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第十六章 神の娘

涙橋

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 まずは真夜中の、日本の川口に転移します。

「菊姫さん、ついてきなさい、ただし何があっても驚かないこと」
 菊姫さんは会津で籠城戦に参加、娘子軍の隊員の、中川梅子を知っているはずです。

 どこへ、と、顔に書いていますので、
「中川梅子に会いに行きます、知っているのでしょう!」
 と、言いますと、驚愕しています。

「彼女は……七年前に死んでいますが……」
「知っていますよ、死霊に会いに行くのです、怖いですか?」
「いえ……」

「では、行きますよ、会津城下の涙橋――ここで娘子軍は戦い、多くの隊員が戦死した――へ」
「お供させていただきます……」

 涙橋……
「中川梅子、菊姫を連れてきた、出てきなさい」
 頭髪は斬髪、白羽二重の鉢巻きをして、青みがかった縮緬の着物に袴をはいて、一人の妙齢の美少女があらわれました。

「菊姫さま……」
 菊姫さんは、ここで涙が止まらなくなりました……

「中川梅子、取引しませんか?」
「私の頼みを聞いてくれたら、体をあげましょう、この後人生をやり直せばいい」
「薄々はわかるでしょうが、代価はひと時の憑代、復活させた貴女の心と体を貸してほしい」

「……菊姫さまの……ご命令なら……それからお願いがあります」
「生き返っても、私は戻る場所がありません……」

 中川梅子さんが、続きを云おうとすると、菊姫さんが、「私が責任を持って、貴女の今後を預かります!」

 菊姫さんは、中川梅子さんを抱きしめました……

「会津のために私たちは戦いました……私は銃撃され……息絶えました」
「妹が首を取ってくれたのですが……薩長の獣たちは……私の遺体を……」

 これには私も憤りを感じます、なんともいえぬ腹立たしさがわいてきます……
 その男ども、殺してやろうかしら……

 菊姫さんはただただ泣いていましたが……
「ごめんなさい……私が殿に、もっとはっきりといえばよかったの!」
「男たちは戦うことばかり、名誉など、何ほどのことがありますか」
「生きていてこその領民、それを守れぬ領主など、恥ずべき輩です」

「私は意見できる立場にあったのに……男たちに任せたら、女子供は泣くばかり……」
「降伏するなら、なぜ最初に降伏しなかったのか……なぜ負ける戦いをしたのか……」
「愚かな……悔やんでも悔やみきれない……もし時が戻るなら……男たちには任せはしない」

 菊姫さんの心の底で、女の幸せは従うことという、『デーヴィー』の本能が崩れていくのが判ります。

 ここへ来て、初めて心の底より、女の優位を望む個体が現れました……

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