惑星エラムより愛をこめて 第五部 ヘヴン編 【ノーマル版】

第六十七章 三貴子

三対一 其の一

　三貴子ですか……
　なんともいえぬ雰囲気を漂わせています。
　例えれば、悪しきことと、良きことが入り混じったような……
　物質と反物質が手を取り合っているような、ありえない違和感が漂っているのです。

「我等は、完全体である貴女を倒すために作られた、いわば対ルシファー用兵器、使命を果たす！」
　云い終わらぬうちに、私は素戔嗚尊(すさなる)の眼前まで踏み込みました。
　縮地といわれる、瞬時に相手との間合いを詰める、武術の技です。

　渾身の力で目潰しをかまし、素戔嗚尊(すさなる)の左目を破壊しましたが、しかしこんなものは挨拶程度でしょう。

　月読命(つくよみ)が、重荷電粒子ビームだろうものを、私に向かって撃って来ました。
　といっても、銃などからではありません、空間より突然飛来するのです。

　月読命(つくよみ)は意思の力、念動力で重荷電粒子を近傍宇宙より集めて、私に向けて撃ったのでしょう。
　重荷電粒子を扱う以上、明らかに生体用です。
　私が同様のことをしても、三貴子にはあまり影響しないでしょう。

　これは不利ですね。
　フリングホルニ号のなか、此の様な高エネルギー粒子で、闘うわけにはいきません。
　マレーネさんの本体でもあるのですから……

「サミジナ！後は頼みましたよ、いまよりこの空間を閉鎖します！」

　初めてですが、私の思念波のちからで、ブラックホール空間を作り上げました。
　ナノマシンがあれば簡単なのですが、私専用のナノマシンも起動しない以上、この閉鎖空間を独力で作り上げたのです。

　サミジナには漆黒の闇が、戦っている場を、包んでいくように見えるでしょう。

　三貴子は膨大な重力にも、平然としています。
「これで邪魔者は来ない、ここで破壊してあげます」
「そのまま言葉をかえそう、わざわざ不利な状況に、身を置くとは愚かな」

　そう、この中では飛び道具は無意味、素手の殴り合いになるのです。
　つまり三対一、圧倒的に不利ではあります。
　しかも彼らは機械体アンドロイド、有機体アンドロイドではありません、肉体疲労がないのです。

　とにかく長引かせては、ますます不利になります。
　素手でやりあうわけです。
　幸い私は、空手や日本拳法が使えます。

　とくに日本拳法の『波動突き』に勝負をかけましょう。
　もっとも一切の禁じ手などはありません。
　殺し合いにルールなどはないのですから、古代のギリシャのパンクラチオンのような、『目潰し、噛み付き』もＯＫ、勝たなければ自分の骸が転がることになります。

　三貴子は一斉に掛かってきました。
　素戔嗚尊(すさなる)の突きの威力は凄まじく、一発ガードの上から食らって、かなり身体が吹っ飛んでしまいました。

　かさにかかって踏み込んできた素戔嗚尊(すさなる)に『揚打』。
　アッパーカットのようなものを、顎に向かって打ち抜き、かなりのダメージを与えたようです。
　素戔嗚尊(すさなる)の顎が歪んでいます。

　その一瞬をついて、月読命(つくよみ)の手刀が振り下ろされました。
　その瞬間、『揚打』を撃った右手の親指に、激痛が走ります、見ると親指がありません。

　構わずそのまま『外打』と呼ばれる裏拳で、月読命(つくよみ)の顔を打ちました、多分鼻がへし折れたでしょう。
　同時に下段回し蹴り、ローキックをお見舞いしました。
　多少は動きが鈍くなるはずです。