……」
「……失礼いたしました……ミコ様……私たちはいつもお側にいます、いつでもお呼び下さい……」
 そういって部屋をでていこうとしました。

 その後ろ姿に私は、
「籐花……本当にありがとう……」
 そう言うのが精一杯でした。

 その後、山下藤子さんは、部屋のドアの前に椅子を持ち出し座り込んで、誰も通さなかったと聞きました。
 誰が何を云っても、「お通しできません」と断固として拒否したそうです。

 私はその後、訳もなく泣きました。
 突然、一人になったような、寂しくて怖くて……
 残酷であろう真実など、誰も知りたくない!
 叫びたくなりました……

 もういいでしょう……私は疲れました……最大の問題は解決し、後を託せる人々もいる……

 その時、サリーさんの言葉が、胸に響きました。
「お嬢様、小雪さんから聞きました……姉上様が必死にお止めしたとか……私たちを置いて行かないで下さい……」

「最早お嬢様を頼っているのは、エラムの女だけではないのです」
「マルスもテラの女も、お嬢様が頼りなのです」

「お嬢様は抱いた女にたいして、責任があるのですよ」
「簡単に楽になっては困ります」

「もしお嬢様が逝ってしまわれたら、このサリーも必ず後を追います」
「私は一度死んだようなもの、死は怖くないのです」

 そうでした……イシスさんは必死で私を止めてくれたのでした……それに皆を置いては……一人だけ楽になってはいけない……

 私の本質、吉川洋人の心が叫びます。
『逃げるな!愛するものを守りぬくのが、お前の義務ではないか!』
 そうでした……私の本質、男の誇り、弱き者を守ること、そして一度決めれば、やり抜く事こそ男子の本懐……
 泣くのは恥ではない……ただそこにとどまるのが恥なのだ……

 とにかく飽きるまで泣きました。
 そして私は、男らしく疑惑を考えぬくことにしました。

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