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第十章 聖夜其之一

一つの世界をあげましょう

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 東ロンドン伝道会を後に、イーストエンド・オブ・ロンドンを走り抜けています。
 九八式装甲運搬車に三人で乗っていますが、美女ばかりですので、何やら口笛など聞こえます。
 歓迎の意味ととっておきましょう、別の意味のね。

「どこかでお茶でも飲みましょう」
 貧民窟を出たところに、ティーハウスがありました。
 この時代、ティーハウスには、女性が入っても何らおかしくなかったはずですし……

 この頃になると、この女性用軍服は、ブラックウィドゥ・スチーム・モービル社の婦人戦闘団の服と、ロンドンっ子は誰でも知っています。
 しかも美女揃いでも有名です。

 店員さんがおたおたしています。
 なんせノエリ少佐が、フェドロフM1916を構えていますし、エカチェリーナさんも、南部小型拳銃を構えているのですから……

「エカチェリーナさん、その拳銃は護身用ですよ、ここでは必要ないでしょう?」
「綺麗な拳銃ですね、でも、これ、殺傷力があるのでしょうか?」
「即死はないでしょうが、ひるむぐらいはできるでしょうね、要はその間に逃げればいいのです」

「でも私といるのですから、そのような物を構える必要などありませんよ」
「私は愛を交わした相手は、万難を排して守りますよ、私はそうして生きてきましたから」

「代価の考えですね」と、エカチェリーナさんが云います。
「そうなりますね、おかげで、どれだけひどい目にあったか……」
「綺麗な女性に、ついフラフラとちょっかいを出して、ひどい目に合う……どこやらの殿方のようです」

「ノエリさん、ブーディッカ婦人戦闘団の居心地はどうですか?」
「公平に扱ってもらえるだけで満足です」
「できうればチリカウア・アパッチ族や、その他の部族に、救いの手を差し伸べていただきたいですが……」

「このままでは難しいですね……北アメリカ大陸の先住民は虐殺の運命が待っています」
「インディアン移住法が、恥ずべき法律であることは歴史が証明するでしょうね」

「1875年に何とかしなければ、最後の衝突が起こり、貴女たちは虐殺され、残りは強制移住させられ、民族としてのアイディンティティを失うことになる」

「でもね、冷たくいいますが、一致団結もせず、ちまちまと白人を虐殺し、その報復を受けての圧迫の果てですから、愚かというのはどちらにあるのでしょうね」

「……」

「しかしね、私は貴女たちを含めて、1875年には何とか目途を付けるつもりです」
「神は私にそれを強要されました、そしてここにいるエカチェリーナさん達を、いただくことになりました」
「だから私は、何としても、この世界の存続に責任を持ってしまいました」

「ノエリさん、北アメリカ大陸先住民の存続を望むなら、力を貸しなさい」
「いま私は、英露仏米にたいしては、責任を負いました、代価をいただいているからです」

「でもアメリカの範囲の中には、北アメリカ大陸の先住民が入っていないのです」
「一致団結しての請願を、私は受けていません」

「私の見るところ、貴女たちの住む場所は、この世界にはないでしょう」
「しかし私に膝を屈し、代価を差し出すなら、一つの世界をあげましょう、後は自らが開拓すればよいでしょう」

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