惑星エラム 幻のカタカムナ 第一部 パクス・ブリタニカ編 【ノーマル版】

ミスター愛妻

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第十六章 神の娘

魂魄の未練

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 そうするか?
 でもそれでは、私の誓約が守れない……
 これは少々困ったことになったようです。
 いわゆる循環参照状態……脱するには、他所の力が必要です。

 道は一つしかないようです……
 この世界の人が全員でなくていいから、女と男の関係を五分と五分、男女同権の世界にと望む個体に力を貸して、それを憑代(よりしろ)にして、『世界よ、変われ』と思えばいいのですよ……

 しかし、心底からそれを思っている個体はいるのか……

 この世界は『デーヴィー』に満ちている。
 『デーヴィー』は『デーヴァ』に従うことが、本能のようになっている。

 あのクリスティンさんでも、心の奥底では『デーヴァ』の支配を望んでいる……
 私の愛する方々も、どこかで女性優位を望んではいない……

 約束したのですよ、この私は……それを守れないなんて……私の存在理由がないではありませんか!
 考えろ!そして可能性を探せ!

 私は全力で、世界の人の深層心理を検索しました……
 いません……一人としていません……

 この状況を突き詰めて考えると、一つの理由に思い至ります……私自身がどこかで男尊女卑なのだ……
 つまりは、吉川洋人の人格が望んでいるのです。

 その精神の力を糧にしている以上、私の望みが色濃く影響しているのです。
 女を侍らして支配するのを、望んでいるのです……

 この世界の様相が、私が望んだゆえに、それをエネルギーとして『デーヴィー』が現れたと考えるべきでしょう。
 ゆえに『デーヴィー』の理想が現れた……

 私の思考、精神エネルギーが、『デーヴィー』の波長と同調したと考えられます……
 『デーヴィー』の起動幽子を刺激した……

 私がエネルギー源、そして私の精神がスイッチを入れた……
 ヘンリー八世もどきは、それを利用した……
 いや、ヘンリー八世もどきは、私に利用された……

 眩暈がしますね……すべて私の責任ではありませんか……

 何とかしなくては……

 それでも何処かに、イレギュラーはありはしないか、サーベイしてみました……
 すると……一つの弱い幽子に出会えました。
 この幽子は望んでいます……女の優位の世界を、男の優位を否定しています……

 しかしこの弱さは、一度であったことがあります。
 クリスティンさんの時です。
 この幽子は亡霊に間違いありません。
 生娘で殺された?いや戦死しているようです……

 名前は……と、中川梅子……日本人ではありませんか……
 会津で死んだ?ようです、娘子軍の隊員でしょうね。

 これは……この方、この幽子の存在はおかしい。
 すこし前に、私は娘子軍戦死者の残留思念をサーチして、未練を残した魂魄はいないと判断したはず……

 ……この世界は変幻自在なのだ……
 私がいま必要と思ったゆえに、一つの幽子を変化させたのだ……
 私の知る、会津戦争の歴史を参考にして……

 なら、望めばすべてはうまくいくのでは……
 やはり甘かったようです……

 私の深層心理の底で、代価をいただいた女たちの存在を、消し去ることを拒否しています……
 なんとしても出来ないのです……
 私が望んでいた解決方法でしか、私自身が認めないのです。

 今、行うべきことは行動です。
 この人に体をあげて、その体を少し借りなくてはいけません。
 すぐに転移しなくては……
 消えかけているのです、中川梅子さんは。

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