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第六十四章 天使の策謀

オーナーが月震で転んだ

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 こいつら、ひたすらに打ちかかって来るだけです。
 攻撃ビーム、つまり荷電ビームをぶっ放すだけの、能無し共、なにが天使なのか!

 近接戦闘も出来ぬのに、私にうちかかってくるのは無謀でしょう。
 せめて得意な、遠距離攻撃に専念するため、身を隠して攻撃するということは、出来ないのですかね……

 哀れですね、しかし、生かしては帰しませんよ。
 私は跳躍しました。
 敵は意表を衝かれたのでしょう、反応が一瞬遅れたようです。
 その間に、二体の胴をぶち抜きました。

 もう乱戦、互いにビームや電撃は出せません。
 孤軍奮闘ですが、破壊に酔いそうです。
 その昔、ビクトリアさんが云った言葉を思い出しました。
 血に酔ったと……

 その勢いで、あと三体の頭を叩き壊し、さらに二体は、足で蹴りあげて怯んだところを、電撃杖で胴をぶち抜きました。

 この時、電撃杖がついに折れます。
 即座に私は、小雪さん譲りのダガーナイフ、グリップガードを備えた本格的なトレンチナイフと、大型の30センチはあろうかと思われる、両刃のナイフを両手に持っています。
 あと三人です。

 乱戦を維持するために、三人の中に飛び込み、一人の頭をグリップガードで叩き割り、もう一人は大型ナイフで胸を貫き、えぐっておきました。

 この時、最後の一人に肩を貫かれました。
 大型ナイフがカラッと落ちます。
「あとはお前だけだ、私は片手だ、チャンスは有るぞ」

 その智天使は返事もせずに、飛びかかってきました。
 トレンチナイフが胴を貫いたのですが、この相手、そのまま私にしがみつきました。
「もらった、ともに死んで頂く、私はジョフィケル、智天使(ケルブ)の長(おさ)……」

 そのまま自爆してくれました、50メガトンはありました。
 ロシアのツァーリボンバ――爆弾の皇帝とよばれるソ連が開発した最強の核爆弾――クラスです。

 ナノマシンのフィールド内ですので、何ほどのこともないのですが、さすがに私も無傷とはなりませんでした。
 全身大やけどで放射能まみれ……
 自身で治療のイメージを発動して、放射能汚染を優先して治しましたが、一時間ほどかかりました。

 肩から流れた血が固まったまま、すぐに私は仁科さんのところへ戻り、とにかく治療を始めました。

 その頃には、町は大騒動です。
 ツァーリボンバクラスの爆発で、再び町は大揺れしたのです。

 ブティックから連絡が入っていたのか、私の傷を聞いて驚いたのか、ネイサンさんが奥様をつれて、ブティックにやって来ています。
 ご夫婦で後始末をしてくれます。

 仁科さんを何とかして、とにかく近傍のホテルを手配してもらいました。
 晩餐会は翌日に延期、テレビでは、オーナーが月震で転んで、怪我をしたので、晩餐会が一日延期となったと報道しています。
 まっさきに、サリーさんとエールさんが飛んできました。

「エールさん……あれは智天使(ケルブ)……私はヨミの時のように、記憶データーは壊さないようにした……多分、データーは取り出せないだろうが、それでも一応調べて下さい」
「マスター……そこまで考えて……」

「とにかくヴァルキュリヤたちには、警護を命じてあります」
「ルナ・ナイト・シティの警備用の戦闘ロボットをお借りします」
 と、エールさんが云いました。

「まったくお嬢様、転んだのですか……」
 サリーさん、泣いています……
「どうして……いえ、もう聞きません、いくら私でもわかります」
「お嬢様が大怪我なさるのです、それなりの相手だったのでしょう」

「とにかく今夜はお休み下さい、エールさんが云われたとおり、ヴァルキュリヤたちがお側でお守りしてくれますから」
「大したことはないのですが……ところでお願いがあります……連れていた女は、私のために命をかけてくれたのです、くれぐれも頼みます」
「お任せ下さい」
 この時、私はかなり判断力が低下していたのでしょう、どうなるか予想できたのに……

 そして12月26日には、仁科雅美さんの首には側女のチョーカーが輝き、幸せそうなバラ色に、頬を染めた女になっていました。

 この日、私は痛みを堪えて晩餐会に出ました。
 私の侍女として仁科さんを引き連れてね。
 結構仁科さんは無口なのですが、別人のように明るくなり、そして色っぽくなったのはどうしてでしょうね……

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