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第十一章 聖夜其之二
テロワーニュ皇后
しおりを挟む「ところで道が違うようですが?」
「宮殿ですよ、ジョージアナ陛下と、二人のプリンセスに、このパンをプレゼントしようかと考えまして」
「後ろの三名にも、奨学金の主がどのような存在か、知る必要があるでしょう?」
ここまで、ラテン語で会話を続けていました。
九八式装甲運搬車は宮殿の前で、衛兵の敬礼を受けました。
このごろは認識されているのです。
もっとも私ではなく、マッケンジー夫人にたいして、認識したのでしょう。
一応止まりましたよ。
すると夫人が、
「アリアンロッド様が、陛下へご挨拶にこられました」
で、そこを通り過ぎて、玄関の車寄せに止まりますと、すぐに使用人さんがやってきます。
「アリアンロッド様が、陛下へご挨拶にこられました」
と、マッレンジー夫人がここでも同じことをいいます。
すると、赤い絨毯が敷かれてしまい、女官さんたちがズラーと並びます。
こんなに大げさにしなくても……私なんか、勝手口からこそこそとはいっても、かまわないのに……
相変わらず叔母様は、お茶を飲んでいました。
取り巻きは、怖そうな叔母様がいるわいるわ……何とか公爵夫人とかね……
「叔母様、つまらないものですが、私が作ったパンです」
「お召し上がりくだされば光栄です」
「アリアンロッドさん、ありがとう、ちょうどお茶をしていたところなの、一緒にどお、そちらの可愛らしい娘さんたちと一緒に」
「皆さん、ジョージアナ女王陛下です、ご挨拶をしなさい」
ちゃんと挨拶できましたね、叔母様も満足気です。
高貴なご婦人方が、カレーパンやジャムパンを食べています。
「叔母様、口元にお気をつけてくださいね」
「おいしいけど、人前では食べにくいわね」
といいながら、お気に召したのか、カレーパンをパクパク召し上がっています。
「アリアンロッドさんにもう一つ、プレゼントをお願いしたいのですが、いいかしら」
いやも何もないでしょうね。
「なんでしょう?」
「名誉格子さんのブレスレットを、もう一つ」
困りました……
私は声を潜めて、
「ブレスレットを付けるということは、秘密を共有することになりますが……」
「いいのです、もうしゃべってしまいましたから……」
「どなたですか?」
「そう、怒らないでよ、マーガレットにも、ものすごくしかられたのですから……、テロワーニュ・ド・モンティジョ」
テロワーニュ皇后ですか……
「これからのフランスの件については、関係するでしょう?」
「たしかにそうですが、テロワーニュ皇后はウルトラモンタニズム――教皇至上主義――、フランスのリベラル勢力から憎まれていませんか……」
「どうなのでしょう、アリアンロッドさんなら、うまくやるでしょう、お願い、かわいそうな未亡人を助けてあげて……」
やれやれ……叔母様にはかなわないわ……
「クリスマス・プレゼントとして、今度だけですよ」
ここで叔母様は大きな声をだしました。
「うれしい!テロワーニュさん、了承してくれたわよ!」
「えっ、来られているのですか?」
テロワーニュ皇后、美貌で有名な方ですが、今48歳、その片鱗はあります、というよりありすぎです。
「つまらぬことをいいますが、名誉職とお考えくださいね」
「息子の邪魔はいたしません、口も挟みません、でも亡き主人の望みをかなえてやってください」
「第三帝政は立憲君主制です、ご理解いただいていますね」
「はい」
テロワーニュ皇后に、叔母様と同じくプラチナのブレスレットを贈りました。
名誉格子で叔母様と同じですから、ダイヤがわんさかついています。
しばらくすると当然ですが、絶大な威力を発揮し始めて、若かりし頃の美貌が、よみがえり始めたようです。
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