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第十章 聖夜其之一
救世軍
しおりを挟む「私、少し外へ出てきますので、マッケンジー夫人、始めていてね」
「いまから26日の朝まで、食っちゃ寝の生活です、たまには羽目を外しなさい」
「どこへお出かけですか?」
「イーストエンド・オブ・ロンドン」
「あそこはダメです!下町ではないですか!危険です!」
「この私に危険があるのですかね?」
「しかし!」
「東ロンドン伝道会――救世軍と呼ばれる前の名称――に用がありますので」
「なおさらダメです!東ロンドン伝道会といえばブース神父、彼は貧民窟にいるのですよ!」
「マッケンジー夫人、アリアンロッド様には、危険など寄っては来ない、念のために私がお側についていこう」
と、ノエリ少佐がいいます。
腰には、物騒なトマホークを二本も差しています。
「なら、私もご一緒いたします」
と、エカチェリーナさんがいいます。
「エカチェリーナ・アレクサンドロヴナ大公女!」
「アリアンロッド様に危険はないのでしょう?なら私がお側にいても、問題はないはずです」
やれやれ、エカチェリーナさん、大胆な……
まぁいいでしょう、危険など、かけらもないのですから。
私もエカチェリーナさんも、ブーディッカ婦人戦闘団の軍服を身に着けました。
ウェイトレスさんたちの視線の痛い事……皆さん、まじまじと、見てくれましたね。
九八式装甲運搬車に乗り、94式3/4t装軌式トレーラーを引っ張って出発しました。
とにかく膨大な新作備蓄戦闘食と、さらに膨大な乾パンと、膨大なジャム類と、膨大な粉末ミルクを積んで、私が運転しながら、イーストエンド・オブ・ロンドンのウィリアム・ブース神父のところへ。
貧民窟は中々のところですね。
靴を履いてない子供たち、道端でなにやらお料理の手伝いをしている少女……中にはさびしそうな眼をした男の子……
アヘン窟も見受けられます。
「まだまだアヘンは野放しですか……身を滅ぼすのは勝手だが民族も滅ぼす……禁止するしかありませんね……」
一応アポイトメントはとっていたので、ブース神父夫妻は待ってくれていました。
「アリアンロッド様、ようこそ、歓迎いたします」
「ブース神父様、約束の物、持ってまいりました」
約束の物とは小切手です、かなりの金額ですよ。
「匿名とはいきませんので、ご了承ください」
「理解しています、ブラックウィドゥ・スチーム・モービル社に神の祝福を」
「これは救援物資です、かなり長く持ちますので、何かの折にお使いください、とりあえずはクリスマスといえど、食事もない貧しい方に、配布されればよいでしょう」
私は長々と食べ方を説明しました。
とくにスープの作り方は、実際に作って見せました。
ブース神父とその奥様は、真剣に見ていましたね。
「このあたりの、食事もとれない子供たちに配布いたします、よいクリスマス・プレゼントになるでしょう」
と、おっしゃっていましたね。
「私もクリスマスの準備をしなくてはなりませんので、これで失礼します」
「なにか私に要件があれば、遠慮なくマーブル・ヒル・ハウスまでお越しください、館の者には申し伝えておきます」
東ロンドン伝道会の関係者の方々が、荷物をおろしてくれました。
「あいにくと、今は私たちも忙しくて……今度はゆっくりとおこしください」
と、ブース神父が恐縮していました。
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